セラムン二次創作小説『出会いは突然に(A美奈)』
「こんなところで、どうしたの?」
久々の休日を貰った俺は王宮の外で何をするでもなく座っていた。
ボーっと物思いに耽っていると不意打ちに話しかけられてハッとなる。
誰に声をかけられたのかと周りを見渡す。少し距離を置いてセーラーヴィーナスその人がそこに立っていて驚いて、思考回路と顔面の表情が停止した。
もう一度周りを見渡す。やはり誰もいない。
となるとやはりセーラーヴィーナスその人が直々に話しかけてくれたと言う事になる。恐れ多い。だけどとても嬉しくて喜びを噛み締める。
返答に時間がかかってしまっていたからかヴィーナスが近づいてきて、腰を曲げて前屈みになり俺の顔をまじまじと見てきた。
階級が下の俺に話しかけてくれたばかりか、腰を曲げて前屈みにさせてお手を煩わせてしまって恥ずかしくなる。
そして顔が近くにあるから見惚れてしまう。流石は美の女神、美しい。
正気に戻り、漸く立ち上がり敬礼をする。
「すみません、話しかけてくださるとは夢にも思わなかったので……」
「大丈夫よ。気持ちよさそうだったからつい話しかけてしまっただけ。私の方こそ急に話しかけてごめんなさいね」
気を悪くしないで、と逆にとても気を使われてしまった。
流石はプリンセスの側近のリーダーとしてクイーンに認められただけある。誰にでも分け隔てなく気を使わないようにと気遣いも出来る高貴なお方だと感じた。
「いえ、久しぶりの急な休みだったので。何をしたらいいか分からず時間を持て余しておりましたので……特に何もしておりませんでした」
「まぁ!貴重なお休みを私なんかが話しかけて時間取ってしまったわね……」
また気を使われてしまった……。
俺はなんてダメな奴なんだ……。
こんなはずではなかったのに……。
気を使ったはずが逆に気を使われるなんて……。
俺にとってはセーラーヴィーナスと話せる事こそが貴重で尊い時間。
話す機会なんて無いから寧ろ願ってもいない至福な時。
「いえ、私の方こそお気を使わせてしまい申し訳ございませんでした!本来ならば私の様なものは貴女様に話しかけられる身分にございません。それなのに、お声かけ頂き恐悦至極に存じます」
「ふふっそんなにかしこまらないで!私も大した身分じゃ無いのよ?」
「いえ、貴女様はセーラーヴィーナス様。大変高貴なご身分と存じております」
「あら、私の事知ってくれていたのね?なのに私の方はあなたのこと知らなくてごめんなさい」
またやってしまった!
ヴィーナス様に気を遣わせまいとしているのにから回ってしまう。
やはりこういう所が下級戦士止まりで金星からここに派遣される事になってしまった所以なのかと自己嫌悪に陥る。
だが同時にそのお陰で今こうしてセーラーヴィーナスに話しかけて貰えているのだから、そんな下級な身分の自分に感謝だ。
しかし、ここは地球。お互いの母星の金星では無い。
何故いるはずの無いお方が地球にいるのだろうか?
疑問に思っていると遠くの方にエンディミオン様が見えた。その傍らには月の王女、セレニティ様が寄り添っていた。
成程、やはりそういう事か……と納得する。
地球国の王子が月の王女と心を通わせ、逢瀬を繰り返してる。と王宮内で良くない噂として出回っていた。
禁断の恋ゆえ、秘密裏に動いているようでその姿を見ることは今まで無かった。しかし、セーラーヴィーナスがお声掛け下さった事で漸く噂が本当であった事が確認出来、核心へと変わった。
と言う事はセーラーヴィーナスはプリンセスの護衛で地球(ここ)へやって来たという事か。
側近とは逢瀬の警護までしないといけないのかと単純に大変だと気苦労に頭が下がる思いだった。
「いえ、私の名前はアドニスと申します。貴女様と同じ金星から地球(ここ)に、戦士として遣わされて来ました。王子エンディミオンの側近で四天王の一人、クンツァイト様直属の配下です。自己紹介が遅れてしまい、大変失礼致しました!」
「大丈夫よ。そう、あなたも私と同じ金星人なのね!ヨロシクね!」
跪き、丁寧に挨拶をする。
こんな所で同じ金星出身者と会えると思って無かった彼女は驚きつつも笑顔でウインクをしてくれた。
しがない下級戦士のオレにまで優しく接してくれて、まさに女神だと思った。
調子に乗って手を差し伸べると取ろうとおずおずと出したかと思えば、照れながら引っ込めてしまった。
やはり下級戦士の俺如きには手が届かない存在なのだとその行動で理解し、身分をわきまえようと肝に銘じた。
「クンツァイトに虐められたりしていない?」
「いえ、良くしていただいております」
「そう、もし虐められたりしたら遠慮なく言ってね!私が懲らしめてあげるから」
楽しそうにクンツァイト様の話をする女神を見て気付きたくもないのに気づいてしまった。ーー彼女の心の内を。
認めたくは無いが、間違いない。クンツァイト様の事を……。
その先を言ってしまうと現実になってしまうと思い、考えを止めた。
そして運命のいたずらか、その後ヴィーナスとは会えないまま地球と月の争いに巻き込まれる形になって天命が尽きてしまった。
次に俺がヴィーナスにあった時は敵としてだった。
前世の記憶を持っていた俺は、一目でヴィーナスその人だと分かった。
だけど、彼女の風貌は前世では見た事も無い衣装に知らない名前で活躍していた。
これは運命か?運命と言わずして、なんと呼ぼう。
今度こそ、彼女に近付きたい。その想いに突き動かされていた。
では、どうすればいいか?
“セーラーV”と名乗った、かつて恋焦がれていた金星のプリンセス。
前世では手が届かなかった孤高の存在。
身分違いもいいとこな片想いだった恋。
しかし、今は同じ地球で身分や階級を気にしなくてもいい。気を使わなくてもいい。
彼女と同じく、今の俺も名乗る名が違う。
これもまた巡り合わせだろうか?
彼女は風貌も変えている。俺もアドニスの時とは違う格好にしてみるのもいいかもしれない。
前世の俺を彼女は知らないが、再出発をするには丁度いい。
今の名はダンブライトだが、そう名乗って彼女の前に立ったことは無い。
名前も組織から与えられた名前では無いものを名乗ろう。
前世の彼女は、惚れっぽい性格だった。
今の彼女がそれを受継いでいるかは正直分からない。
しかし、俺は前世も今もヴィーナスに囚われている。きっと、似たような性格だと推測出来る。
俺だってかつては金星人。見た目には自信がある。
ダークキングダムのエナジー集めも出来て、彼女にも近付けそうなもの。本物のアイドルになる事を思い付く。
セーラーVその人も、この頃“アイドル戦士”と言われていた。賭けでしか無いが、近づけるのではないか?そう、自分の作戦に自信を持った。
そして俺は、セーラーVと同じくマスクを付け、ダンブライトの名を隠し“怪盗エース”としてテレビで活躍を始めた。
この作戦は項を制し、近づく事に成功する。偶然だが、正体も知ってしまった。
後はどう彼女に近づき、俺に振り向いてくれるか?
彼女は強い。プリンセスを守る戦士のリーダーだったのだから。守られたり、助けられるなんて、きっと嫌うだろう。そう考えていた。
だけど、彼女はピンチに陥っていた。
体が勝手に彼女を助ける様、動いていた。
思わぬ事態だったが、後悔はしていない。
これからも彼女のピンチを救いたい。
彼女のピンチを救うのは俺でなければならない。そう思った。
ただ、やはり彼女の戦闘力は高い。かつての姿と重なる。俺が憧れていた彼女が今もそこに存在していた。
敵を送るのは俺の役目。なら、わざと彼女が苦戦する様な強敵を送り込もうと考えた。
そして、ピンチに陥るセーラーVを助ける。俺はそこまで強くは無いが、俺の手下の妖魔だ。手の内は分かっている。攻略可能だ。
「クレッセント・ビーーーーー厶!!!」
セーラーVの必殺技が炸裂する。
しかし、強い敵は致命傷を追わず、倒れなかった。
それを、草葉の陰から行く末を見守る。今はまだ、その時じゃない。もっと彼女がピンチにならなければ……。
「な?倒れない?な、んで?」
驚き、動揺するのが見て取れる。肉弾戦が始まる。何とか逃げ交わすセーラーV。
逃げ惑っていると、バランスを崩して、その場に倒れてしまった。最大のピンチ。今だ!
「デリシャスフォーカードショーーーーーット!!!」
最初に助けた時と同様、カードで敵を切り裂く。敵と言っても俺の部下だが。彼女の心を手に入れるなら、例え部下でも利用するし、慈悲などない。
「エース!?」
俺に気付いた彼女は、名前を叫ぶ
「やぁ、危ないところだったね。大丈夫だったかい?」
「ええ、助かったわ。ありがとう、エース」
その場に尻もちを着いたまま、笑顔で俺に礼を言うセーラーV。
「立てるかい?」
彼女に手を差し伸べる。かつて、その手は取られることはなく、振りほどかれてしまったが……。
しかし、今度は素直に取り、立ち上がった。
そして、繋いだ手は今度こそ振り払われずに、きゅっと握り返された。
おわり
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