セラムン二次創作小説『寒さなんて投げ飛ばせ(クン美奈)』
夜更け過ぎから雪が降り、都心も積もるとテレビの予報通り大雪が降ってきて外の様子を見ながら美奈子はソワソワしていた。
「アルテミス!大雪よ!夜中の間に積もるかな?」
「嬉しそうだな?僕は寒いから憂鬱だよ」
「白いから雪と同化するもんね笑」
「美奈ぁ~…」
雪にテンションが上がりながらも翌日は土曜日で君斗との約束があったのと積もる事を期待して早く眠りにつく事にした。
そして翌日、普段なら休みは遅くまで寝ている美奈子だが前日の大雪を見て積もっただろうとの期待から学校のある日よりも早く目が覚める。
そしていの一番に窓から外を見て雪が積もっているか確認すると、外一面銀世界の雪景色にテンションが爆上がりする。
「わーい、めっちゃ積もってる!」
寒くてまだ夢の中にいたアルテミスは美奈子のテンション高い大声に驚いて目を覚ます。
「今何時だよ?朝からテンション高過ぎ…」
「7時よ!見て見て、辺り一面雪よアルテミス!」
「はいはい、良かったね?」
テンションが低いアルテミスを他所にテンションが高い美奈子は上機嫌で鼻歌を歌いながら外に行く支度を始める。
歩きやすい格好に着替えた美奈子は珍しく早く起きてリビングへ行くと母親にこんな時ばかり早起きなんだからなどと小言と嫌味を言われながら朝食を食べる。
「遊びに行ってきまーす」
「滑らないように気を付けるのよ!」
積雪30cmくらいだろうか?膝下ではあるが、都会にしては積もった雪を歩くのに運動神経抜群の美奈子も慣れない雪の上を歩くのは中々苦戦していた。
早く会いたい、より長く一緒にいたいという理由と雪が積もるとの天気予報を素直に受けて学校終わり直接衛のマンションに泊まりに行ったうさぎが賢い選択だったと前乗りせずに家に帰った馬鹿な自分を心の中で呪いながら注意しつつ歩く美奈子だが、まぁこれも雪の日の醍醐味と戦士としての訓練だよなと前向きに考え君斗のマンションへと向かう。
雪が積もるのが楽しみで早く起きた勢いで早めに出たのは正解だった。雪のおかげで慣れた道も中々進まず、時間がかかり苦戦しながら君斗のマンションに着いたのは家を出てから2時間後の事だった。最も、普通にマンションに向かっていた訳では無い。雪で遊びながら向かっていた。
「君斗ー来たわよ!外行くよ!」
「騒がしい登場だな。雪が積もってる外なんぞ出たくない」
「なぁに言ってんのよ!せっかく積もったのよ?遊ばなきゃ損よ!」
「雪の日でもお前は元気だな」
行くわよと甲斐甲斐しく支度を手伝ってきた美奈子に手を取られ、強制的に外に連れ出された君斗は外の寒さに身震いする。
ヒートテックとダウンジャケットに身を包んで万全の寒さ対策をしていた。しかし、外は予想以上に寒く、こんな寒さの中一体美奈子は何がしたいんだと聞こうとしたその時、君斗の顔面に美奈子が投げた雪で作ったボールがスクリーンヒットした。
「イテッ」
「やったー流石私!顔面に命中~100点!」
「何をするんだ?イケメンな顔が台無しじゃないか!」
いきなり雪を当てられ、喜びながら点数を付ける美奈子に腹を立て、売られた喧嘩を流れで買う羽目になり彼女の思う壷に入った君斗は手加減等せずに力いっぱい投げ返した。
姫を守るリーダーで負けず嫌いの彼女は兎に角手加減を嫌う。手加減をしようものならプライドの高い彼女の逆鱗に触れ、余計勝負がヒートアップして収まりがつかなくなる。その為、情け容赦無く最初から本気の雪合戦。
勢いよく美奈子目掛けて行った雪のボールは当たるかと思ったが、反射神経が良く、飛んでくることを想定していた為、華麗に避けたかと思えば左の首の横を掠め勢い良く飛んで行った。
「フンっこの私に勝てるかしら?」
「ふんぞり返っていられるのも今のうちだ」
してやったりのドヤ顔で謎の勝利宣言をする美奈子にはちゃんとした勝算があり、勝ち誇っていた。そんな美奈子に負けず嫌いに火がつき敵意むき出しで負けじと受けて立つ君斗。
「行くわよ!」
「望むところだ」
言うが早いか美奈子の投げた雪が飛んでくる。今度はさっきの不意打ちとは違い、合図があったお陰で勢いがあったものの心の準備が出来ていて避ける事が出来た。しかし、雪に慣れていないために避けた勢いで身体のバランスを崩してしまい、倒れそうになった。
「やっぱり雪に慣れてないわね笑。それじゃぁ私には勝てないわよ!」
得意気にふんぞり返っている美奈子は丸めた雪をポンポンと空中に上げては手に落としを繰り返しながら君斗を嘲笑った。
そう、美奈子は2時間かけて君斗のマンションに歩いて来ていた事もあり、すっかり雪と友達になって攻略していた。これが美奈子の確かな自信と勝算へと繋がっていた。
一方の君斗はそんな事とは知らず、降り積もった雪をしり目に暖かい家で彼女を待っているだけで何もしておらず、雪に対して免疫が全くついていなかった。
「どういう事だ?」
「あのね、私、ここに2時間かけて来たからその間に雪に慣れたのよ。でも君斗は違うでしょ?」
「なるほど、1歩リードしているという事か?フェアじゃないな?」
「レディーファーストよ」
「お前はアスリート以上の運動神経の持ち主だからそれは通用しない。でも俺はその上を行くから負けん!」
勝算の理由を聞いた君斗は、要するに雪合戦をしながら雪に慣れていけばいいだけの話で簡単(自称器用な男No.1)な事だと閃いた。
そして本格的に2人の雪合戦が華麗に幕を開ける。
お互い本気の真剣勝負。恋人だからとかそういう感情は一切かなぐり捨て、運動神経抜群で負けず嫌いのアスリート同士の対決になり、手加減等一切せず本気モード。
夢中で雪を投げ合う二人。
2人とも相手に命中出来る程の腕前だが、運動神経が良い為、ギリギリの所を避けて掠めるという1歩も譲らぬ攻防戦。最初こそ雪慣れしていなかった君斗だが、流石は運動神経抜群なだけあり、急速に雪の攻略をしてしまう。それを見て美奈子は流石は私が認めた男と心の中で嬉しく思っていたが、真剣勝負の最中の為、口が裂けても言えなかった。
最初は寒がっていた君斗だが、美奈子との激しい雪合戦に身体はすっかり暖まり、良い汗をかくまでになっていた。家で勉強していてもここまで温まらないだろうと美奈子に心の中で身体を動かせたことへ感謝していた。
本気の雪合戦をしている最中君斗は、遠い遠い昔の前世の事に思いを馳せていた。勝負事が好きな前世の彼女も今の様に何かと勝負をしかけてきて、その度に受けてたっていた。剣やランニングと身体を動かす物ばかりだが、持ち出した勝負事は流石にどれも自信があるものばかりで手加減せず本気で挑んでも互角だった。これもお互いの主君をいざと言う時に守れるようにと訓練の一環でもあったし、どれもこれもヴィーナスと過ごしたかけがえない大切な時間や想い出となっていた。
その内、力が入ってきた美奈子は日頃の君斗への不満や悪態をつきながら雪を投げ始める。それを受けて君斗も日頃の美奈子へのストレスを込めて投げると2人は口喧嘩をしながらより一層激しい攻防戦を繰り広げていた。
“君斗のバカ!” “頭でっかち!” “白髪頭!” “おっさん!” “分からずや!”
“もっと勉強しろ!” “女らしくしろ!” “カレーくらい作れるようになれ” “ちょっとは遠慮という言葉をしれ” “汐らしくしろ!”
と言った具合である。
負けず嫌いの2人は中々勝敗が付かず夢中になり本気の雪合戦をしているとその内それを近所の家の中から見ていた人達やたまたま通り掛かった通行人が、大人二人が本気の雪合戦でとてもいい勝負をしていると寒い中雪が飛んでこない所まで近付いてきていて、ちょっとしたギャラリーが出来ていた。
それに気付き、漸く我に返った2人は見られていた事に恥ずかしくなり、いつまでたっても勝敗が付かなかった為止めることにした。時間を忘れて雪合戦を1時間以上戦い続けていて、時間は正午になろうとしていた。
「引き分けと言った所だな?」
「そうね。また次に持ち越しね」
2人の会話を聞いたギャラリー達は終わった事を悟り、とても残念そうに散り散りにそれぞれの家へと帰って行った。
君斗もそれを見送ったあと帰ろうとしていたが、美奈子はまだ名残惜しそうだった。
「最後に1つだけやりたい事があるんだけど」
「何だ?」
「雪だるま作ろう!」
雪合戦の余韻の中、今度は雪だるまを作り始める。
出来上がった雪だるまをよく見ると美奈子の相棒のアルテミスだった事に気付き、盛大に嫌な気分になる君斗。
「これ、美奈子のところの白猫だな?」
「そう、アルテミスよ!同色だからピッタリでしょ?」
「言われればそうだが…今日はアイツはどうした?」
「猫は寒さに弱いから炬燵で丸くなってるんじゃない?この雪で同じ色のアルテミスが歩いたら同化して紛れて何処にいるか分からないしね笑」
ライバル心むき出しだった美奈子の相棒だが、エラい言われように不覚にも不憫になる君斗だった。
おわり