セラムン二次創作小説『恋人の素顔(ジェダレイ)』
俺の彼女は世間一般的に言うとクールビューティだ。滅多に感情を表に出さないし、笑わない。だから他の人から見ればクールビューティと評され、高嶺の花になっている。
だけど俺は初めて会った時からレイにはクールと言う印象はあまり無い。そりゃあ確かに無口で余り喋らないと言う意味ではクールだ。そして絶世の美女!
かの楊貴妃やクレオパトラ、小野小町と言う世界三大美女に引けを取らないばかりか、絶対的勝者だと恋人の欲目から見ても感じる。絶対的美女!
そんな彼女が美少女戦士セーラーマーズなのだから納得である。
話はそれだが、何故クールと言う印象では無いか?
前世の時もそう感じた事は無いからと言えばそうだが……
まぁ前世はプリンセスの護衛で嫌々この地に降り立っていたわけだから、楽しくはないだろうな。話す必要もないわけだし。
それはやはり神社で一緒に働いているからと言うのが大きい様に思う。
神社で仕事をしているレイは何だか楽しそうに見える。決して笑顔では無いが、何となくそう感じる。
神社と言えども接客業。ご利益などがあっても、神主や巫女の対応が悪ければ客足が減る。意識しているのかは分からないが、愛想良くを心がけているように見える。
「カァーッカァーッ」
レイが可愛がっているカラスーーフォボス・ディモスが上空を飛び回り、近くにいるから心強いのもあるのかも知れない。
この神社に来た時から彼女と共に在るらしい双子のカラスは、彼女の前世の側近戦士でもあるらしい。そして彼女のパワーアップを促してくれる存在でもある。しかも本来は人間の姿らしいのだけど、カラスが楽だからと地球ではほとんどカラスだ。
二羽のカラスに向ける笑顔は、俺にすら向けられたことのない輝くもので。本当に心許しているんだなと分かる。
小さい時から一緒にいた三人。入り込めない事くらい分かっている。
カラスに、しかも女の子に嫉妬しているのも馬鹿だと思うけど、こればかりは仕方ない。
ま、俺にはまた別の笑顔を見せてくれるからいいんだけどさ。
幾ら前世からの仲とは言え、カラスの姿をした二羽を沢山のカラスからよく一発で見分けられるなと感心する。
どうやって見分ければいいのか分からず、レイに聞いたことがあるがあっけらかんとどうして分からないの?と言わんばかりの顔でこう言ってのけた。
「他のカラスとは明らかに違いますわ」
「どれも一緒に見えるんだけど……」
どう明らかに違うのか、さっぱり理解出来ない。
レイの爺さんも不思議そうにしているところを見れば、俺が変な訳では無いようだ。
「優しく鳴いて品良く飛んでいるのがフォボス・ディモスですわ」
と言う事らしいんだが、俺には鳴き方も飛び方も外見も全く同じに見える。
強いて言うなら、フォボス・ディモスは俺に懐かず辛く当たってくる。嘴でツツイて威嚇する。
と言っても結局コイツらカラスと言うものは人間嫌い。フォボス・ディモスだけに限らず威嚇して来る。
もっと積極的に人間化してくれていればまだいいのだが、結局双子だから外見が似ていてどっちがどっちか見分けがつかない。
どちらにせよ八方塞がりだ。
だが、レイの側近だから仲良くしたいとは思っているのだが、アチラに敵意がある限り無理そうだ。
何とか仲良くなりたいが、どうすればいいかいい案は今の所無い。
そして、それともう一つ。
「じゃあまたね、レイちゃん」
「ええ、みいちゃん気を付けて」
レイに今しがた呼ばれたみいちゃんと言う女の子。平日の夕方になると大抵この神社へと来ているこの子。レイのお気に入りなのか、この子にだけは笑顔で対応していて心を許しているようで楽しそうだ。
俺にもそんな笑顔で接してくれた事なんてまだないんだけど。みいちゃん、君は一体何者なんだ?
小学生だからレイの警戒心が溶けているのかとも考えたけれど、どうも違う様子。常連さんだからって言う理由でも無さそうだ。
レイの顔を笑顔に引き出すみいちゃんに単純に気になった。
そして、理由はもう一つある。あのフォボス・ディモスであろうカラスもこのみいちゃんに懐いている。様に見える。
そんなみいちゃん、マジ何者?
「レイ、さっきの女の子って……?」
一人悶々と考えていても仕方ないので、ストレートに質問してみた。
「みいちゃんの事ですの?」
「ああ、そのみいちゃん!親しそうだし、よく来る様だから気になって」
ここで働いて半年程。人間観察が趣味の一つの俺は、人の顔を覚えるのが割と得意だ。
その中で神社と言う特殊な場所をみいちゃんみたいにしょっちゅう通う人は子供でも大人でもそう多くはなく、数える程。通っても月に一度程度。美奈ちゃん達を置いておいても、指折り数える程だ。
だからみいちゃんの様に平日はほとんどこの神社で過ごしている人は珍しい。
そう思ってただの好奇心で質問したはずだったのに、自体は俺を窮地に追いやるとは思いもよらなかった。
「みいちゃんの事、貴方覚えていなくって?」
「???」
なんと、レイは俺にも関係がある様な口振りで問いかけてきた。質問に質問で返されるとは、思いもしなかった。
そうか。俺にも関係があるから気になったのか?
でも、顔を何度も見ているけれど、全く分からない。覚えていない。
しかし引っかかる。前世か?そうなのか?
「うーん、前世に関係している?」
頭を振り絞りながら思った事を素直に呟く。
レイと俺に関係あるとすれば前世以外考えられない。ただそれだけだった。
「違いますわ。まぁ前世と言えば、あながち間違ってはいないかもしれませんけど」
「前世では無いけれど、遠からず近からずってところか?うーん……」
前世でないが、似たところと言われてもさっぱり分からない。この地にクイズ、激ムズじゃね?
記憶力は悪い方では無いけれど、全く記憶に無い。
でもこれ答えられなければかなりレイから幻滅されるフラグなのでは?
「思い出しませんか?」
「……あ、ああ。お手上げだ」
幻滅されるかもしれないが、思い当たることがないのだ。ここは素直に降参して聞くことにした。
「はぁ、仕方ありませんわね」
「……ごめん」
ため息混じりに呆れながらレイは答えた。
「みいちゃんは、貴方が誘拐した子よ」
「え、誘拐?」
レイの口から突拍子もない単語が出て来て単純に驚いた。それと同時に余計に分からなくなってしまった。
誘拐ってなんの事だ?忘れている記憶がまだあるのか?
「そうですわ。バスで誘拐した事、覚えていなくって?」
「……バスで誘拐?」
「ええ、ダークキングダム四天王ジェダイトとして活動していた時の事だけれど。その時の記憶は戻っていなくって?」
「ああ、ジェダイトの時の!」
レイにそこまで言われ、漸くダークキングダムにいた時に犯した数々の悪行に目を向けた。
記憶はとっくに戻っていた。しかし、バスで誰を誘拐したかまでは覚えていない。
あれはレイの気を引き、おびき寄せるため。そして、大いなる支配者にエナジーを捧げるため。セーラー戦士を帯びき出そうとして、より若い女性を無作為に適当に拐っただけだった。
まさかその中にみいちゃんって子も混ざっていたなんて予想だにしていなかった。
「ダークキングダムの時の記憶は全部思い出してはいたけれど、誘拐した人物までは覚えてないんだ。あれは六時台のバスに乗った人達だったってだけだし」
「分かってましたわ。あれだけ大勢の人々を誘拐したのだから、顔まで覚えていないと言うことは。だけれど、みいちゃんは何日も経っていたし、気にしてくれていたのなら顔くらいは何となく覚えているかも知れないと思いましたのですけれど」
「覚えは良いけれど、こればっかりは……」
言い訳にしかならない事をツラツラ話すと、当時の状況を想像したレイは仕方ないと許してくれた。少し残念そうにしていたけど。
「あの日もみいちゃんは学校から帰りにここに寄って、バスに乗って習い事に向かおうとしていましたの」
「そう、だったんだ。そんな罪も無い子供を、俺は……」
「小さい時からヴァイオリンを習っていて、とっても上手いんですのよ」
「みいちゃんのヴァイオリン、聴いてみたいなぁ~」
「後悔の念が少しでもあるのでしたら、今度来た時は貴方もみいちゃんに優しくして差し上げて」
「はい、喜んで!」
それで罪が軽くなるのなら。俺はみいちゃんの為に何でもしよう。
「じゃあレイがみいちゃんを気にかけていたのはそのため?」
「レイちゃんって慕ってくれて、人懐っこいところがあるから」
「子供は好きじゃないのか?」
「ええ、あまり。うさぎと衛さんの未来の娘、ちびうさとみいちゃんくらいかしら」
そもそもクールビューティと言われるレイだ。人自体苦手なのだろう。
父親が嫌いだから、てっきり大人の男の人に失望しているだけかと思っていたが、そうでは無いらしい。
心を許しているのはここの宮司である爺さん、セーラー戦士とTA女学院の学友の更科さん、そして俺くらいか?
いや、俺も心を許して貰えているのか微妙なところだが(と考えるところ、何とも悲しいな)
人懐っこくて明るい子に弱いのか?
そう言えば美奈ちゃんやうさぎちゃんもそんな感じだよなぁ。
……って、俺も似た様なもんか?
心を許した人にだけ、いい笑顔を見せるし、接客態度も良好。
彼女と近しくない、上辺だけを見ている人が知らないからクールビューティと言っているだけ。
レイを知れば結構話してくれるし、クールとは違う。だから俺は世間一般で言うクールビューティと言う印象を持ってない。
おわり