セラムン二次創作小説『好きな子がメガネを忘れた(ゾイ亜美)』


 今日の亜美はいつもと違う。大分、と言うかかなりおかしい。変だ。
 どう変なのかと言うと、スキンシップが激しい。激しいと言う言い方は少しオーバーで盛ったけれど、ほぼスキンシップをしない亜美だから決してオーバーな表現じゃない。
 じゃあどう言うスキンシップかって言うと、単純だけれど私の腕に両手で抱き着くように引っ付いているのよ。

 ね? スキンシップが激しいでしょう?

 普段はくっつくなんて以ての外。私が触れようとしようものなら光の速さで避けるのよ?
 仮にも彼氏で恋人よ? 付き合っているのにこの態度。そんな子だって分かっていてもショックだし、傷つくわよ。

 そんな恋愛に免疫力のない亜美。それが一点、外でもずっとぴったり私にくっついて離れないのよね。あれだけ人前でも二人きりの空間でも嫌がる亜美が! 進歩よ! 大進歩!

 これが亜美本人なら大進歩なんだけど。ちょっと疑っている私がいるわ。ちゃんと亜美本人なのかしら? って。
 疑いたくなるには理由がちゃんとあるの。亜美を始め、私達は普通じゃない。特殊な能力を持っている。
 その中でもうさぎと美奈子は七変化が出来る便利な道具を所持しているのを知っている。だから、この亜美はうさぎか美奈子が化けた亜美だと疑いをかけてしまっている。
 二人とも特に恋愛に対してガードが緩いし、スキンシップなんて十八番でお手の物。掌で転がされている様な気がするのよね。疑いたくないけれど、疑ってしまう。悲しき騎士の性。

 勿論ね、亜美本人であるならこんなに嬉しいことは無いのよ? 好きな子にくっつかれて嫌な男なんていないんだから! 有頂天よ!
 こんなところでデートするより二人きりになれるところに今すぐに行って押し倒してやりたいわよ!
 それくらい幸せだし、最高に楽しいのよね。まぁそのまま他の仲間にも見せびらかしに行くのも良いわよね。でも、これをした場合、今までが惨めに思えるから却下ね。

 何にしても悶々と考えていても仕方ないから亜美に聞いてみることにするわ。

「ねぇ、あなた本当に亜美?」
「ええ、ちゃんと亜美です。どうして?」

 話しかけると顔を上げる亜美。上目遣いで、それでいて潤んだ瞳と目があい、キュンとする。
 っていやいや、違うわよ! 何故心外とばかりに問いかける? 今までと全く違う行動しているのに気づいていないの? 無自覚? え、怖い! 何この子? 実は魔性なんじゃ……

「あのね、今日の亜美の行動が変なのは気づいていないの?」
「え?」

 いや、困惑されても。そんなあなたの態度で益々こちらが動揺するわ!

「普段の亜美ってスキンシップ苦手、と言うか嫌いでしょ? それが、いきなりこれだから。どういうことなのかなって気になるじゃない?」
「あっ、確かに……」

 ここでようやく同じな状況であったことを理解した。勉強では答えを導き出すのは誰より早いのに、本当、恋愛となると理解力は低下して答えを出すのが困難になるのね。

「私、美奈子かうさぎが亜美に化けてるんじゃないかって疑うレベルに普段の亜美と乖離しているのよ」
「それで、無口で考え込んでいたんですね」

 頭が冴えてきたのか、状況整理を始める。

「本当に亜美本人なのね?」
「ええ、大丈夫! 水野亜美本人よ!」

 やっぱりキャラ変でもしたのか? と思うほどはっきり返答する。

「分かったわ。亜美なのね。良くないわよね、疑ってばかりは」
「いえ、当然です。騎士としての行動としては満点ですね」
「お褒めに預かり光栄」
「うふふ」

 やっぱり亜美本人のようね。美奈子やうさぎはこんな言い方はしないもの。やっと安心したわ。

「でもどうしたの? こんなにくっついて」
「あ、あの……」
「なあに?」
「実は、今日眼鏡もコンタクトもし忘れてしまったの! だ、だから……家に帰るまで、このままでも良いですか?」

 裸眼で何も見えなくてと亜美は不安そうに訴えて来た。

「そう言うことだったのね。大丈夫よ。好きな子に頼られて嫌な男なんていないんだから! くっつかれるのも嬉しいしね。何ならずっと眼鏡もコンタクトも忘れてくれていいのよ」
「まぁ。ふふふ」

 そそっかしい彼女に感謝の一日だった。

おわり

20240124

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