セラムン二次創作小説『信じられない噂(ぐりなる)』
ある日俺は、とんでもない噂を耳にしてしまった。
それは、にわかには信じ難く、凡そ現実味を帯びていない。そんな噂だった。
誰もが、【嘘だろ?】と口を揃えて否定する。そんな噂。
その噂とは、【海野と大阪なるが付き合っている】と言うとんでもない内容。
勿論俺は、信じられず否定している。
何故なら俺は、大阪なるが好きだからだ。
可愛い容姿は勿論だが、中身もピカイチで、性格はいいし面倒みもいい。その上頭もいいと来たもんだ。好きにならないと言う選択肢が見当たらない。
そんなこんなで、彼女は結構モテていた。
当然である。この俺が見込んだ女だ。モテないわけが無い!
それに、彼女の友達である月野うさぎが彼女の良さを際立たせている。所謂、引き立て役だ。
ダメダメでバカ丸出しの月野の面倒を見ている彼女は、かなり出来るいい女に見えている。いや、実際、かなり相当いい女だ。
そんないい女代表の彼女、何故月野の様な馬鹿女と友達やってるんだ?とずっと気になっていた。
だが、今はそんな事はどうでもよくて、今度は何故数多いる男の中で彼氏に選んだのは海野なのか?と言う疑問が湧いている。
海野がOKであるのならば、俺でも良くねぇか?何故俺は告らなかったのだろうか?と告白する勇気を持てなかった自分自身の愚かさに後悔し始めた。
やはりこう言ったことは、告白する勇気があって初めてその土台に立てるもの。勇気が持てなかった俺は、最初からスタートラインにも立てていなかった。
いや、海野が告白したとは限らない。彼女からの可能性もある。
何せ海野はご覧の通り不細工である。だから惑わされているが、頭はいいし、両親は会社経営の御曹司。将来安泰のハイスペックな優良物件。
対して俺は、頭はそこそこで、両親は平凡の顔と性格だけ良いと言う、凡人だ。そう言った意味でも負け犬である。
そして大阪なるもまた、実家はデッカイ宝石店のお嬢様。
将来の事を考えるならば、お似合いと言えばこれ以上無いくらい相性が良いのではないか?と事実上の敗北宣言。
いや、まだ噂の段階。諦めるのはまだ早い!取り越し苦労の考えすぎという事もある。
先ずは彼女の親友である月野に聞くことにした。
「月野、ちょっと良いか?」
取り敢えず月野が一人のところを捕まえる。
所が月野、友達が多くていらっしゃって中々一人になってくれず、苦労した。
今まで俺は、大阪しか見えていなかったようで、ここに来て月野の凄さを目の当たりにする事になるとは。皮肉な話だ。
そんなこんなで、一人になったタイミングを見計らい話しかけると、驚かれた。
そりゃそうだ。禄に話したことも無い男に話しかけられたんだから無理も無い。俺だってこんな日が来ようとはよそうだにしていなかったのだから。
不本意ながらも人気のないところまで月野を拉致ると、俺は早速噂の真相を聞くことにした。
「こんな所に引っ張ってきて、なんだってのよ?」
忙しいのよ、と言いたげな態度で早くしてよねとばかりに腕を組んで偉そうにふんぞり返っている。
「ああ、実は…」
「あ!分かったー!あたしの事が好きなんでしょ?ごめん、あたし今好きな人がいるからダメよ」
「………」
何だコイツ?馬鹿なのか?思わず絶句して、ため息が漏れる。
「ちげーよ!誰が、お前なんか好きになるかよ!」
「しっつれいねぇ」
「実はお前に聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?なぁに?」
皆目見当もつかないと言う顔で考え始める。
「それは、お前の親友、大阪なるの事だ」
「なるちゃんの事?」
「ああ、噂の事、知ってるよな?」
アレだけの噂だ。ましてや友達の多い月野で、彼女の親友でもある。知らないなんて事は無いだろう。
「何の噂?」
「はあ?」
まさかの回答にズッコケそうになる。いや、ただどの噂か分からないだけかもしれないが。
「海野と大阪が付き合ってるって、とんでもない噂だよ!事実か、そうじゃないか?教えて欲しいんだよ!」
「ああ、その噂。そんなの自分で本人に聞けば良いじゃない」
それが出来ないから聞いてるんだろうが、馬鹿月野!
本人に聞いてしまったら、真実として受け入れるしかなくなるだろう。
それが怖いから、間接的に友達である月野に聞いているのに、男の恋心が分からん奴だな。
「本人に聞くのが怖いんだよ。頼むよ、月野。この通り!」
手を合わせてお願いする。何故俺は、月野ごときにこんなに必死で謙っているのだろうか?
噂も気にとめなきゃ良いのに、何故こんなにムキになっているのだろう………
「そうだよ、二人は恋人同士よ」
「そ、そんな…」
【恋人同士】と言う衝撃のフレーズが耳に飛び込んで来た。
ゴンッと上からタライが頭上に落ちてきたくらいの衝撃を食らう。まさに大ダメージ。中々に破壊力が強い。
「あたしが仲を取り持ってあげたからね~。恋のキューピット」
「はあ?」
いらん情報が入って来たぞ。何だって?月野が仲を取り持った?何でだよ?余計な事するなよ!これで何人の男が泣いてると思ってんだよ?マジでコイツ、馬鹿だ…
「何してくれてんだよ?」
「海野に相談されたからよ!なるちゃん、ちょうど失恋したから。親友の幸せを思えばこそでしょ!」
怒られる筋合いなど無いと言わんばかりに反論して、いらん情報ばかり投下して来る。
あの大阪なるが失恋しただと?振った奴、どこのどいつだよ!身の程を知れ!
そして、相談されたからって親友に男宛てがうのかよ?月野怖ぇよ。
「もう良い?」
「ああ、ありがとう」
俺は力なく礼を言い、月野を解放してやった。
俺自身も月野との初会話に、色々と疲れ果ててしまい、話す気力も失っていた。
思考回路もショート寸前だった頭だったが、色々考えては凹んでいた。
何故俺は、告白しなかったのだろうか?
月野に相談していれば、もしかしたら強力な後ろ盾になってくれたのではないのだろうか?色々と諸々後悔が頭を支配していた。
告白して、見込みがあったかどうかは分からないが、想いを伝えなかった事でこんなにも苦しむことになるなどとは考えもしなかった。
嘘だろ?嘘であってくれ、とそれからずっと現実逃避をする事になった。
兎に角まだ二人のラブラブを目撃していない。
俺は、自分の目で見た事しか信じない!
そして、それから数日後ーー
手を繋いで幸せそうに顔を見合わせて照れる二人を目撃した俺は、月野が言っていた通り、付き合っているのだとやっと現実を受け入れざるを得なくなった。
おわり