セラムン二次創作小説『二人のために』
世間ではもうすぐ皆既月食があると盛り上がっていた。しかも地球に最も近づき大きな満月になる日だという。ーー所謂スーパームーンと言われる月だ。
スーパームーンの日に皆既月食が重なる、と言う話題は学校でも楽しそうにみんなが話している。
それを呑気で羨ましいと言う顔で見ている美奈子やまこと、そして亜美は心中穏やかじゃない。
互いに目配せして暗い顔になる。
本来、空が贈るファンタジックな天体ショーは貴重な為、心から楽しみたいと言うのが本音だが、彼女達がそう出来ない事情がある。
星の守護の下産まれてきた彼女達はこの星を含む太陽系惑星を護る使命を持っている。
その為、“皆既月食”や“流星群”等と聞くと嫌な予感しかしない。
現に前の皆既日食では新月の女王の復活と侵入を許し、その後の流星群の時は太陽系外惑星から敵を侵入させてしまい、うさぎを最後まで護る事が出来ずに死んでしまった辛い過去があった。
「みんな楽しそうでなによりねぇ……。私たちの気も知らないで!」
「そうよねぇ。また何かよからぬ事が起こらなきゃいいけど……」
「万が一に備えといた方が良さそうだな」
「そうね、備えあれば嬉しいなってゆーしぃー」
「……美奈、それを言うなら“備えあれば憂いなし”よ?」
「あはは、そーともゆー」
「そうとしか言わないわよ!やれやれ……」
「某CMで間違えて覚えてるな……」
「そーそー!お墓だか終活だかのCM!」
「不吉なCM内容ね……勘弁して」
「ごめん、私のせいだな。で、どうする?うさぎには秘密裏に動くだろ?」
「あたり前田のクラッカーよ!なるべくうさぎには戦わせない方向で行きたいわ」
「はぁ……(深い溜息)美奈と喋ってると馬鹿になりそう」
「まぁまぁ亜美、落ち着いて!四天王には?どうする?」
「……話すべきじゃないかな?いざって時にまもちゃん護りたいだろうし。でも何か感じてる可能性もあるかも?……ってまだ何も無いから感じるも何もないか?」
「とりあえず何かあったら人数多いに越したことはないから彼らはとてもいい精鋭な事間違いないわ」
「決まりね!それぞれ彼氏に伝達シクヨロ~私は公斗とレイに話しておくわ」
まだ何も無い。だが、基本的に“何かある”と疑ってかかり、準備するに越したことはないと過去の数々の修羅場をくぐり抜けた結果がもたらした危険察知能力だった。
それはそれぞれが大切なうさぎを失いたくないという想いから来る絆。戦士と言う使命を超えた友情。
そして今はもっと守りたい人達、大切な人たちがいる。その為にも如何なる敵にも屈しず、戦い勝たなければいけない。ーー固く決意する。
☆☆☆☆☆
まことと亜美と別れた美奈子はレイにくれぐれも警戒を怠らないよう連絡する。
感の鋭いレイは今の所何も感じないと言っていたが、占って探ってみるとの返答だった。
レイの占いはいつもよく当たる。何も無いといいなと思いながら公斗の家へとどう説明しようと思案しつつ向かっていた。
「今月5月26日の満月は最も大きく見えるスーパームーンで、何と皆既月食も観測出来る素晴らしい天体ショーがありますよ!」
公斗の家に行くと珍しくテレビがかかっていて、天気予報士が皆既月食の事を告げていた。
「スーパームーンに皆既月食か……一緒に観るか?」
「う、うん……そーね」
「どうした?歯切れが悪いが?」
「そ、そうかな?いつもと変わらないけど」
「顔も浮かない顔をしてるぞ。隠しても顔と態度に出やすいんだ、何かあったなら話してみろ」
「私、そんなに分かりやすいかな?」
「で、どうした?」
「……ん~、端的に言えば皆既月食の日が心配」
「どういう事だ?」
「うさぎとまもちゃんを狙う新たな敵が侵略して来る、かも?」
「……考え過ぎだろ?」
「考え過ぎが私たちにはちょうどいいのよ!前の皆既日食でまもちゃんはネヘレニアの呪いで苦しんだし、うさぎも狙われたし、私たちも変身出来ず苦戦したんだから!あんた達は石だったから知らないだろうけど、大変だったのよ!」
肝心な時に石化して何も知らない事を感情任せに責めてしまった。
どうしようもない事だったのに……。反省。
「大体の事情は見聞きはしていたがな……。呪いに苦しむ衛は見ていてこちらも辛かった。何も出来ないことが悔しくて歯がゆかった……」
「ごめん。守りたいって気持ちは同じだったわね。今回は一緒に守ってくれるよね?」
「当たり前だ。何かあればサポートする」
「この事はうさぎとまもちゃんには内緒で他の6人と水面下で用心するわ。まだ何も起こってないし、起こるかも分からないから……」
やっぱり頼りになるなぁ。
マスター命は変わらないし。
いざって時は任せられて負担減るし、有難い。
一方、まことはすぐに勇人に相談をした。
「よっしゃー!久々に腕がなるぜ!」
「……いや、まだ何かあると決まったわけじゃないから。用心するに越したことはないって話だからな?」
「分かってるって!でも、トレーニングして鍛えて腕を磨くに越したこともないだろ?」
「まぁ、そうだけど……。あんまり張り切んなよ?四天王一の怪力で手が付けられないからさ」
「それはまことも同じだろ?」
「私は理性失わないから大丈夫だ!」
「本当かな?戦いハイになりそうだけど」
「それより、衛にはくれぐれもバレないようにな?」
「了解!」
力は強いし、一番頼りになるけど、一番心配なのも事実。
本当に色々と大丈夫かな?と心配になるまこと。
☆☆☆☆☆
そして亜美の方も彩都に相談していた。
「なるほどねぇ~、デッドムーンの二の舞はごめんよね?確かに皆既月食なんて月が地球の影になって色が変わってしまうんだから不安にもなるわね。うさぎが衛以外の男に寝盗られる~とか襲われる~と言う事も考えられなくもないし。ふふふっ」
「彩都さん……途中まではすごく良かったのに、はぁー。真剣に、お願いしますね!もう!」
「亜美は相変わらずジョークが通じないわねぇ~。私はね、不安そうな顔の亜美を和ませてあげようって思ったのよ?」
「冗談言ってる場合ですか?しかも内容が、ひ、卑猥です!」
「あーら、亜美ったら顔真っ赤よ?」
「からかわないで下さい!」
「怒った顔もかぁーわいい」
真剣な話をしていたはずなのに、なぜか話が逸れてからかわれてしまった。
いつもそう。私が物事を重く考える癖が付いていて、暗く悩んでいると、他愛もない話で場を和ませて明るくしてくれる。
心がとても軽く、温かい気持ちにさせてくれる。
「うさぎなら大丈夫よ!衛しか見えてないし、寝盗られることは無いわよ。衛も絶対!うさぎを離さないし、誰にも渡す気無いわよ。うさぎがいないと衛は死ぬから」
「そう、ですね」
「あ、私も同じだから!」
「え?それはどういう……」
「亜美は俺の物!って事さ!」
滅多に使わない男言葉にドキッとしてしまう。
そう言う場面じゃないのに、どうすればいいのか分からなくなって思考回路はショート寸前になってしまうが、必死で頭を働かしてやっとの思いで言葉を発した。
「と、兎に角今は索敵しても反応無いので、当日に気を張ってましょう!」
☆☆☆☆☆
美奈子からの連絡を受けたレイは、早速占ってみる事にした。
とても真剣な顔で根詰めて占っていた為、火川神社にバイトに来ていた和永は、その気迫に押され、声をかけられないでいた。それと同時に心配になっていた。
「何を占っていたんだい?とても思い詰めていたようだけど、心配事?」
占いが一段落して休憩に出てきたレイに尋ねる。
「ごめんなさい、心配かけて。一応念の為に気休めで占ってただけですわ。何も感じなかったけれど……」
何も感じない事がまるで不吉であるかのように不安な顔をするレイ。
「何かあった?力になりたいんだ」
「……実はさっき美奈から電話があって、今度の皆既月食の日、何かあるかもしれないから用心しましょって。前の皆既日食で敵が侵入して来たから、今回も有り得るかもしれないって……。まぁ、念には念をってだけで、そうなるとは限らないのだけれど」
「なるほどねぇ~、でも未来は存在してるんだろ?危機的状況にはならないかもしれないじゃないか?」
「はぁー、既に未来は違ってるじゃない!あなた達四天王復活してるのが何よりの証拠。未来は私たちの手で幾らでも変えられるわ」
「もう既に30世紀の未来はパラレルワールドの1つって奴になったってことか……。奥が深い。でもあの時いなかっただけで違う所にいてすぐに駆けつけられなかっただけかもよ?」
「屁理屈ね。でもそう考えられなくもないわね」
「まっ、気楽に行こうぜ!」
「随分と楽観的ね?」
「起こるかも分からない事に悩み過ぎるのも良くない。常に緊張感を持つのは戦士としては当たり前の事だし、いつもと変わらず、ね?」
心配しても仕方ないけど、緊張感はいつも持ち合わせている。そんな風に取れる言葉に考え過ぎて重暗くなりがちな私に彼なりの優しさや気遣いが見て取れる。
「くれぐれも衛さんやうさぎにバレないように、ね?」
「了解!まぁうさぎちゃんは大丈夫だろうけど、衛は感がいいからなぁ~。皆既月食ってなって、それだけでピリってそう」
「地球の影に月が隠れるから?」
「ベリルが復活してうさぎちゃんを殺そうとしているかも、とか。マスターの事、ずっと愛していたからねぇ……。いつかは振り向いてもらえるって思ってたから。あれは見ていて胸が締め付けられる思いだったよ」
「そう……」
そんな話は全く知らなかった。
確かに前世でも現世でもセレニティであるうさぎを憎んでいたのは何となく伝わっていたけれど、そう言う事なら色々腑に落ちる。
色んな人が不幸になった前世の地球の王子と月の姫の恋。やはり神の掟に背いてしまったからだろうか……。
前世での知らない話が多すぎる。
きっと私たち月のものと同じ様に、もしかするとそれ以上に地球側も色々と大変だったのだろう。
余裕が無く、寄り添えなかったことが今になって悔やまれる。
そんな色んな人を不幸にして転生を繰り返している私たち、その人たちのためにも幸せにならないとと気を引き締めた。
ーー皆既月食当日ーー
美奈子の提案でみんなで見ようと言う事になった。
その方が各々で不安になりながら見るよりいいのでは?と言う事だった。
何かあった時すぐに行けるようにと衛のマンションの近くの公園で見ることになった。
「準備満タンよぉ~!いつでもかかって来なさい!」
「それを言うなら準備万端だろ?」
「あれだけ不安がっていた張本人が、本当に呑気ね、美奈は。その性格が羨ましいわ」
「そう言うレイだってずっと占って追い詰められてたろ?」
「結局は何も無かったのよね?私も色々調べたけど、怪しい影は無かったわ」
「残念そうに言うわね。何も無いわよ!考え過ぎ!」
「俺なんか久々にトレーニングしたり身体鍛えて備えたぜ」
「……結局私も付き合って頑張ってしまったよ」
美奈子の一声でみんなの緊張が解れ、それぞれ軽快に話が始まった。
「皆既月食、いよいよ始まったみたいよ?」
「じゃあまたアレやっとく?“アイドルになれますよーに!”」
「美奈、そこは“敵の侵入も無く、このまま平和が続きますように”でしょ?」
「レイが祈ってくれたから私は“このままみんなで幸せに暮らせますように”だな」
「何だよ、それ?」
「俺ら置いてきぼりなんだけど?」
「私も。リーダーは知ってたの?」
「いや、何も?美奈子の考えは理解出来ん!」
「ちょっとー、何威張ってキッパリ言い切ってんのよ?元ネタはね、皆既日食の日に流れ星なんかよりずっと珍しくて貴重だから願い事したら叶うかもって小学生の女の子のママがその子に言ってたのを聞いたからで、私のオリジナルのネタじゃないわよ?」
「信じてみんなで今みたいにやったってわけ?純粋で羨ましいわ。亜美は今回はいいの?」
「……考えてなかったから、今回はパスで大丈夫です」
「亜美ちゃんは謙虚だな~。どっかの誰かさんは自分のだけ願ってたけど」
「美奈はブレないわよね」
「で、みんな叶ったのか?」
「いや、それはみんなすぐに叶う夢じゃ無かったから、叶える為に頑張ってる最中なんだよ」
前回の日食を思い出した美奈子が願い事を言い出したのをきっかけに、和気あいあいと喋りながら皆既月食を見る事になった。
「日食とは違って隠れたりするわけじゃないんだ!月が赤くなってる」
「太陽の光ってのは赤や青など色の波長の異なる様々な光を含んでいて、地球の周りにある大気を通過する時、波長の短い青い光は散乱するが、波長の長い赤い光は散乱されにくい。それが大気中で屈折する事で地球の影の中に入りこみ、赤い光が月を照らすことから赤く見えるんだ。夕日と同じ原理だ」
「……美奈のせいで急に授業みたく固くなって変に肩凝った」
「本来星といえば俺の役目なんだけど、いいとこ持ってかれたな……」
「“星は何でも知っている”もんな?」
「幻想的ね」
「でもこれが終わったら……」
「もうすぐで終わるわよ?」
彩都のもうすぐ終わりそうだという言葉に一同は固唾をのみ、緊迫感が張り詰めた。
レイが何やら唱え始め、それを見た美奈子達3人も月を見上げながら祈り始めた。
そんな4人を見て、四天王も気を引きしめる。ーー衛とうさぎに何も無ければいいが……と。
そして皆既月食が終わりを迎え、運命の刻がやって来た。
月が本来の綺麗な銀色に光り始め、落ち着く光になる。
「前回は日食の最中だったわよね?」
「そうね」
「って事は?」
「何とか大丈夫だったみたいね?」
「ほら、取り越し苦労だったろ?」
「せっかく鍛えたのに、見せ場なしか……つまんねー」
「勇人、あんた不謹慎過ぎよ!彼女達の顔を見てもそれが言える?」
「必ずしも同じ様に侵略して来るとは限らん。引き続き暫く警戒はしておくように」
「せっかくホッとしたのに……不安になる事言わないでよ!空気読めないわけ?」
「でも美奈、公斗さんの言う通りよ?衛さんやうさぎちゃんの安否もまだ確認してないのに喜ぶべきじゃないわ」
「亜美まで公斗さんの肩持つのか……」
「前回は衛さんが徐々に呪われていってたから、手放しに喜べないのは事実よ」
「そこは俺らに任せてよ!」
「そ、衛の事は私たちに任せて、あんた達はうさぎを頼むわよ!」
「じゃ、そーゆー事で、今日は解散だな!」
「「「お前が締めるな!!!」」」
「「「「アハハハ」」」」
さて、衛とうさぎの運命やいかに?
おわり
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