セラムン二次創作小説『ハッピーサマーウェディング(ネフまこ)』
夏が近づいてきたある日、まことが緑を増やしたい。夏野菜を育てたい。と言うので、買うのに付き合う事にした。
事実上の合法外デートだ。いつ振りだ?
それはさて置き、こうして好きな物の話をしている笑顔のまことは真夏の太陽よりも眩しいな。なんて、野菜や花の種を物色している彼女を見て幸せな気分に浸る。
「いっぱい持ってるな?」
「絞れなくて、つい」
彼女の手を見ると、買い物カゴにいっぱい種が入った袋が入っていた。これは植えるのにも相当時間がかかるな。と、数時間後一緒にガーデニングをしている姿を想像して楽しくなる。
同じ刻を過ごせる幸せを噛み締める。
「植えるの楽しみだな」
「うん。手伝ってくれるのか?」
「ああ、当たり前さ」
そんな会話をしながら、会計をすませる。
そして、店を出て家路へと向かおうとした。
「せっかくだからさ、回り道して帰らないか?久々のデートだし」
「ああ、それもそうだな。まだ時間あるし。まことが良いなら俺は構わないぜ」
「私がしたいんだよ」
そう言って、自然と腕に手を回してきて密着して来た。やだ、公の場で俺の彼女、大胆!
襲いたい気持ちを抑え、彼女の買い物袋を持ってあげた。俺、紳士!
外でもイチャイチャ出来て幸せだなぁと思いながら歩いていると、俺はある事に気付いた。
「ん?ここは確か……」
この道は、まことと初めて会ったあの店があるところだということに気づく。
「ブライダルショップだ!」
嬉しそうに言うまこと。俺の腕から離れて、一目散にその店に駆け寄る。
女性はこういう場所が好きだよな……と言うのはさて置き、この店はまことと初めて会って、戦った場所。
ダークキングダムに操られていたあの時の俺は、非情であった。
恋愛や結婚など、つまらない人間がするものと思っていた。
しかし、それに夢中になる奴らを利用する作戦に出た。そして、その出る杭は打たれるもので、セーラー戦士として目覚めてすぐのまことに落雷攻撃で一発アウト。あれはマジで痺れたぜ!
「ウエディングドレス、綺麗だな~」
うっとり見ているまことを微笑ましく見ていた。あの時の事、申し訳無いと思いながら、複雑な気持ちでーー。
「まこと、すまなかった」
「……覚えてたんだな?」
「ああ」
記憶は、翡翠になった後から徐々に取り戻していた。
ここは、まことと俺にとっては思い出深い場所だった。あれ以来、ここには来ていなかったが……。
「忘れるわけないさ。まことと俺が初めて出会ったところだからな」
俺とまことにとって多分一生忘れられない思い出の場所。
「また、この手で殺しちゃったな……」
「お前はお前の使命を果たしただけだ。気にするな。それでいい。俺の方こそ、何度も悪の組織に堕ちて、ダメだな」
「仕方ないさ。前世の記憶、戻ってなかったんだろ?」
「それでもだ。俺は俺を許せない」
まことが優しすぎて、攻めてくれない。その代わり、自分を攻める。俺は、この命ある限り一生自分自身を許せないだろう。
「私、この場所何度も来てたんだ」
「そうだったのか?俺は、あれ以来今日が初めてだ」
驚いた事に、彼女は嫌な思いでだろうここに何度も来ていたと話してくれた。
一体、何故?やはりウエディングは女の憧れだからか?
「お前に会いに、さ」
「俺?何でだよ?」
目的はウエディングでは無く、まさかの俺。理由が見当たらない。
まことにとって、辛い場所のはず……。
「前世の事を思い出して、花を供えてた。前世も好きだったろ?」
「ああ……ありがとうな」
前世、花もジュピターも好きだった。
言葉には余り出さなかったが、心は確かに通じ合っていた。
「やっと、会えた」
まことはポツリとしみじみ呟いた。
「お前とここに来てみたかったんだ」
やっと来られた。と少し寂しそうにまことは笑った。
そうか、あんな辛い思い出で終わりたくはなかったんだろうな。しかも、場所が場所だけに。
誰より結婚願望が強い彼女。この道を選んだのも、彼女の思惑と言う事だろう。
「そうか、幾らでも来てやるぜ」
「でも、場所が場所だから、思わせぶりになるだろ?」
「何言ってんだよ?結婚するのは決まってるだろ!」
「……はは、そうだったな」
生まれ変わって初めて俺たちがあった場所はブライダルショップ。結婚する。結ばれる運命かのように、この場所で出会った俺たちは、付き合う事になる時から結婚する事は最早決まり事だった。
前世、互いに惹かれ合いながらも結ばれずにその生涯を終えた俺たち。
この世界では、彼女と将来を共にすることは絶対だった。
「中、入ってみるか?」
入りたいんだろうなと思っていたから、入る事を提案してみた。
俺たちは、ずっと店の外で立ち話。思い出話に花を咲かせていた。……まぁ、暗い話だから、萎れさせていただけかも知れないが。
「良いのか?」
「入らないと言う選択肢が、寧ろあるか?」
「私たち、まだ学生で結婚はまだ先なのに……」
「そんなの関係ねぇよ!見るのはタダ」
「……タダほど高いものは無いよ」
屁理屈を言って入るのを渋る彼女の手を取り中へと入って行った。
「いらっしゃいませ」
「うわぁぁぁ~~~」
中に入ったまことは、目を輝かせていた。
俺に会いに来ていた。それは確かに本心だろう。
けど、やはりウエディングに憧れがあった。だから、何度も何度でも足繁く通えたのだろうと推測出来る。
ただ、やはりまだ彼女の言う通り学生だ。中には入りずらい。
長年通っては、外で眺めるだけの日々。思いは募っていた事だろう。
「やっと、来てくれましたね」
受付のお姉さんが、まことにそう話しかけてきた。顔が知られるほど、来ていたとは……。
あの日から今までの年月の長さと、通っていた回数に胸が傷んだ。
「あはは、見られちゃってましたか?お恥ずかしい限りです」
「噂になってましたよ?モデルさんみたいな長身な美少女が通ってるって」
「そんな、モデルみたいだなんて……照れるな」
「いや、まことは実際ポテンシャルすっげぇいいぜ?」
「フィアンセさんですか?」
「フィアンセだなんて、照れるなぁ」
「いや、実際フィアンセだろ?」
「ご結婚、されるのですね?」
「いや、まだお互い学生なのでまだ先です」
「でもプロポーズはもう済んで、結婚は決まってるぜ!」
「勇人……」
受付嬢に色々聞かれ、照れまくって謙遜するまことに代わり、俺は事実をありのままに説明する。
結婚の約束も無いのに、ここには入らない。予行演習として、興味深かったから入ったのだ。
「なぁお姉さん、まだまだ先だけど予約って出来るんですか?」
「何言ってんだよ、勇人?」
「いや、だって結婚するなら式も上げるだろ?俺、まことのウエディングドレス姿見てえもん」
「見てえもんって……したいし、着たいけど」
「じゃあ決まりな!どうせならここで挙げようぜ?俺たちがこの地で初めて出会った思い出の場所でさ」
「勇人……」
結婚式を挙げるなら、ここしかない!そう直感した俺は、考えるより先に動いていた。自分でも驚く程のフットワークの軽さで。
「なぁ、大丈夫だよな、予約?」
「ええ、勿論ですよ」
困惑して茫然自失になっているまことを他所に、俺はテキパキと予約を取り始めた。
まことが専門学校卒業して働いて、慣れてきた23歳くらいがベストか?日にちは仏滅だとしても、初めて会ったあの日がいいな。
「よし、予約完了っと!」
「ありがとうございました。予約金が発生しますが、如何されますか?5万円からになりますが……」
おいおい、それを早く言ってくれよ、お姉さん。
「はい、これで」
バイトをしていて常に10万は財布の中に入っていた。とりあえず5万円支払い完了!
「本当に予約しちゃったよ、この人は……」
そう呆れて言ったかと思うと、声を出して腹を抱えて大笑い。
何にしても、まことを笑顔に出来たんだから思い切って予約して良かった。
まぁ、予約しようと思って入ったわけではなかったが、思い立ったが吉日って奴だ。行動して良かった。
「じゃあ中、色々見るか?」
「ああ」
そう、俺たちはまだ中に入っただけだった。5階建てのデカいブライダルショップだ。じっくり見られる。
「ごゆっくりどうぞ」
「ご案内致します」
受付嬢に代わり、今度はウエディングプランナーが中を案内してくれるそうだ。
「本日は3件の結婚式が入ってます」
そう言って一件目の会場前に行くと、花嫁と花婿が親族や友人達と話している所に遭遇した。
「うわあ、綺麗だな」
まことの方が綺麗だ。と言う言葉は今は飲み込んでおいた。
「ウエディングドレスもご覧になりますか?」
「見ます!」
即答しただけあって、衣装部屋に案内されると夢中でドレスを目を輝かせて見始めた。俺の存在など忘れて……。
いや、まことが楽しそうだから例え空気化しても俺は本望だ。
「今日はありがとうございました」
一通り見終えると、まことはプランナーや受付嬢にお礼を行って満足して万遍の笑顔で店を後にした。
俺も一礼して後に続く。
「今日はありがとな♪」
「どう致しまして。まことの幸せそうな笑顔を見れたんだ。プライスレスだよ」
「5万円払ってたけどな」
「うっ、それは……言うな」
「あはは、ごめん。払わせちまって。でも、本当に嬉しかった」
「お安い御用さ」
「5万円が?」
「それはもう良いだろ?ははは」
俺自身もここに来る前はこんな事になるとは想定外だった。まこともそうだろう。
そんなつもりで連れてきた訳では無いはず。ただ、嫌な思い出を塗り替えたかっただけだろう。
しかし、思いもよらぬ方向で最高の思い出へと塗り替える事になった。
「これで、結婚式挙げるまでは死ねないな」
「ああ、いい目標が出来たよ。体づくり頑張らないとな!」
決して大袈裟なんかじゃない誓い。
俺たちは互いに惚れている。
しかし、この命は互いのためではない。互いの主の為にある。
敵が現れたら主の盾となり、守る騎士と戦士だ。その事は決して忘れてはいけない。
「さて、帰って野菜と花、植えるか!」
「ああ、すっかり遅くなっちまったけどな」
店を出ると、日は暮れ始めていた。
俺たちは、ブライダルショップで大分長居をしていたらしい。ブライダルショップの魔力、恐るべし!
とは言え、まことの幸せな笑顔を見られたので良しとしよう。5万、取られたけど……。
おわり