セラムン二次創作小説『ザ・ピース(ジェダレイ)』


四月になり、街が騒がしくなった。

新生活が始まるから、と言う理由では無い。それならまだレイとしては良かったのだが、違う理由で騒がしく、それがより一層の憂鬱を誘う。


「はぁ……」


火川神社でいつもの様に仕事をしていて、レイは深いため息を一つ付いた。

仕事ででは無く、騒がしい町に対してのため息だ。

それに敏感に察知した和永は、レイを気にかけて話しかける。


「どうした、レイ?機嫌が悪い様だけど?」


良くも悪くも和永は素直でストレートな性格。その為、レイの態度を見てそのまま疑問をぶつけてきた。

目に見えて機嫌が悪いレイにどうしたのか気になったのだ。


「大したことでは無いわ。ただ、選挙カーがうるさい。それだけの事よ」

「ああ、なるほど。確かに毎日通っててうるさいな」


理由に納得した和永は、レイに同調する。

都議会選挙が近いこの時期、否が応でも選挙カーが走りウグイス嬢が挨拶をする。4年に1度の事とは言え、何度遭遇しても騒音だ。


「……あの人も、また懲りずに立候補しているし」


あの人とは、レイの実父である。

母親が死んだのは父親が忙しく構わなかったからと恨んでいるレイは、名前も出したくないほど嫌っている。


「確かに、レイのお父様も出ているな」


政治・経済、時事問題や流行りに敏感な和永は、都議会選挙の立候補者もチェックしていた。

成人して選挙権を持った和永は、投票に行き自身の一票で国の行く末が決まる事にワクワクしていた。行くものだと思っていた。


「あなたは投票、行くの?」

「ああ、国民の義務だし、当然の事だと思ってたけど……レイは行かないの?」


レイも二十歳を超え、有権者だ。投票の義務がある。

しかし、政治家の父親を嫌っているレイにとって投票に行く事は苦痛なのかもしれない。


「……考えた事も、ありませんわ」


投票に行く事。それ即ち父親を肯定すること。イコール、母親を裏切る事。レイはそう考えていた。

レイの答えを聞いて和永は、父親に対して相当根強い恨みを持っていると勘づいた。

一緒に選挙の投票に行って、外食しようと決めていたのに宛が外れてしまう。

どうすれば頑ななレイを説得する事が出来るだろうか。


「レイの誕生日が近いだろ?投票行ったら、ご褒美に豪華なディナーだ。どう?」

「それが、更に嫌な理由だったりするのよね……」


和永の提案に、益々テンションが下がるレイ。


「どう言うこと?」

「いつも私の誕生日付近に選挙があるのよ。街を歩けばあの人の顔のポスターが至る所にはられているし、選挙カーは走る。誕生日付近に、否が応でもあの人と向き合わなければならない。……もう、うんざり!!!」


レイは、語気を強めて説明する。理由を聞いた和永は、想像してレイの気持ちになると、確かに気分が悪いと感じた。

特にポスター。歩けば、見られている。これは辛い。

更に、誕生日付近に選挙。忙しいさ中と言う事もあり、誕生日は祝えないと暗に言われているようなもの。

当然と言えば当然だが、レイの誕生日よりも仕事が大事と思い知らされてきたのだろう。


「もう六期目な事を思うと、かなり支持されているんだろうな。マニフェストも、絶対有言実行していて、偉大な政治家だよ」


レイにとっては最低の父親でも、都民にとっては最高の政治家だった。

レイと付き合う前から、政治に興味があった和永は動向を追っていて、色々知っていた。


「そう。私にはどうでもいい事だわ」

「まぁ、確かに」


どれだけ政治家として素晴らしくとも、レイにとって嫌な父親に変わり無く、聞く耳を持たない。取り付く島もない。


「でもさ、敵を知る事も大事だと思うよ?戦士として敵と戦い続けてきたレイなら分かるだろ?」

「……まぁ」

「それに、将来クイーン付きの戦士をするなら、政治家の父親と仲良くしていても損は無いと思う」


戦う為には敵の情報は必要不可欠。研究して戦ってきた。

父親も敵であるならば、その父親を知るにはその仕事と向き合う事も必要と言う事だろうか。


「どんな世界か、知りたくないかい?」

「行っても良いけれど、あの人に入れるかは分かりませんわ」

「そりゃそうさ!無理に入れる必要は無い」

「一緒に、行って下さる?」

「勿論さ!投票行って、外食だ!レイの誕生日祝い」


こうして、大人デートを取り付けて大喜びをする和永。

当日は夕方に投票に行き、無事レイの21歳の誕生日をディナーで祝う事になった。


一方レイは、憂鬱だったが、和永と一緒なら心強いとホッとしていた。


レイが父親の仕事を理解出来たのは、それから何年も後のことだった。





おわり




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