セラムン二次創作小説『陽のあたる場所で(まもうさ)』
メタリアとの戦いから数日経ったある日の夜。
この日、衛は四天王をサイコメトリーの力で呼んでいた。
「マスター」
「お呼びでしょうか?」
「お久しぶりです」
「まさか呼んで頂けるとは」
四人はそれぞれ反応をする。
軍服に、跪きこうべを垂れたまま話す四人は、呼ばれた事に驚きを隠せないでいるようだ。
「ああ、実は色々と話しておきたくてな」
そう前置きをした衛は、頭を上げるように四天王に告げる。
「お話……ですか?」
クンツァイトは、平和になったこの世で何を話す事があるのだろうかと皆目見当もつかない。
「ああ、メタリアとの戦いでは世話になった」
「いえ、私たちは何も」
「アドバイスをくれた」
「せめてもの償いです」
「洗脳されてしまったことへの?」
「はい。一度ならず、二度までも」
「とても不甲斐なく思っております」
「どう詫びればよいか……」
「後悔してもしきれません」
各々、二度の洗脳に悔やんでいるようだった。
「俺は気にしてなどいない。攻めてくれるな」
「しかし……」
「皆まで言うな!俺は又お前達と話せて嬉しいよ。お前達は?」
「それは、勿論。私たちもこの上ない幸せです」
クンツァイトが代表でそう話す。
「この先も、こうして俺と話したい。そう思ってお前達の翡翠を飾る器を買ったんだ」
「なんと言う慈悲深い」
「こんな立派なところに入れてもらえるなんて」
「まさかこんな待遇が待っていようとは」
「ただの石の私たちには勿体無い」
衛が器を見せると、四天王はこんな待遇を受けられるとは思っていなかったから驚きを隠しきれないでいた。
「何故、こんな……?」
「お前達は俺の大切な友達だからな。これからもずっと」
「マスター」
衛の言葉に四天王は言葉にならない様だ。
「それともう一つ!」
先程までの優しい表情からは一変。真剣な眼差しを向けられ、ネフライト達は気を引き締める。
「うさことーープリンセスと又この世界でも付き合いたいと思っている。良いか?」
真剣な表情で何を言うのかと思えば、うさぎとの付き合いを許して欲しいとの事だった。
ゾイサイト達は、表情と言葉のギャップに拍子抜けする。
「何故私たちに言うのです?」
「前世ではお前達に隠れて付き合い始めた。反対しながらも護衛をして見守ってくれていた。今回は、ちゃんと前もって伝えたかったし、祝福してもらいたい」
尚も真剣な表情で衛は心の内を語る。
前世、セレニティとは誰にも応援されずに付き合っていた。
しかし、この世界では四天王に祝福して欲しいと願っていた。
「勿論、祝福致します」
「寧ろ、私たちはマスターの幸せをずっと願っていましたよ」
「あの頃、口には出せませんでしたが、プリンセスとはお似合いだと思っていましたし」
「本当は、誰よりもお二人を応援しておりました」
「お前達……」
四天王の本音を聞き、衛は胸がいっぱいになるのを感じた。
掟がある以上は反対しなければならない。黙認する他無い。仕方なく容認しているのだと考えていた。
しかし、実際は違っていた。本当は心から祝福したかったと聞き、驚いた。こうして話さなければ分からなかった気持ちに、やはり報告する事は大切だと感じた。
「前世の分も、幸せになって下さい」
「ずっと、末永くお幸せに」
「ああ、ありがとう。お前達の分も幸せになるよ」
「私たちの事は気にせず、どうかお幸せに」
「そうそう、気楽に行こうぜ!」
「お前は気楽過ぎだ!」
堅苦しさに嫌気がさしたネフライトが軽口を叩くと、ジェダイトにすかさず指摘する。
空気が一新し、軽くなる。
「明日、朝から会う約束をしているんだ。そこで正式に告白しようと考えている」
「頑張って下さい」
「何言ってんだよ、クンツァイト?答えは1000%決まってるだろ?」
「それでも、告白ってのは緊張するもんよ」
答えの決まっている告白に頑張る意味がわからないネフライトをゾイサイトが咎める。
「大体、いつもお前は何でもフラットに考えすぎなんだよ!もうちょっと人生自体を重く受け止めろ!人生はいつだってハードモードなんだよ!」
クンツァイトに次いで真面目なジェダイトにネフライトは怒られる。
「ハハハ。お前ら、仲良いな」
「何処がですか?」
「ほら、ハモったぜ?」
「心外ですね。こんな不真面目な奴らと一緒にしないで頂きたい」
「硬いクンツァイトと同類にされるのはなぁ……」
「それはこっちのセリフなんだけど」
「ほら、お前らマスターに笑われてっぞ!」
「いや、すまん。昔に戻った様な感覚がしてな」
「私たちはあの頃と変わりませんよ」
「そうです。あの頃と同じ」
「いつでもマスターの味方です」
「そして、友であり、家族であり、時に切磋琢磨するライバルですよ」
「そうだったな」
「マスター、どうかお幸せに」
クンツァイトがそう言うと、四人の亡霊は姿を消した。
「ありがとう。お休み」
時計を見ると、日付が変わろうとしていた。
衛は明日のうさぎとの初めてのデートに備えて寝る事にした。
翌日、俺は六時に目が覚めた。
メタリアとの戦いから数日。平和を取り戻し、初めての休日だった。
戦いが終わったあの日、うさこを家まで送ったり、学校に登校する前や放課後に少し会うということはしていた。
しかし、デートらしいデートはこれが初めてだった。
支度をしていつも会う公園へ向かう。
ここからまたうさぎと新しい関係を築く。そう考えると身が引き締まる思いだった。
待ち合わせは11時だが、待ち遠しくて早めに着いてしまった。
30分程待っていると、遠くの方から甲高い声がして持ってきて読んでいた本から目を逸らし、声の方へと向くと、うさこは走ってこちらへと向かって来た。
「ごめーん。待った?」
遅れてきた時の定番のセリフを口にしながら、息を切らして申し訳なさそうにしている。
「いや、俺も今来たとこさ」
俺もド定番のセリフで笑顔でうさこを迎え入れる。
ベタなやり取り一つも俺にとっては新鮮だ。
本当は30分以上待っていたが、その待ち時間も楽しく愛おしい時間だった。うさこが来たらどんな話をしようとか、どこへ行こうとか。色々想像しながら待っていたから、あっという間に時間は過ぎていった。
最も、ワクワクして早く来た俺が悪いのだ。時間を少し過ぎているうさこを咎めるのは違うと感じた。
「まぁ座れって。息が荒れていたら辛いだろ?」
「ありがとう、まもちゃん」
待っている時に座っていたベンチにうさこを座らせてやった。慌てて走ったのだろう。息苦しそうだった。
先ずはその荒く苦しそうな息を整えてから出ないと歩くのも辛いだろうと感じた。
「はぁはぁ」
ベンチに座ったうさこは肩で息をしながら呼吸を整えようと必死だ。
ヒーリング能力を持つ俺だが、流石に呼吸はどうしてやる事も出来ない。
「ふぅー、落ち着いた!」
一つ深呼吸をしたうさこは、そう言うと笑顔で元気にジャンプをして見せた。
「さて、呼吸も整ったからどっか行こ♪何処に行こうか?」
笑っていたうさこは、今度は考え始めた。表情が変わる。まるで百面相だ。
「うさこ!」
俺は、そんなうさこを呼ぶ。
どこかに行く前に、伝えておきたいことがあったからだ。言うのはこのタイミングしかないと思った。
「なぁに、まもちゃん?」
うさこを呼ぶと、笑顔で優しく呟いた。
「うさこの事が大好きだ。俺と、付き合ってくれませんか?」
「まもちゃん……」
前世では、自然と付き合いが始まった俺たち。
今世でも、メタリア戦が終わる前から友達以上恋人未満な関係が続いていた。キスも何度もしていて済ませているし、お互い愛称で呼び合うほどに親しい。
ヴィーナス達から見ると、もう充分恋人だと言われそうだ。
しかし、やはりこう言ったことはちゃんとケジメをつけたいと俺は考えていた。
前世と違い、将来がある。付き合った先に結婚と言う確かな未来が今の俺たちにはある。
だからこそ、ちゃんとしておきたいと考えていた。
「……返事は?」
俺のことを呼んでから、思考回路がショー寸前なのか。暫く沈黙で言葉が無く、流石に不安になる。
「う、嬉しい」
そう返事をしたうさこは笑顔になったかと思えば、両方の瞳から大粒の涙を流していた。
「私も、まもちゃんの事、大好きだよ!」
「それじゃあ……」
「不束な娘ですが、末永くどうぞよろしくお願いします」
「うさこ」
俺の真剣な告白に驚いていたうさこだったが、喜びからか返事をし終えると抱き着いてきた。
そんなうさこを俺は優しく抱きしめ返すと、俺の胸の中で泣いていた。
「まさか、告白してもらえるなんて夢にも思わなかったよ」
ひとしきり泣いたら、うさこは胸の中から顔を上げてそう話しかけて来た。
「何で?するよ?大事な事だろ?」
「そうだけど、そうなんだけどさ。私たちってもうとっくに付き合ってるって思っていたから。何か今更だし、このまま続いていくのかなって思ってた」
「ケジメは大事だろ?それでなくとも俺たち、前世は掟を破っていたんだ。この世界の仕来りに合わせたいと思ったんだ」
「まもちゃんも、案外普通の男の子なんだね。うふふ」
「ああ、普通だ。悪いか?」
俺たちはタダでさえ普通とは程遠いところに身を置いている。だからこそ、日常生活では誰より普通でありたいと思っていた。
「ううん、全然!寧ろ、まもちゃんが普通で良かった。こうして告白して貰えたんだもん」
「うさこがこんなに喜んでくれるなら、告白してよかったよ」
「喜ぶよ!」
喜ぶうさこの弾けるような笑顔を見て、改めて告白して本当に良かったと心から思った。
「うさこ、前世よりも幸せになろうな?」
「うん。勿論だよ」
「エンディミオンとセレニティが見たらヤキモチを焼く程、幸せになろう」
「二人が羨ましいって思うくらい、二人以上に幸せになろうね」
「これからは、前世と違って堂々と付き合えるしな」
「そだね。もう、隠れて会わなくても良いんだね」
そう、俺たちはもう一国を背負う王子と王女では無い。神の掟も無い。
これからは堂々と、陽のあたる場所で好きな時に好きなだけ会う事が出来る。
もうあの頃のように隠れて会わなくてもいい。そんな幸せを勝ち取ったのだ。
「セレニティ、ありがとう。クイーン、お母様、ありがとう。私、私たち幸せになるね。見守っていてね」
うさこは空を見上げ、まだ真昼で見えない月に向かってそう呟いた。
「クイーン、本当にありがとうございました」
そう、この幸せはクイーンが銀水晶で願ってくれたからに他ならない。尊い犠牲と共に得られた幸せに、感謝してもしきれない。
そんな人たちの為にも俺たちは幸せにならなければならない。俺は、より一層気を引き締めた。
「じゃあ、付き合った記念にデートに行きますか?」
「うん」
こうして俺たちは陽のあたる場所で光を浴びて悲しみを笑顔に変えて堂々と付き合う事になった。
おわり