セラムン二次創作小説『時を超えたプレゼント(まもうさ)』


八月三日。この日は衛の誕生日だ。

夏休みに入っているこの日は、衛もうさぎも一日中何の予定も無い。はずだった。


しかし、付き合って初めての衛の誕生日は互いに受験生。衛は進学校に通っている為、学校主催の勉強合宿と言う名のうさぎにとっては何の楽しみも面白味も無いイベントに行ってしまい、当日は全くゆっくり祝う事が出来なかった。


うさぎが中学二年の時は知り合ってはいたものの、会えば喧嘩。気になってはいたものの素直になれず、好きであることも認めたくないデリケートな時期。

それでも、何かと助けてもらっていた為、分からないなりに待ち伏せしてプレゼントを渡すと言う大胆行動を取った。


そして今年。衛とうさぎは高校生と大学生になった。今年は勉強も無い。敵も、この前死にものぐるいで倒して平和を取り戻したところだ。

文字通り何の障害も、予定もないまじりっけなしのゆっくり祝える衛の誕生日という訳だ。


ただ一つ問題があるとすれば、それはちびうさの存在だ。いつもいつも衛にベッタリのおじゃま虫。ちびうさが来てからと言うもの、二人でゆっくり出来た試しがなかった。

すっかり免疫力が着いてしまったうさぎ。今回も衛を祝いたいと言うだろうと予想していたから、事前に確認を取る事にした。


するとどういう訳か、今回は遠慮しておくと思いもしない返答が返ってきて、うさぎは驚いた。


「遠慮しておくって、どういう風の吹き回し?」

「あんた達、この前まで敵の呪いで苦しんでたでしょ?」


ちびうさは先程までのデッドムーンとの戦いのさ中で、呪いにかかり苦しみながらも敵と戦っている姿を目の当たりにしていた。

更に衛もうさぎも互いに会う事を珍しく拒んでおり、ちびうさなりに気遣ってのことだった。


「あんたでもあたし達に気を遣う事もあるのね」

「うさぎが鈍感なだけで、あたしは常に気遣いの人よ!」

「あっそ」

「だから、今年はうさぎ一人でまもちゃん祝ってあげて」


まもちゃんにおめでとうって伝えてねとちびうさは続けてうさぎに衛の誕生日を二人で過ごす様に背中を押した。

そんなちびうさにうさぎは雨でも降らなきゃいいけど。等と心の中で不審に思ったが、素直にちびうさの好意を受けることにした。


敵の呪いによって会えなかった衛とうさぎ。やっと平和が戻って来たのだから恋人としての時間を少しでも長く過ごして欲しいとちびうさは想っていた。表向きはーー


勿論、二人で過ごして欲しいと言うのはちびうさたっての本音だ。嘘偽らざる本心。

しかし、ちびうさの心の中は違うことが閉めていた。


 ーーエリオスの事だ。


ちびうさは、この戦いで本当の恋を知った。本気の恋を見つけたのだ。

頼られて嬉しかったし、力になりたいと思った。

こんな気持ちは初めてだった。


しかし、エリオスは戦いが終われば元の世界ーーエリュシオンへと帰って行った。これからは、いや寧ろ今までもだが、中々会えない。


そんな中でもし会うことになった時、うさぎが付いてきたら? そう考えると凄く嫌だと思ってしまった。今まで分からなかったとはいえ、愛し合う二人の間に入り、貴重な時間を奪っていた。

その事にエリオスを心から愛して気づいたのだ。なんて酷いことをしていたのだろうとちびうさなりに反省をし、衛の誕生日は行かないと言う選択を取った。


それに呪いにあって寝込んでいた間にうさぎの誕生日が来てしまっていた。勿論、ちびうさの誕生日も同日。その日、衛は勿論寝込んでいて誕生日を祝うどころではなくて。二人は当然うさぎの誕生日には会うことを出来ていない。

その事に気づき、ちびうさは余りにも二人が不憫だと感じた。


ちびうさは恋をして人を思いやれる様になった。大人の階段を上り始め、そして恋煩いをしていたのだ。


そうとは知らないうさぎは、快く二人の時間を許してくれて、単純に驚いた。




衛の誕生日は夏休みという事もあり、本当は前日からお泊まりをと考えていたうさぎだが、衛からNGが出てしまった。


「気持ちは嬉しいが、ご両親の信頼をなくすわけにはいかないだろ」


と言うことらしく、それもそうだとうさぎは受け入れる事にした。

前日から行く事を決めてしまっていたうさぎは不意に出来てしまった空白の一日。無駄に過ごすのもと考え、ケーキを作ろうと考えた。


[newpage]



そして、待ちに待った衛の誕生日当日。うさぎは作ったケーキとプレゼントを持って家を出た。

衛の家の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。奥の方からスリッパの音がパタパタと聞こえて来た。はーいと言う声とともにドアが開く。


「まもちゃん、来たよ」

「うさ、いらっしゃい」


衛が出てきて、上がってと言われたうさぎはお邪魔しますと言いながら慣れたように準備されていた自分専用のうさぎ柄のスリッパを履いて衛の家へと上がって行く。


「暑かったろ?飲み物用意するから適当に座って待ってろ」

「ありがとう、まもちゃん」


衛に言われ、リビングのいつもの定位置のソファーへと腰掛けるうさぎ。

衛の言う通り、真夏の真昼間の外は暑い。容赦なく照り付ける太陽。灼熱のアスファルトをここまで歩いて来たのだ。幾ら涼しい格好、素足にミュールと言う出で立ちでも暑いものは暑い。


「まもちゃんち、クーラー効いてて涼しい」


天国だとうさぎは涼しさにホッとした。


「マンションの七階だからな。夏はクーラー必須だ。一日中かけてるよ」


うさぎの分のジュースを持ってきてローテーブルに置きつつ、そう話す衛。ナチュラルにうさぎの横に座る。

ありがとうと言いながらうさぎは衛が用意してくれたジュースをグビグビと美味しそうに飲む。


「ぷはぁー、生き返ったぁ~。そだ!お花買って来たんだ。仏壇にお供えと手、合わせてもいいかな?」

「ああ、気を使わせてしまってすまない」

「ううん、あたしがやりたかったから気にしないで」


衛の誕生日のこの日は、衛の両親の命日である。

衛は朝の涼しい時間帯に一人で両親の墓参りに行っていて、うさぎとの約束は午後からゆっくりとと言う事になっていた。

うさぎは一緒に行くと言ったが、大丈夫だとやんわり断られた。その代わりと言う訳では無いが、衛の家に来る途中に花屋によって仏壇に飾る花を適当に見繕ってきた。


「朝はご両親のお墓参り、して来たんだよね?」

「ああ、ゆっくり話したよ」

「今度は一緒に連れて行ってね。お墓に手を合わせて挨拶したいから」


今年は、久しぶりに命日に両親の墓参りと言う事で衛は一人で行くと決めていた。うさぎも同行したかったのだが、それならば仕方ないと諦めた。

しかし、恋人であるのに同行出来ないこと。そして、頼って貰えないことに少し寂しく思っていた。

それに、彼女としておつき合いの挨拶をしたかったのだ。


「でも、楽しいもんじゃないぞ?」

「そんなの分かってるよ!あたしがこの日はまもちゃんの傍に寄り添いたいし、ご両親にお付き合いの挨拶もしたいの」


いつもは笑顔で幼い顔のうさぎだが、真剣な眼差しでどこか大人びた顔で真っ直ぐと自身の考えを主張して来る。そんな顔でお願いされたら、衛も折れざるを得なかった。


「分かったよ。うさにはやっぱりかなわないよ」


参ったなとポリポリと頭を掻きながら快諾する衛。その言葉を聞いたうさぎは見る見るうちに明るい顔になり、笑顔になる。


「ありがとう、まもちゃん」


両親の墓参りに一緒に行ける事になったうさぎは、軽快にテキパキと仏壇の方へ行くと花瓶を取り、ダイニングで水を汲んで花を生けて元に戻し、仏壇の前に正座して手を合わせる。



「さて、まもちゃんの誕生日本番!ケーキ作って来たからローソク立てよ?」


長い時間手を合わせた後、満足したうさぎは本番の衛の誕生日に持ってきたケーキを用意しようと立とうとしたその時だった。



ドテッ



「足が痺れたぁ~(涙)」

「ったく、うさらしいと言うか。最早お約束だな」


長い時間正座していたうさぎは足が痺れ、盛大に転けてしまう。衛が言う様に、最早お約束である。呆れてため息を着く衛だが、手を差し伸べてうさぎを起こしてやる。


「えへへぇ〜、ごめん。ありがとう、まもちゃん」

「気を付けろよ」

「面目ない」


気を取り直してうさぎはケーキを取り出し、ロウソクを立てようとウキウキし出す。


「ジャーン!見た目はアレだけど、ママに手伝って貰ったから味は保証するよ♪まもちゃんの大好きなホールのチョコケーキ♡」

「本当だ、美味そう。だけど、うさ?ロウソク、本当に立てるのか?」


ケーキは衛の好きなチョコケーキ。うさぎが言う通り、見た目は歪だったが普通に美味しそうだ。母親の育子が手伝ったのも安心要素だ。

ただ、ロウソクを立てると言うのは衛にとって恥ずかしく、気が進まない。


「立てるよ!」

「俺、もう19だぜ?」

「何歳だってカンケーないよ!今までそういう事もしてこなかったでしょ?だから、して欲しいの」


6歳で両親を亡くし、記憶もなくして天涯孤独の人生だった衛。普通の子が経験する事を出来ずにここまで来た衛をうさぎが放っておく事は出来なかった。

幼少期に両親にやって貰って経験しているかもしれないが、六歳以前の記憶をなくしてしまっている衛には残念ながら全く覚えていない。

失ってしまった記憶は仕方がないと諦めている。ならばこれからの未来を大切にしようと衛は未来に期待していた。

そう思う様になったのもうさぎと言う愛しの恋人の存在が大きい。


「うさ……」


そういう所、適わないよなと衛は胸が熱くなるのを感じていた。


「さて、出来た!」

「ちゃんと19本あるんだな……」


うさぎがホールケーキに立てたロウソクの数を数えて苦笑いしつつ絶句する衛。

予め用意していたチャッカマンでロウソクに火をつけるうさぎ。


「ハッピバースデートゥーユー」


19本全てに火をつけると、うさぎが定番のバースデーソングを軽快に歌い始める。


「ハッピバースデーディア まもちゃん♪


  ハッピバースデートゥーユー♪


キャーーー!まもちゃん、誕生日おめでとう~~~~~♡」


「うさ、ありがとう」

「さ、ローソク吹いて吹いてぇ~~~」

「じゃあ、行くぞ!フゥーっ」


うさぎに促されるままに衛はロウソクに息を勢いよく消す。


「ロウソク、初めて吹いたけど結構肺活量いるんだな」

「19本だもんね。お疲れ様」

「そうか、少ないとましなんだな」


吹き終わったロウソクを撤収するうさぎ。


「さて、食べよっか!」

「ああ、皿とフォーク持ってくるよ。後、飲み物。うさは紅茶でいいか?」

「うん、ありがとう。あたし、ケーキ切るね。包丁貸して」

「はい。手、切るなよ?」

「もう!まもちゃんのいじわるぅ~」


そんなやり取りをしながら、ケーキを食べる為の用意をする衛とうさぎ。


「はい、まもちゃんの分」

「サンキュー。これ、うさの紅茶」

「ありがとう」

「いただきます」


リビングのローテーブルに衛の分とうさぎの分の飲み物とケーキを用意し、二人はケーキにありついた。


「うん、美味い」

「美味しい」


あっという間にケーキを完食する二人。


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「ご馳走様でした」

「お粗末さまでした。じゃあ次はプレゼントだね」


メインのプレゼントの包みを衛に手渡すうさぎ。


「はい、開けてみて♪」

「ありがとう」


うさぎからプレゼントを受け取った衛は、早速言われた通り包みを開ける。

すると、そこから思いもしないものが現れ、衛は驚く。

入っていたのは、文字がぎっしり書かれたA4の紙三枚。更に梱包された小さな箱のような固いもの。


「これは……“月の土地権利書”“月の地図”“土地所有権の宣言コピー”これって……」

「そう、月の土地だよ」


そう言ってにっこり笑ううさぎ。


「月の王国の血を引く前世のあたし、セレニティからのプレゼントです。勿論、月野うさぎであるあたしがあげたいプレゼントでもあるのよ」

「うさ……セレニティ……」


衛は言葉にならなかった。どう言葉にすればいいのか、分からなかったのだ。


「セレニティの時、ずっとエンディミオンに月に来て欲しいなって思ってたけど掟があって叶わなかったでしょ?いつかあたしが住んでいた月を、ゆっくり見て欲しいなって思ってたんだ」

「俺も、エンディミオン時代、随分と月へ憧れたよ」

「そうだったね」

「覚えてくれていたんだな」

「忘れるわけないよ」


行けないからこそ憧れる。前世での逢瀬での時、互いにそんな話をしていたことがあった。

お互いに一緒に過ごした時間と話した事は宝物のようにキラキラしていた。


「それにね、今はこうしてまもちゃんの地球に住ませてもらってるから。そのお返しでもあるの」

「何だよ、それ。うさは列記とした地球人だよ」

「そうなんだけど。ケジメ、みたいな?えへへぇ~」


前世は月の王国のプリンセス。そんな自分が今こうして地球に住めていることは奇跡だとうさぎは感じていた。

衛の方は、いかにもうさぎらしいと微笑ましくなった。


「その箱も開けてみて」

「そうだったな」


衛はもう一つのプレゼントを開けると、中にはブレスレットが入っていた。


「ムーンストーンのブレスレットだよ」

「これも月か」

「そう、ムーンストーンはあたしの誕生石でもあるの。だからあたしだと思って大切にしてね」

「ああ、ありがとう」


礼を言って、衛はムーンストーンのブレスレットを早速左腕に着けた。

するとうさぎは頬を染めて自身の左腕を上げて見せて来た。


「それって……」

「そ、実はオソロイで買ったの♡」

「お揃いか。嬉しいけど、何か照れるな」

「えへへぇ~~」


お互いのブレスレットを見て、うさぎも衛も照れ笑いする。


「それにしても、土地権利書と宣言書は分かるけど、地図がよく分からないな……」

「あたしは英語が読めないから分かんないや。アハハ」


月に土地勘のない衛。うさぎは英語が分からないと笑い合う二人。


「じゃあ、今から月に行っちゃう?」

「はあ?」


うさぎの唐突な提案に完全に置いてけぼりを食らい、驚く。


「どこか分かんないなら行って確かめるのが一番!ほら、百聞は一見にしかずってゆーじゃん!」


決まり!とうさぎは善は急げと言わんばかりに立ち上がる。

そして、鞄の中から銀水晶が入った変身コンパクトを取り出す。いつも、いつ何があってもいい様に携帯している。


「行くよ、まもちゃん!」

「うさ、本気か?」

「本気も本気!まもちゃんもゴールデンクリスタル一応持ってね」

「ああ」


こうしてうさぎに押し切られるまま、月へと行く事になった衛。

残りのケーキを冷蔵庫に入れクーラーのスイッチを切り、飲み食いしていた食器類を炊事場に置き、月の地図を持ちゴールデンクリスタルを用意する。

うさぎと玄関に行き、靴を履く。手を繋ぎ、うさぎは銀水晶を取り出す。


「月へ!」


そううさぎが言うと、銀水晶は光り輝き二人を包む。同時にその場から姿を消す衛とうさぎ。


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二人を包んでいた光が収まり、姿を現す。

見渡すと、近くにはムーンキャッスルが建っていた。


「わーい、月に無事到着!」

「……本当に又、来たんだな」


うさぎと衛が転生して二人で月に来たのはこれで二度目だ。前回はクインメタリアとの戦いが終わった直後。廃墟で何も無い静かなところだったが、完全に滅びる前と同じ姿形になっていた。

そして、それから約二年。二度目の月は、再び繁栄した時と変わらない姿を保っていた。

うさぎはこれで三度目。最初に来た時は廃墟で何もなく静かで、本当に滅んでしまったことが伺えた。だが今はうさぎの銀水晶のお陰か、蘇ったあの日のまま悠然と輝きそびえ立っている。


「本当に温度が快適に保たれているんだな」


月について衛が最初に感じたこと。それは、地球と違い、温度が快適だったことだ。

日本は今は真夏で暑い。

しかし、ここは過ごしやすい。

かと言って半袖だからって寒いと言う感覚も無い。

これもやはり銀水晶の力によるものだろう。


「東京、暑かったもんねぇ~」


うさぎは苦笑いする。

そして当たり前のように何でも無い風にしている。

これが当たり前の日常と言わんばかりに慣れているうさぎを見て、衛はやはりセレニティの生まれ変わりであることを実感する。


「月の地図、貸して」


感動もそこそこにうさぎは衛が持っていた地図を取り上げ、まじまじと見る。


「えっとぉ~、今はここだからぁ……これはあっち、かな?」


月の地図を見たうさぎは、現在地や衛が得た土地の住所を見てブツブツ言いながら歩き始めた。

その様子を見て衛は驚きながらも、後ろからついて行く。


「あ、やっぱりそーだ!こっちを真っ直ぐ行って」


地図を見ながら慣れたようにその方向へと歩いて行くうさぎ。

ここに暮らしていたのはもう何億年も前と言うのに、まるでこの前までここにいたように生き生きと突き進むうさぎに衛はただただ圧倒された。

やはりセレニティとして肌で覚えているのだろうか。兎に角慣れたように迷いなく進んでいく。


「うさ……いや、セレニティ?」


後ろからその様子を見ていた衛。うさぎのはずが、銀髪のお団子のツインテールに、パールのドレス姿。そしてガラスのハイヒールをはいている様に見えた。それは、かつてのセレニティの姿だった。

まさか?と目を擦り、もう一度うさぎを見る。そこには金髪お団子ツインテールに夏服に身をまといミュールを履いている衛の家に来た時の姿が衛の目に映った。


今のは一体何だったのだろうか?

うさぎが再びこの地で生き生きとしているから、セレニティと錯覚したのか?

それとも一瞬、本当に彼女はセレニティとなったのだろうか?セレニティが憑依したのだろうか?

衛には全く分からなかった。


「で、ここを曲がれば」


そう言いながら一人曲がるうさぎ。

その後を慌ててついて行く衛。

そしてーー


「到着!ここだよ、まもちゃん!早く早くぅ~♪」


その場にたち、両手を上げて楽しそうに後を着いてきた衛を笑顔で呼び、手招きする。

月を慣れたように歩く姿も目的地について衛を呼ぶ姿も、まるで動物のうさぎのように飛び跳ねている様だと衛は楽しそうなうさぎの姿を重ね合わせてふと微笑んだ。


「うさ、早いって」


衛の手から地図を取ってからのうさぎの行動は、地球でのどん臭くマイペースなそれではなく、正に動物の兎の様に早かった。

その圧倒的スピードに、衛は反対に亀のように遅くなっていた。

勝手知ったるところと、そうでないところでは互いにこうも違うのかと衛は感心していた。


「まもちゃん、どーしたの?いつもと違って遅いよ?」

「うさが早すぎるんだって」

「そうかなぁ?」


まるでいつもと変わらないと言わんばかりに、訳が分からず頭の上にクエスチョンマークが幾つも飛んでいる様に見える。


「ここが、俺の居住地……」

「そうみたい」


うさぎに案内され到着した土地に足を踏み入れ、感慨深い気分になる衛。


「これで俺も月の住人か……」

「いらっしゃい。そしておめでとう、まもちゃん」

「うさ、ありがとう」


輝く二人の瞳がぶつかる。どちらともなく顔を近づけ、唇と唇が重なり合う。暫しの恋人としての時間。

二人しかいない。文字通り二人だけの空間で、前世では来る事すら許されなかったここで、唇を重ね愛を確かめ合う。


「うさ、愛してる!ずっと、離さない」

「まもちゃん、あたしも大好き」


暫しの口付けの後、衛はうさぎをキツく抱き締め愛の言葉を囁く。

前世では考えられなかったことだが、今ここでそれが出来る事を噛み締め感謝した。そして感慨深いと改めて感じた。


「うさ、宙を見てみろよ」

「え?」


衛は漸く冷静になり、宙を見上げた。星々がとても綺麗に輝いていた。

うさぎも衛に言われた通りに宙を見上げる。


「うわぁ~、きっれーい!」

「綺麗だよな。それにうさ、あの星見てみろよ」


衛はある星を指差す。うさぎもその方向に目線を送る。


「あの一際輝いている三つの星がデネブ、アルタイル、ベガ。夏の大三角だ。ベガが織姫でアルタイルが彦星」

「あの三つがそうなのね!すっごく綺麗」


まさか月で衛と夏の大三角を見る事になるとは思わず、うさぎは美しさに感動する。


「やっと、一緒に見られたな」

「え?」

「去年、約束したろ?」

「七夕の日に雨降って天の川見られなかった代わりに、晴れている時に見られる夏の大三角見ようって言ってたろ?」

「言ってたね!でも、まもちゃん勉強合宿行っちゃうんだもん!一緒に見られなくて、残念だったんだよ」

「ごめんな。でも、頑張って祝いに来てくれて嬉しかったよ」

「そりゃあ、この世で一番愛する恋人の誕生日を祝いたかったから、無い知恵絞って頑張ったんだよ」


一年前。うさぎの誕生日から不運続きだった二人。していた約束も、すっかり忘れていたが、ゆっくり過ごせる今回の衛の誕生日に漸く約束は果たされた。


「あっ!」

「どうした、うさ?」


突然うさぎが絶叫し、衛は驚いた。


「去年の天の川も、ここで見れば良かったんじゃ……」

「え?」


うさぎの突然の発言に、衛は戸惑う。


「だって、月には天候は無いのよ?雨なんか全く降らないし、東京と違って明るくないから天の川を見るのには条件はいいんじゃないかな?」

「確かに、言われてみればその通りだ」

「でしょ?どーして今まで気づかなかったんだろ……」


何故今まで月に来ると言う発想にならなかったのかとうさぎは衝撃を受けた。

そうだ。ここから地球を見るのも好きだったが、同じくらい星も綺麗に見えるからいつも眺めていた事をうさぎは思い出した。

今まで忘れていた事が今となっては不思議なくらいだ。


「これからは七夕や大切な日に天候悪かったらここに来れば良いね」

「ああ、そうだな」

「ね、まもちゃん?」

「ん?」

「せっかくだから月でデートしない?」

「それ、良いな♪」


うさぎの提案で月でデートする事になった。


[newpage]


又二人でここに来ようと約束して、二人は手を繋ぐ。


「今度はまもちゃんのゴールデンクリスタルで帰ろ」

「出来るのか?」

「さあ?」

「さあって、適当だな」

「まもちゃんの心次第だと思うから、ゴールデンクリスタルに祈ってみると良いよ」


やってみないと何事も分からない。

数日前にうさぎに言われた通り、心次第でコントロール出来るのならやってみる価値はある。そう考え、衛はゴールデンクリスタルを取り出して祈る。

すると、銀水晶と同じ様に光り輝き二人を包む。


次に光がなくなり目を開けると、そこは元いた衛の家の玄関に二人は立っていた。


「戻って、来られたんだな……」

「ね?ちゃんとゴールデンクリスタルは答えてくれたでしょ?」

「そうだな」


帰ってこられてホッとする二人。


「それにしてもやっぱりここは暑いな」


月との温度差に衛はうんざりする。

そう言えば月に行く直前、クーラーの電源を切ってしまっていた。

月では結構長居してしまい、部屋にはすっかり暑さが戻ってしまっていた。


「うさ、帰らなくて大丈夫か?」

「うん、一応遅くなるかもって伝えてるから」

「そうか。じゃあ、もう少し一緒にいてくれ」

「うふふ。喜んで♪」


誕生日に月へ行くと言うきっとどこを探してもそんな体験をしている人はいないだろう。そんなファンタジックな誕生日を過した衛は、凄い一日だったと思った。


そして、うさぎはもう暫くいれると聞き衛は長くて素敵な誕生日になりそうだと嬉しく思った。





おわり




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