セラムン二次創作小説『Majiで恋する5秒前』
午後7時。夜になり、日が暮れかけた頃。
ほたる達はまだ九助の家にいた。
学校から出た大量の宿題をしに九助の家へと来ていたほたる達。なるるとるるなのおバカコンビが宿題を終えたのは午後5時になろうとしていた時だった。
九助の姉、琴乃の「せっかくだから食べていけば」の一言に甘える事にしたお子様御一行。
食べ終わるとすっかり日がくれようとしていた。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「地獄の宿題祭り、終わってよかった」
「MK5だよー(マジで感謝)」
「タピオカも美味しかったし、チョベリハだよ」
「九助、家に呼んでくれてありがとう」
「その上、昼も夜もご馳走になってしまいましてありがとうございました。お家の人達にもよろしく言っといて下さい」
「父ちゃんも母ちゃんも姉貴も楽しそうだったから、こっちこそありがとな」
九助の家を後にしながら御一行は思い思いに感謝の意を示す。その後を追うように、九助も見送りに出て、彼なりに感謝をする。
「気をつけて帰れよ!」
まだ暗くなっていないとは言え、みんなはまだ小学生。一人で帰るには危ない。
「空野、なるるを送ってあげて!私はちびうさちゃんを送るから」
「僕がなるるさんをですか?」
「ええ、家の方向同じでしょ?じゃ、よろしく~」
なるると家の方向が同じである空野に、ほたるは送るようにと半ば強引に提案し、踵を返してさっさとちびうさと「じゃあね~」と笑顔で帰って行った。
「ほたるさん、相変わらずですねぇ」
「お言葉に甘えて、送って貰っちゃおう!よろしく、ぐりぐり」
「……人の気も知らないで、こっちも軽いなぁ」
うちのクラスの女子は一体どうなってるんだ?とほたるとなるるの異なる態度に、空野は深いため息をついた。
「……じゃあなるるさん、僕達も帰りましょうか?」
「うん」
流れでこうなったからには仕方ない。身を任そうと空野は紳士らしくなるるを送ることにした。
「宿題、手伝ってくれてありがとね、ぐりぐり」
「僕は何も。集まっただけですよ」
「それでもだよ!1人じゃ、絶対しないもん」
道すがら、今日の話を二人でしながら歩を進める。
九助の家からなるるの家までの徒歩は時間にして約20分。そこに加えて、まだ小学生の二人はもう少し時間がかかる歩幅だ。
段々、暗くなって行く。
道のりも半分程来た所で、帰る方向から複数の男の声が聞こえて来た。
空野の咄嗟の対応で、複数人の集団にぶつからないようエスコートされたなるる。注意深く通り過ぎようとしたその時だった。
ドンッ
「痛ってぇ……姉ちゃん、右手折れちゃったよ」
「おお、姉ちゃんいい女じゃねぇか」
「ギャルじゃん!俺、タイプだわ」
「お前ら止めとけよ。怖がってんじゃねぇか。ガハハハハ」
四人組と思しき集団は、明らかに不良と呼ばれる部類に入る輩だった。
そして、わざとぶつかったであろうその内の1人は、明らかにイチャモンをつけようとしていた。
しかし、5月の初めでまだ肌寒いとは言え、露出度高めのお召し物を着用して派手目の見た目のギャル全開の外見のなるる。
それを見た不良集団の1人は、やり方を変え、ナンパに切り替えようとした。
「なるるさん、行きましょう!」
空野が助け舟を出そうと、どうしていいか震え始めたなるるにそう呟く。
しかし、その言葉を不良集団の1人は目敏く聞き逃さなかった。
「おっと、ちょっと待った!」
そう言いながら、歩を進めようとしたなるるの右手首をガシッと掴んだ。
掴まれると思わなかったなるるは、この行動で完全に恐怖に陥り、泣きそうな顔になる。
「そうだよ。俺の右手の慰謝料、払ってもらわないとな!」
最初にぶつかった男が、意味ありげに白々しく参戦して来た。
ぶつかったと言っても少しだけで、骨折するほどでは無い。幾らアホのなるるでもその事は分かっていた。
慰謝料を払うほどでは無いし、持ち合わせも無い。どうしたらいいか、馬鹿ななるるに良い考えが思い浮かばなかった。
「なるるさん!」
今度は先程とは違い、大きな声で空野はなるるの事を読んだ。
そして、なるるのもう片方の手首を取り、グッと空野の方へと寄せようとした。
しかし、小学生の空野よりも年上の不良がもう片方を持っている為、ピクリともしない。
「おおっと、この子は渡せねぇな」
そう言って、なるるを自分の近くへと寄せた不良A。
「顔も可愛い顔してんじゃん!俺好みだわ」
身体を自分自身に向けた事によって、顔もこちらに向いた為、不良Aは顎を上げてまじまじと見た。
小学生とは言え、ギャル姿のなるるはそれなりに大人っぽい見た目に仕上がっていて、年より上に見えていた。
「俺たちの中学にはいないタイプだな」
不良Bは、Aの言葉に同意する。
「上玉に当たってラッキーじゃん!」
「俺たち、運がいいな」
続いてCとDもそう呟き、不敵な笑みを浮かべる。
馬鹿ななるるは、Dの最初の言葉をそのまま鵜呑みにしていた。唯一この中で味方かと思っていたD。止めてくれたのに何故?と恐怖で余計に頭が回らなくなり、目には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうになっていた。
ドンッ
再び鈍い音が鳴り響く。
不良集団となるるは、何があったかと見渡すと空野が不良Aに体当たりしていた。
「なるるさん、行きましょう!」
空野が再びなるるの手を取ろうとしたその時ーーー。
ドカッ
やられた不良Aが拳に力をいっぱい込めて空野の顔を殴り付けてきた。
ドサッ
「ぐりぐり!」
地面に倒れた空野に、名前を呼びながら解放され自由になったなるるが駆け寄る。
「おっと、なるるちゃんは俺らと一緒に行くんだよぉ」
なるるの名前を呼びながら、肩に手を置いて不良Cはそう言った。
名前を呼ばれたことでより恐怖が増したなるるは、完全に泣き始めてパニックになり始めた。
「いやぁー、助けて!ごめんなさい!ぶつかってごめんなさい」
自分がぶつかってしまったことで引き起こしてしまった状況に、なるるはただ泣きながら謝るしかなった。
大きな声で何度も謝りながら泣きじゃくるなるるに、オロオロし始めた不良集団。
その隙に、回復してきた空野は起き上がり、ありったけの力を込めて再び集団にぶつかって行った。
ドンッ
ドサッドサッドサッドサッ
空野が伸びていると思っていた集団は、完全に気が抜けていて、ぶつかった拍子にドミノ倒しになった。
「今です!なるるさん、逃げますよ」
頭の回転が早い空野は、身体を動かすのも早く、またなるるの手を掴み走り出した。
一目散になるるの家へと急いで走る空野は、必死だった。なるるも泣き止んではおらず、必死に空野の走りについて行く。
その間、二人は無言だった。
「はぁはぁ、やっと。着きましたね」
「怖かったぁ。ぐりぐり、ありがとう」
「男として、か弱い女の子を守るのは当然の事ですよ」
当たり前のことをしたまでですとヘラヘラと笑う空野。何でもない風に装っていたが、空野にとってもこんな経験は初めてのこと。
泣きながらもなるるは、空野の体が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
「本当に、ありがとう」
「今回は、ギャル語じゃないんですね?」
「うん」
ギャル語を封印して真面目に感謝の言葉を言うなるるに、空野は少し驚き調子が狂いそうになる。
そんな空野をお構い無しに、チュッと頬っぺにキスをして感謝の意を示すなるる。
「ちょっ、何するんですか?もう、僕は帰ります!」
なるるの思いがけない行動に、思考回路はショート寸前になってしまった空野は、照れ隠しに帰ろうと踵を返した。
「気をつけて帰ってね、ぐりぐり」
帰っていく後ろ姿の空野を見送りながらなるるは、頼もしい後ろ姿に、確かに今までと違う何かを感じていた。
「この気持ちは何だろう……」
まだ小学生のなるるには、それが恋だと気付かなかった。
理解するにはなるるの精神はまだ子供で、まだまだ先の話だった。
おわり