セラムン二次創作小説『淡恋花火
「やっぱり、すっごい人だね」
「本当だね」
見渡す限りの人混みに、ちびうさとエリオスは驚きを隠せないでいた。
そんな2人はこの日、近くで行われる花火大会へと来ていた。
打ち上げ花火を見に行くという体験は、二人とも初めてだった。その為、イベント事に詳しくこの時のみとても頼りになるうさぎに色々アドバイスを貰っていた。
「こういうイベントは人が多いから早く出かけるのが賢いのよ」
このアドバイスをすんなり受け入れて早めに来たのにこの人集り。みんなの気合いと楽しみを肌で感じる事になった。
「エリオス、大丈夫?」
「ちびうさちゃんこそ、大丈夫ですか?」
お互い心配する2人。
何故なら、ちびうさは未来ではクリスタルパレスにいて、人混みを知らない。
一方のエリオスもエリュシオンに引きこもって衛と地球の安否を祈る日々。メナードの二人以外人がいない。
そんな二人の未知の体験に、心配でたまらないのだ。
「うふふっ私は大丈夫だよ」
「僕も平気です。驚きましたが」
どこにこんなに人がいるのか?疑問に思うが、それよりもお互い同じ心配をしている事を知り、以心伝心だと嬉しくなった。
シュー、ドンッドンッ
顔を見合わせて見つめあって笑っていると、花火が上がり始めた。
「わぁー、始まった」
交わっていた視線は逸らされ、空へと移された。花火を見上げ、感嘆しているちびうさに寂しさを滲ませるエリオス。
そうとは知らないちびうさは呑気に花火を楽しんでいる。そんな姿を横目でずっとエリオスは見続けていた。
「とっても綺麗だね、エリオス」
そう言いながらこちらの方向へと顔を向けたちびうさと、先程からずっと見つめていたエリオスの視線が不意にぶつかった。
見つめていた事を悟られるのではないかと、一瞬エリオスはドキッとした。
「そ、そうだね。花火、綺麗だよね」
慌てて取り繕う為にかなり不自然にデカい声で言ってしまい、途切れた花火の間にまに大きく響く。そして花火と言う部分だけが強調される結果になり、穴があったら入りたい気分に陥った。
「ちびうさちゃんのが綺麗だよ」
本当は君しか見えていなかった。だからこんな歯の浮いたキザなセリフが言えたら良かったが……
実際は照れ隠しの言葉しか出てこなかった自分に、エリオスは自己嫌悪に陥った。
こんな時、衛ならばサラッと言えるのだろうが、まだまだ子供で恥じらいがあると感じた。
「連発花火って奴だ」
再び視線を空へと向けたちびうさは、連発花火を楽しんでいた。
その姿を見てエリオスは、現代でこうしてちびうさと想い出を作れる事に幸せを噛み締めていた。
クイーンの計らいで修行にここに来たが、ちびうさと時間を共に出来ることに感謝した。
どうすればいいか分からない所謂世間知らずなエリオスは、一足先にこの地で修行をしていたちびうさのリードにより、色んな体験をしていた。
「小さな乙女」
そう思っていたが、中身は立派なレディ。そして自分よりはるかに大人で経験豊富。漢として情けないとエリオスは感じていた。
そんな自分がこの先、ちびうさを幸せにできるのだろうか?隣にいてもいいのだろうかと自信を失くし、挫けそうになる。
「ちびうさちゃん!!!」
打ち上げ花火を見て尚もはしゃぐちびうさは、見た目相応の小さな乙女そのもの。
しかし、エリオスの目には大人の女性に見えていて、一回り大きい存在に映っていた。そんなちびうさが遠くに行ってしまいそうで怖くなったエリオスは、不意にちびうさを強く抱きしめた。
「キャッエリオス、急にどうしたの?くすぐったいよ」
急に意図せず抱き締められたちびうさは、驚いて声を上げる。
しかし、何も言わず抱き締め続けるエリオスに、密着した温もりから不安を感じ取ったちびうさは言葉を失い、抱きしめ返す。
「エリオス、大好きだよ」
その声色は、まるで聖母のような慈しみのあるく優しい声。
「僕の方こそ、ちびうさちゃんが大好きです」
ちびうさの寄り添う様な優しさに触れたエリオスは、やっとの思いでちびうさに対する気持ちを言葉にした。
花火という照明を浴びながら、二人は目的もそのままに、いつまでもいつまでも抱きしめあい、お互いの気持ちを確かめあった。
おわり
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