セラムン二次創作小説『秋の香りに包まれて(ゾイ亜美)』
夏も終わりを迎え、茹だるような暑さはどこへ行ったのか。すっかり肌寒く過ごしやすくなった日。亜美と彩都は大学の帰り道でデートを楽しんでいた。
公園の近くを通ると、どこからとも無くいい匂いが鼻腔を擽る。彩都はいい匂いだと目を閉じて香りを感じていると、隣に歩く亜美が少し急ぎ足になっている事に気づく。
どうしたのだろうと目を開けて視線を合わせると、そこには匂いの正体である橙色を着けたそれが咲き誇っていた。
「金木犀だわ!」
感嘆の声を上げながら亜美は嬉しそうに金木犀を見上げていた。
「綺麗に咲いているわねぇ」
亜美と一緒になって金木犀を見上げた彩都も思わず感嘆の声を漏らす。
毎年必ず咲くけれど、桜と同じで余り長い期間咲くことない。雨や風が吹いたらすぐに落ちてしまう。
そんな秋は天候が移り変わりやすい。女心と秋の空と言うくらいコロコロ変わる。そこに本格的な台風の時期でもある。
それ故に勉強の鬼である亜美と彩都は、金木犀が咲く頃に中々会うことはなく、二人で初めて金木犀を見ることとなった。
「思い出すわねぇ~」
亜美と初めて一緒に見る金木犀に感動に浸っている彩都とは裏腹に亜美は何かを思い出し、憂いに満ちた顔をしていた。
その顔に彩都は単純に胸が締め付けられる。
金木犀を見て思い出すこと。
それはーー
「何を思い出すの?スターライツの事?」
そうそれは、キンモク星からやって来たと言うセーラー戦士達のこと。
普段は何故か男装してアイドルをしていて、大変人気があったと言うのは亜美や仲間の戦士に聞かなくてもCDショップに通っているだけで充分感じとれた。
ポスターが貼ってあったり、専用のコーナーを設けられて特集が組まれていたり。兎に角、どのレコード店に行っても待遇は特別だった。曲も自然と耳に入ってきて普通に覚えてしまう程。
うさぎ達とも程よい距離感だが、まあまあ意識していたとか。
その中でも亜美は大気と色々あったと言う。怖いけれど、遅かれ早かれ聞かなければ先には進めない。寧ろこう言う事は後回しにすると後々響く。傷が深くなる。早く済ませて傷を浅く抑えておくに越したことはない。そう考えた彩都はなんでも無い風にごく自然とストレートに聞いた。
そんな彩都とは裏腹に亜美の反応は意外なものだった。
「え?どうしてスターライツ?」
なんの事?と言わんばかりの返答に彩都は拍子抜けする。
ったく、このお嬢様は恋愛関係にはてんで無頓着なんだからと彩都は呆れてため息が出そうな所を既のところで抑え、ホッとする。
「キンモク星出身のセーラー戦士達なわけでしょ?思い出すんじゃないの?」
思い出さないの?何で思い出さないのよ!とすっかり忘れたご様子の亜美に自ら思い出させてしまったみたいで惨めになりながら後悔した。
「そう言われたら、そうね」
そうだったとやっと思い出したようだが、余計な事を思い出させて取り越し苦労だった事に気付いた。
「彼女達からも何処と無く金木犀と同じ匂いがしていたわ」
「そうなの。彼女達とはどうだったの?」
「普段の彼女達はライバル。セーラー戦士としては尊敬。アイドルの彼らは憧れ。と言うところかしら?」
「ふぅ~ん」
自分で振っといて何だが、彼女達の事を聞くのは面白くもなんともない。何とも自分勝手だと彩都は自身で呆れる。
「それだけ?」
「ええ、そうね。私とまこは早々にクリスタル抜かれてしまったから、結局はよく知らないし」
知らないから、思い出しもしなかったのだろう。深入りしていなかった事がかえって甲を制した形になり、彩都は安堵した。
「そう、じゃあ何を思い出していたの?」
ここで引っかかるのは、スターライツを思い浮かべていないのなら何を思い出していたのかということだ。
「前世の記憶を思い出していたの」
「前世の?」
意外な返答に彩都は驚く。前世の一体何を思い出しているのか。
「金木犀って植物を育てるのに適さない月に唯一咲く事が出来る花だったの。その金木犀を使ってよくジュピターが紅茶を作ってくれて、クイーンやプリンセス達と一緒に飲んだなって思い出して懐かしい気持ちになっていたの」
「そうだったの。楽しいひと時を過ごしていたのね」
「ええ、とっても素敵な思い出よ」
前世での知られざる思い出を聞かされ、想像した彩都は優雅な時間を過ごしている様でほっこりした。
護衛が主でお互いの話をあまりしなかった事を彩都は呪った。そんな平和な日々を壊した事も後悔した。
それでも亜美が今こうして前世での思い出を楽しそうに語る姿を見ると、前世が終わってしまった事も悪い事では無かったと彩都はホッと安堵したのだった。
おわり