セラムン二次創作小説『旅立ちの日に(はるみち)』
戦いは無事、終わった。
セーラーサターンは覚醒したが、身体を張り命を懸けて僕たちからこの世界を救ってくれた。
そしてその命はもう一度、赤ん坊として一からやり直そうと元気に転生して来た。
みちるの一存でほたるを三人で育てる事になり、この地も出ていくことを決めた。
何でも使用していない海王家所有の別荘があるとかで、そこに行こうと手配して計らってくれた。
「こんなもんか」
立つ鳥跡を濁さずとは言うが、引っ越すにあたって荷造りをしたけど案外と荷物は少なく、すぐに終えてしまった。
ここに引っ越したのは敵の動きを把握し、いつでも柔軟に動いて戦うため。
その為、必要最低限のものしか持ってきていなかった。
「こことも今日でお別れか」
あまり長く暮らしていなかったが、戦いの日々で辛い思い出ばかりが思い出す。
現に今は治ったが、ベランダの扉を見るとあの日の事を思い出し、胸が締め付けられる気がした。
出来ればプリンセスに知られたくなかった。秘密裏に戦いを終わらせたかったし、手を煩わせたくなかった。彼女が前世の辛い日を思い出し、涙を流す姿も……
「未練はないよ。じゃあな」
戦いの日々の思い出の一切をそこに置いて、僕はみちるの家へと向かった。
僕はすぐに荷造りを終えられたけれど、きっとみちるは色々あって大変だろうな。
手伝う気でみちるの家へと入る。慣れたようにみちるの部屋の前に立ち、扉を開けるとそこには予想通りまだ荷造りの最中のみちるの姿があった。
そしてみちるが手に取っている服を見て息を飲んだ。
「みちる、その制服……」
「あ、はるか。驚いたわ」
急に声をかけると気づいていなかったみちるは驚いて僕の方に顔を向けた。
僕はみちるが手に持っている制服の方が余程驚いて息が止まるかと思った。
「それってTA女学院の制服だろ?懐かしいな。まだ持ってたのか?」
と言うかこっちに持ってきていたことに驚きを隠せなかった。
今でこそ僕と一緒に無限学園に通っていたが、戦士をする前に出会った頃のみちるはTA女学院に通っていた。
海王家は財閥で、金持ちのお嬢様が通うTA女学院にみちるも当然通っていたのだが、敵の動向の為に敵地である無限学園へと二人で転入したのだ。
「ええ、何となく捨てられなくて。持ってきてしまったの」
少し申し訳なさそうな顔で答えるみちるに、ギュッと胸が締め付けられ、こちらも申し訳なく思えてきた。
TA女学院はお嬢様であれば誰もが通いたい場所だ。スポーツ以外は興味のない僕ですら知っている都内で唯一のお嬢様学校。そこに通えば周りから賞賛の眼差しを向けられ、持て囃される。
みちるも小学校からそこに通い、学んでいた。
「ごめん、僕の為に……」
戦士でなければ、僕と出会っていなければずっとみちるはTA女学院に通っていたはずだ。
それが戦士をしていく中で僕と出会い、TA女学院を退学して無限学園へと編入する事になる。
勿論、無限学園も中々入れるところではない。何かに秀でていなければ難しい。
けれど、僕たちはたまたま人より優れた才能を持ち合わせていたことにより、晴れて一緒に通うこととなった。
敵地で偵察を兼ねているから楽しい青春や普通の学生生活ではなかったが、戦士として間もない僕の傍にみちるがいてくれたことは何よりも心強く、安心だったことか。
「何を謝るの、はるか。これは私が決めたことでもあるのよ」
「そうだったね」
二人で決めた事だった。
前世の様にしない為に、確実に敵を全滅させる。生半可な気持ちなんかじゃない。戦士として生きる覚悟を持っていた。
「それにTA女学院に通っていたらはるかと学園生活を送るなんて貴重な経験、出来なかったもの。後悔なんて、あるはずないわ」
「確かに、エキサイティングで中々貴重な体験だったよな」
決して楽しいばかりでは無い無限学園での生活だが、みちるがいたから辛くは無かった。
「でも、セーラーマーズ、レイがこの制服に身を包んでいた時は流石に驚いたわ」
「僕もびっくりしたよ。まさかあんな身近にTA女学院に通う子がいたなんてな」
もう目にすることは無いと思っていたTA女学院の制服。それがまさか仲間の一人がそこに通っているなんて考えもしなかった。世間はなんて狭いんだろうとみちると話していた。
「もしかしたら出会っていたのかもしれないわね」
「やっぱり運命に導かれたんだろうな」
これを運命と呼ばず、何と呼ぶのだろう。
こうなる運命だったのだ、最初から。
「レイにはこのままずっとTA女学院に通って貰いたいわ」
途中で辞めたらどれだけ金をつもうが、才能があろうが戻る事が出来ない。それがエスカレーター式の学校の厳しいところだ。
もう戻れないみちるは、レイに最後まで通えなかった自分に代わって願いを託す様に呟いた。
「みちる、それも持っていくかい?」
「え、でも」
「想い出として取っておきなって。僕だってレースで勝った二度と着ないスーツ、未練たらしく取ってるぜ」
ウインクをしながらそう言って心を軽くしてやる。
少々オーバーな言い方だったが、験担ぎのためにも取っているのは本当だ。
「じゃあ、持って行こうかしら」
そう言うと今まで曇っていたみちるの顔はみるみる晴れ渡った。
TA女学院の制服は普通に可愛いからな。捨て難いかったんだろうな。
でも僕たちに子育てしようと言った手前、持って行きたいと言い出せなかったのだろう。背中を押してやると嬉しそうに笑顔を見せたのが何よりの証拠だ。
「あのね、はるか」
「ん?」
「勿論、ほたるの意思を優先したいと思っているんだけど、私、ほたるにはTA女学院に通って欲しいって思ってるの」
私のささやかな夢だとみちるは語る。
へえ、早速ほたるの事色々考えて親になってるじゃないか。
「いいんじゃないか?うん、ほたるのTA女学院の制服姿、似合ってるよ」
「まあ、はるかったら」
早速僕は想像してニヤける。
「さて、そうと決まれば荷造りの再開だ!手伝うよ」
「ありがとう、はるか」
僕はみちるの荷造りを手伝いながらほたる達と過ごすこれからに思いを馳せて胸を弾ませた。
おわり
20231125 エアはるみちオンリー『はるかな想い みちる時』開催記念