セラムン二次創作小説『どんな姿形になっても(クン美奈)』
『どんな姿形になっても』
「本当に石になってたなんてね……」
金髪ロングの髪の毛を、赤いリボンで後ろに括った特徴のある髪型をした少女ーーー愛野美奈子はケースに大切に保管された石にそう呟いた。
最初は、半信半疑だった。
「四天王がまもちゃんの家に石になって居候してる!」
興奮気味に彼女の守り人である月野うさぎが受験勉強をしている時にそう喚き散らした。
美奈子はその言葉に耳を疑った。
非現実的なその言葉は、勉強嫌いのうさぎが受験勉強で気が狂ったのだと考えた。
「うさぎ、しっかりしなさい!受験勉強で疲れて夢でも見ているのよ」
うさぎの言葉を信じられない美奈子は、即座に否定した。現実離れしたその話は、到底信じがたく、幾ら受験で疲れているからと言って直ぐに受け入れられる話では無い。
「違うよ!ちゃんと見たんだもん!まもちゃんに会わせてもらったんだから」
「どう言う事だよ?」
「石なのに会うって表現は正しくないわね。見せてもらった、じゃないの?」
まことと亜美もうさぎの言動に首を傾げる。
それもそのはずで、確かに四天王は目の前で死んだ。それが何故かどうなったのか石になって存在していると言う。ーーー信じ難い事だ。
「そう、彼ら石に魂が宿っているの」
静かに聞いていたレイは意味ありげに考えながら思慮深く答える。
この中で唯一霊感があるレイは、何となく察していた。衛の守護霊として四天王は近くにいるのではないかと。それが、うさぎの説明により納得するに至った。
「レイちゃん、何か知ってるの?」
「別に。彼らの波動を感じるだけよ」
霊感の強いレイが肯定することにより、現実離れしていた出来事に現実味を帯びた。
そのことにより、美奈子はうさぎの何の脈略も無い話しを受け入れることにした。
しかし、受け入れたからと言ってもやはり信じ難い話。この目で見るまではと考え、衛のマンションまで単身突撃して来たのだ。
「ヴィーナス殿か……」
懐かしいなと綺麗な銀髪ロングの髪型の男はフッと微笑む。
「こんな小さな石になっちゃって、四天王リーダーとしての威厳も形無しね、クンツァイト」
クンツァイトと呼ばれた男は、かつて衛の直属の側近をしていた。
「こんな姿でも、マスターの傍に置いて頂けるのだ。何も言うことは無い」
「そう、こうして守ってるってわけね」
銀水晶が出現しても、姿形は元に戻りはしなかった。当然だろう。前世のみならず現世でも裏切ってしまったのだから。
その代償かどうかは分からないが、四天王は石に変えられた。それでも主である衛が、彼らを必要としてこうして大切に保管したのだ。
「それにしてもあんたの石の色がピンクって」
美奈子は知っている昔のクンツァイトの性格を思い出し、ピンク色をしている事を面白がった。
真面目でマスター命。いつだって恋や愛よりマスターの幸せを願っていた。それをよく見てきたヴィーナスとしての美奈子は、ギャップがおかしかった。
「クンツァイト石はピンク色だからな」
「石言葉は“純潔と慈愛”。あんたの二つ名だったわね」
「ああ、よく覚えているな。ヴィーナスは“愛と美”だったな」
「あんたこそ、よく覚えてるわね」
互いに忘れようもなかった。前世で王子と姫の逢瀬の護衛という時間に共にすごしたあの日々を。
確かに互いに惹かれあっていた。同じ立場で同じ想いを抱いていたのだから、惹かれないなどという選択肢は無くて。尊敬が愛に変わる。自然な事だった。
ただ、やはり立場上その想いは互いに秘めたまま、やがて四天王は裏切り、月は滅びた。そして、現世でもまた……
「それにヴィーナスじゃないわ!今の私は愛野美奈子よ」
「美奈子か……良い名だな」
「まぁね?」
「元気そうで何よりだ」
「そんな事ないわよ。受験という名の敵が厄介。現実逃避の息抜きに会いに来たのよ」
「相変わらず勉強が苦手なのか。頑張れよ」
「敵と戦ってる方がまだまし」
「マスターをよろしく頼む」
「仕方ない。あんたに代わって守ってやるから見てなさいよ!」
「頼もしい。流石はヴィーナス殿だ」
「……だから、愛野美奈子だってば!」
んもぉと美奈子は苛立った。
言われなくともプリンセスと共に王子も守ってみせる!美奈子はクンツァイトと会話をしながら心の中でそう決意していた。
「すまない。ヴィーナスと呼ぶ方が慣れているし、落ち着くのでな」
それに加え、前世と変わらぬ姿。呼び慣れないのは仕方が無い。
「ヴィーナスでもあるから、仕方ないけどね。じゃあ、私はもう帰るわ」
「帰ってしまうのか?それは残念だ」
「何よ?名残惜しいの?」
「ああ、久しぶりに楽しい時間だったからな」
それもそのはずで、普段は四天王と衛と男ばかりが周りにいて、女性と言えば衛の恋人であるうさぎ以外はここには来ない。
クンツァイトにとって久しぶりの異性との会話。しかも昔の想い人の襲来。心が弾んだ。
「すまなかったな。前世も、この世でも……」
ずっと裏切った事に後悔して懺悔したかった。
敵の手に落ちなければ、いずれは別れがあったとしてもあんな悲惨な最期にはならなかったと後悔してもしきれなかった。
クンツァイトは、謝っても許される事では無いと理解しつつも、言葉にしていた。
「仕方ないわ。神の掟に背いた報いだから。それじゃあね!」
“またね”と言う言葉は言わず、美奈子はクンツァイトに別れを告げた。
前世とは状況は違うが、次は無いかもしれないという覚悟と、前を向いて生きて行くという決意の現れだった。
その言葉の真意を汲み取ったクンツァイトは、次は無いかもしれないと覚悟をしながら、去って行く美奈子の後ろ姿を消えた後もいつまでも見送った。
おわり