セラムン二次創作小説『籠の中の美少年(エリちび)』





今のエリオスの状況を一言で表すならば正に“籠の中の鳥”だろうか。

残念ながら籠には入っていないばかりか、鳥でもないが、周りからすればそう見えるだろう。

いや、羨ましく思う人もいるだろう。その様は正に四人の美少女に囲まれている。四人は顔が美しいだけでは無い。スタイルも抜群。知らぬ人から見るといい女達だ。

しかし彼女達は事情が違っていた。四人の美少女は戦士。それも、一国の王女の側近である。


「これが、噂のスモールレディの想い人ですのん?」

「随分と頼りなさそうだけど」

「大丈夫なのか?」

「余り強そうじゃないね〜」


四人の声色から、ガッカリだと言う音が漏れ聞こえそうな程、容赦のない言葉が出てくる。

エリオスはいたたまれない気持ちで立ち竦み、その場に身を任せていた

この状況を予想していなかった訳では無い。寧ろ、予想済みだった。

今日は初めてエリオスはスモールレディの側近戦士であるセーラーカルテットと会うことになっていた。その事をメナードに言えば、女性と言うものは品定めが好きだから甘んじて洗礼を受けて来いと嬉しそうに言われたのだ。

しかも、大切な王女の側近戦士。そこら辺の一般人よりもその傾向は大きいだろうとメナード達は力説していた。大事な姫を預けるのだ。その目は厳しくて当然だろう。

ある程度予想は着いていたが、それでも居心地がいいものとはいえない。帰りたいとエリオスは心の中でごちる。


「力も無さそう」

「どうしてプリンセスはこんな男を?」

「もっと相応しい人は幾らでも居そうですわん」

「どこがいいんだか、さっぱりだぜ」


なおも辛辣に査定して来る。容赦などと言う言葉は、彼女達の頭の中の辞書には恐らく、いや絶対に無さそうだ。


「お顔は申し分ないのですけれどねぇ」

「確かに!キングに負けてないよね」

「クイーン譲りの面食いだね」

「血は争えないな」


顔立ちは合格点だった様で、褒められてホッとしたが、キングと肩を並べるなんて滅相もないと別方面で恐縮する。これは、本当に何の罰ゲームなのだろう。


「体力あるのかな?」

「色白だから病弱そう」

「鍛えているのか知らん?」

「筋肉はなさそうだな」


それまではただ言葉だけでエリオスの心に刃物を突き刺していたカルテットだが、遂には手を出して身体を触り始めた。


「ちょっ、ジュノー!?」


少し後ろの方で、借りてきた猫の様に何も言えず申し訳なさそうにしていたスモールレディが慌てて声を上げた。

恋人を悪く言われるのも余り好ましいものでは無いが、別に悪意があってしている事ではなく、側近として心から心配してやっていると言うのが伝わるからこそ、黙って受け入れていた。

しかし、恋人の身体に触れる事は許容範囲を超えている。そこは、それだけは譲れないのだ。


「あ、あたしの……」


あたしのエリオスに触れないで。最後まで言えず、スモールレディは顔を真っ赤にして黙ってしまった。


「鍛えてやらねぇとな!」

「うっわ、ジュノーがスイッチ入った」

「可哀想に、ですわん」

「ご愁傷さまだね……」


スモールレディの講義の声も虚しく、ジュノーの行動はエスカレートしていく。もうこうなると誰にも止められない。止められる人がいるとすれば、ジュピターくらいか。しかし、この場にはジュピターその人はいない。万事休すである。


「スモールレディの恋人と言う事は、いずれこの国の王様になるのよね?」

「そういう事になるな」

「側近付けなくてもいいの?」

「キングにもいらっしゃいますものね」

「……四天王な」

「クイーンには四守護戦士」

「スモールレディには私たち」

「みんな四人ずつだね〜」


話の流れが変わって来た。どうやら認めてはくれているようだが、やはり弱そうに見えるらしいエリオスは、キングやクイーン、スモールレディの様に側近騎士が必要ではないかとの話がもちあがる。身分不相応にも程があり過ぎて恐縮だ。


「次期キングだとしたら、ゴールデン・クリスタルもエリオスが引き継ぐの?」

「そっか、ゴールデン・キングダムに伝わる聖石だもんな」

「元々エリオスが守ってたんだっけ?」

「いや、伝わってただけでしょ?」


ゴールデン・クリスタルを受け継ぐ?

今まで考えても無かった事に、エリオスは驚きを隠せ無かった。

デッドムーンとの戦いのさ中、あれだけ探し求めていたゴールデン・クリスタル。衛の中から出てきたそれを、いずれは自分が継承する?それこそ恐れ多過ぎる。身分不相応も甚だしい。

しかし、確かにそうだ。クイーンの聖石はスモールレディがピンクムーンクリスタルとして継承。ではゴールデン・クリスタルはと言えば、それもスモールレディになるのか?

二つの聖石を継承なんて、それこそ前例に無い。やはりここは次期キングになるのか。気が重いなとエリオスはその重責に押し潰されそうになり、息苦しさが増した気がした。


「スモールレディ!」


ここにこれ以上長居すると、考えなくてもいい先の事や現実を突きつけられて益々気が滅入ってしまう。そう考えたエリオスは、長居は無用だと考えるより先にスモールレディに声をかけ、一瞬の隙をついてセーラーカルテットの隙間を潜り抜けた。

圧倒されるセーラーカルテットを他所にエリオスはスモールレディの手を取り、その場を駆け出して行った。

残されたセーラーカルテットはその様子に、エリオスを認めざるを得ないとその後の品定め会議において決定したとか。





おわり




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