セラムン二次創作小説『秘密の趣味』


デス・バスターズとの戦いが終わり、間もなくして学校は夏休みに入った。

40日と言う長い休みを貰うなんて初めてて、ワクワクしていた。んだけど……


夏休みに入ると同時にうさぎもまもちゃんも中学三年生と高校三年生で受験生でこの夏休みが勝負だと受験勉強を本格的に始めてしまった。

うさぎが頑張らないといけないのは分かる。いつも赤点で酷い点数をたたき出しては育子ママに怒られているし、この前だって激怒されて期末テストまで毎日勉強させられていたし。自業自得って奴だ。


だけどまもちゃんは普段からしっかり勉強をしていて、そんなに頑張らくても大丈夫だと思うんだけど。それでも医者志望だからし過ぎても足りないなんて事は無いのかも。


進悟兄ちゃんがいるけど、つい最近まもちゃんと同じ学校に通いたいと宣言して塾に通い出した。

うさぎは自ら好んで受験をする事に驚いていたけど、うさぎこそ塾に通って勉強頑張るべきだと思う。


つまりこの家で暇なのは私だけというわけ。

更に美奈ちゃん達もうさぎと同い年だから受験生。

極めつけは桃ちゃん達だ。実家が中華料理屋や蕎麦屋、宝石店を営む跡取りの為夏休みは家の手伝いをするからほとんど遊ぶ暇はないんだと夏休みの長期休暇を喜んではいなかった。

そのガッカリと肩を落とすみんなを見て、私も相手をして貰えない事が決定して寂しい気持ちになった。


私は未来でもここでも一人。その事をまざまざと見せつけられて悲しくなる。

やっと出来た分かり合えそうだったほたるちゃんも、あの戦いで犠牲になって赤ん坊になって生まれ変わり、みちるお姉ちゃん達とどこかに行っちゃった。

いつも時空の扉の前に立っていたプルートも、ほたるちゃんと共にみちるお姉ちゃん達と一緒に行ってしまった。この世界のプルートは私たち側じゃ無いんだと思い知らされた。


仕方がないことだった。みんなには私が来る前からここでの暮らしがあるし、私のわがままでそれを独占出来ないこと。900年も生きているんだもん。見た目は子供だけど、中身はうさぎより大人よ。こんな事で悲しんでなんていられないわよね。


「スモールレディ」


チャリンと首輪に付けられた鈴を鳴らしながら部屋でボーッと物思いに耽っていると心配そうにダイアナが覗き込んできた。


「アハハ。くすぐったいよ、ダイアナ」


元気の無い私の顔にダイアナは舌を出してペロペロと舐めると、くすぐったさに思わず声に出して笑っていた。

そうだ。未来でもここでも私は一人じゃなかった。いつだってダイアナがそばにいてくれた。元気をもらっていたっけ。


「どうしたの、スモールレディ?」

「うん、夏休みだけど暇だなぁって思って」


夏休みの宿題は出たその日にちまちまやっていてもう殆ど終わってしまった。


「うさぎ達は勉強に忙しそうだし。せっかくの夏休みなのになぁ……ママ、パパぁ」

「未来に帰りたいですか?」

「ううん。立派な戦士になるまで帰らないって決めたから」


帰りたくないって言ったら嘘になる。

寂しいからって逃げ出すのは簡単だ。

だけどそれじゃあ前の私と変わらない。

それにネプチューンとの約束がある。


「スモールレディ、それは……?」

「うん、みちるお姉ちゃんの手鏡よ」


最終決戦終了直後、旅立つ前にネプチューンから必ず再会すると言われ約束のしるしとして貸してくれたタリスマンーーディープアクアミラー。それをボーッと眺めて見ていた。

これを返す時がきっと来る。だからそれまでは帰れない。


「約束したの、ネプチューンと。また必ず会おうって。ほたるちゃん達とまた会うまでは戻れない」


そう、絶対またネプチューン、プルート、ウラヌス、そしてほたるちゃんに必ず会えるって信じているから。だから頑張れる。


「そうですね。きっとまた四人と会えますよ」

「うん。それまでこの鏡にいっぱい私を映すんだ。ネプチューンと約束したから」


ネプチューンとの約束通り私はあの日から来る日も来る日もこの手鏡を見ていた。

タリスマンだから不思議な力があるんだと思っていたけど、今の所普通の鏡と同じ。どの辺が魔具なんだろう?

持ち主のネプチューンにしか扱えないのかな?そう言えば変身してる時しか魔力は発動していなかったような……


不思議な手鏡をいつもの様に見ていたある日の事だった。それは突然やって来た。


「ママとパパ、どうしているのかな?」


何となく呟いた一言で状況は一変した。

それまで何も変わらず私を映し出していた手鏡は、私以外の何かをボンヤリと映し出した。


「これは……?」


映像は30世紀のパパとママだ。間違いない。

今の様子を映し出しているみたいだった。

銀水晶にだってこんな事出来ない。私の心次第だって言っても限界があった。

だけどネプチューンの手鏡は、今私が見たいものを見せてくれるのだと推測した。


「じゃあ、もしかして今ほたるちゃんがどうしているかも見られるのかも……」


そう呟けば手鏡はたちまち反応し、映像はパパやママから切り替わり四人の影が映し出された。


「やっぱり、そうなんだ」


推測は確信へと変わった。

そこに映し出された映像は紛れもなく今のほたるちゃんとみちるお姉ちゃん達だ。

ほたるちゃんはまだ赤ん坊のままで、三人は必死で子育てしている。そんな微笑ましい四人の家族の映像を映し出していた。


「いや、でも流石に盗み見は……」


見られると言っても無断で見ているのだから悪い事をしていると言う自覚がある。いけないことだと分かっている。

だからこの日は手鏡を置いた。


「ダメダメ!こんな事いけないわ!」


みちるお姉ちゃんはこの手鏡でいつも何を見ていたんだろう。見たいものが見られることはきっと持ち主だから分かっているはず。どんな映像を見ていたのか。単純に気になった。


「流石は魔具タリスマン」


月の王国の道具ってどうしてこんなに不思議な力を秘めたものばかりなんだろう?

銀水晶を筆頭に、聖杯とかルナPとか。上げたらキリが無い。


「でも、ほたるちゃん元気そうで良かった♪」


最初は盗み見をダメだと思っていた私だけど、夏休みなのに誰も相手をしてくれない寂しさを紛らわす様にみちるお姉ちゃんの手鏡の魅力には勝てず、また手を取って魅入ってしまった。


「鏡よ鏡、鏡さん。ほたるちゃんは今、どうしてる」


私の問いかけに手鏡は呼応して、又ほたるちゃん達を映し出してくれる。

赤ん坊のほたるちゃんは、三人のお姉さんに囲まれてすくすく育っていた。


「あれから1ヶ月近く経つもんね!」


まだ生後1ヶ月のほたるちゃん。泣いたり笑ったり忙しそうにしている。

ほたるちゃんが泣くとみちるお姉ちゃん達はアタフタして困って、ミルクを上げてみたりオムツを替えたり、寝かしつけたり。三人で協力し合いながら慣れない子育てを頑張っているみたいだった。こんな三人を見るのも何だか新鮮で、楽しい。


「ほたるちゃん、幸せ者だなぁ~」


ほたるちゃんを中心に三人が絆を深め、結束しているのが見ていて分かり、ホッコリする。こんな姿を見られるのも手鏡があるお陰だとみちるお姉ちゃんと手鏡に感謝した。

一時期はほたるちゃんがセーラーサターンの生まれ変わりだから目覚める前に殺すと殺気立っていたプルート達。

だけど、今はそんな過去なんて無かったみたいにほたるちゃんを大切に育てている。それこそ自分達の本当の子供以上の愛情を持って大切にしているのが見て取れる。


「ほたるちゃん、良かったね。優しい人達に育ててもらえて」


もしあの時にみちるお姉ちゃんがほたるちゃんを育てる事を買って出てくれなかったらどうなっていたんだろう。

土萠教授は死んでしまったし、親戚とか知らないし。本当に三人には感謝だ。この三人以外に適任も無いだろうしね。30世紀に帰ってパパとママに頼むのもありだったかもしれないけど。


「すくすく育ってね。また会えるの楽しみにしてるから」


今度はいつどんな形で会えるのかは分からない。だけどきっと会えるって信じているから。


その後も私はこっそりとほたるちゃんを手鏡通して見守ると言う誰にも言えない秘密の趣味が始まった。

お陰で暇を持て余していた夏休みは楽しい想い出へと変わり、毎日が楽しくなった。

こんなにほたるちゃんを身近で見守れるんだもん。凄いよ。


「私も赤ちゃんなほたるちゃんと遊びたいなぁ……」


ただ楽しいばかりではなかった。盗み見していると恋しくなり、ほたるちゃんに会いたくなってしまった。

とは言え、今どこに住んでいるかなんて手鏡には分からない。それにまだその時でも無い。うさぎ達もみんなに会いたいのを我慢して受験勉強を頑張っているんだ。私だけひっそりと会いに行くわけにはいかないし、場所が分からなくてかえって良かったんだ。


「まぁ、盗み見してる時点で出し抜いてるから意味ないんだけどね」


矛盾に一人ごちる。


「わぁ、凄い!」


考え事をしながら見ているとみちるお姉ちゃんがほたるちゃんを寝かしつけるのにヴァイオリンを弾き始めた。

プロのヴァイオリニストの演奏が子守唄なんて、なんて贅沢なんだろう。


「やっぱりほたるちゃん、幸せ者だよ」


どんな子に育つんだろう。

私の事、覚えてくれているかな?

また私と友達になってくれるかな?


色んな不安はあるけれど、今はプルート達にほたるちゃんを任せて私はまたいつの日か再会出来ることを楽しみに毎日を過ごした。





おわり




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