セラムン二次創作小説『エクリプスの日に(未来親子)』
『ぜんりゃく
おとうさま おかあさま♡
わたくし うさぎ・SL・セレニティこと
スーパーセーラーちびムーンはおかげさまで
りっぱなせんしとなりました!
このたびめでたくしゅぎょうをおえて
4がつ1にちに30せいきへかえることにしました。
はやくあいたいです。おむかえよろしく♡
かしこ。』
過去で修行中のちびうさこと、スモールレディからクイーンとキングへそんな手紙が来たのがほんの数日前の事。
急な事ではあったけれど、公務などの予定を調整して迎えに行ける様に備えた。
いつぶりの再会だろうか?デス・ファントムとの戦いを終え、帰って来たスモールレディにクイーン自ら過去への修行を提案。それ以来、凡そ一年程になるだろうか。
「久しぶりにスモールレディに会えるのはやっぱり楽しみね。随分と急な事だけど……」
「スモールレディは君に似ている所が沢山あるから仕方ない」
「それって私もそうだって事?」
「違うのかい?」
「……返す言葉もございません」
突然のスモールレディの連絡にクイーンは戸惑っていた。
しかし、長年その元凶であるクイーンと瓜二つである為、キングはすっかり慣れて免疫がついていた。その為、クイーンとは違って落ち着いていた。
「何時とは書かれて無いわね。これじゃあいつ頃迎えに行けばいいのか分からないわ」
「向こうで人気がいない時間帯かな。朝か夕方辺りだろ?」
帰る時間帯を失念していた為、迎えに行く時間が分からずクイーンは困惑する。一方キングは冷静に帰る時間帯を分析する。
「じゃあそろそろお迎えに行かないと」
キングの言葉を聞いたクイーンは、近くの時計を見ながらそう告げた。もう朝の8時になろうとしていたからだ。
こんな所ーーー二人の寝室でうだうだ話している場合では無かった。迎えに行くより先に娘が帰ってくるとクイーンは懸念した。
「そうだな。時空の扉へ急ごう」
スモールレディが帰ってくるのは楽しみ。いないとやはり寂しい。
しかし、帰ってくるとの手紙がギリギリの為、夫婦二人の時間が残り僅かとなった事を悟ったキングとクイーンは、二人だけの最後の夜を存分に楽しんでいた。
仕事も無いため、クイーンだけでは無くキングまで少し寝坊していた。
スモールレディとの再会に胸を弾ませながら二人は出迎える為の準備を慌ててする。
「どれだけ成長出来たかしら?楽しみね」
修行を終えて一回り大きくなったスモールレディを思い描きながら二人は、時空の扉へと急いだ。
☆☆☆☆☆
「プルート、お久しぶりね」
「やあ、プルート」
時空の扉の番人、セーラープルートへ二人は挨拶をする。
「お二人とも、お久しぶりです。スモールレディならまだご到着されておりません」
「そのようだね」
「間に合って良かったわ」
4月1日にスモールレディが帰って来る。その報告はクイーンから命を受けたサターンから伝達されていた。
過去から帰るということは、時空の鍵を使い時空を超えるということ。そのタブーを犯すと自ずとプルートへと分かるようになっている。その為、番人であるプルートへは事前に伝えなければならない。例え王国の者でも例外はない。
「スモールレディはしっかりしてますわ。お二人の事も良く御理解していると思います」
過去へ飛び、昔の両親である衛とうさぎをずっと傍で見ていた。それは過去のプルートも十分理解している。
今もさほど変わらないが、二人の世界に入ると忽ち周りも時間も分からなくなる。それを知っているスモールレディだからこそ、帰るのはゆっくりしているのだとプルートは考えていた。
それに、過去の衛が何か勘づいているとも。
「いやぁ、面目無い」
プルートの何か含んだ様な言い方と、クイーンを見る顔に、キングは悟られていると気づき、バツが悪そうに頭をかいた。
一方のクイーンは、何故二人がそんなやり取りをするのか。さっぱり検討が付かず、頭の中で“?”が飛んでいた。相変わらず鈍感だった。
そんな事はお構い無しに、クイーンはマイペースに話を続けた。
「それにしてもスモールレディ、遅いわね……」
出る前に目に入った時計ーーートレードし損ねた懐中時計を手にして呟いた。
それもそのはずで、時刻は9時になろうとしていた。時空の鍵を使用すればプルートのガーネットロッドが反応する様になっている。
しかし、今の所全く反応する気配がない。
「どうしたのかしら?」
一向に帰ってこないスモールレディにクイーンは、心配を募らせる。そんなクイーンを見て、キングは持ってきていた手紙を取り出して一読する。
「“4月1日”となっているな」
「と言いますと、エイプリルフールの嘘……という事でしょうか?」
「その可能性はあるな」
イベントが大好きなスモールレディの性格を思い出しながらキングは思慮深く答える。
しかし、それだけではないような気がしてどこが引っかかる。わざわざこの日と言うのもおかしい。
「過去の4月1日……」
「もしかして、あの日じゃないかしら?」
プルートとキングが考えていると、突然思い出したようにクイーンが呟いた。
「あの日?あ、皆既日食か?」
「ちょうどその日でしたら、合点がいきますね!」
皆既日食の日だと気付いたキングの言葉を引き取る様にプルートは頷いた。
過去のこの皆既日食のあの日を境に、窮地に陥り集結。再び力を合わせて敵を倒した。過去の因縁を払拭し、より強い力を得た。
「となると帰って来られないか……」
「この戦いはスモールレディがいなければ成立しませんからね」
時空を飛ぶ事が封じられていて、帰って来られないのは大前提だが、それ以上にスモールレディにとっても重要な局面となる。
「まだ修行は終わってない。と言う事か……」
「みんなにとっての試練が、近づいているのね」
どれだけ戦いの中で強くなっても、新しい敵はそれを遥かに上回る。
今回は、日食の日を境に戦士として戦う力を失った。パワーアップ変身をする為には己の夢と向き合って打ち勝つ事。
「みんな、頑張って!」
クイーンは、目を閉じて手を組み、強く強く祈った。
未来はある。必ず試練を乗り越える!
過去の自分達の強さと絆を信じているが、過去に干渉したり助言する事は許されない。戦士としての力ももう無い。だからここでこうして祈る事しか今のクイーンには出来なかった。
スモールレディを過去へと修行の名目で送り込んだのも、今の自分には何も出来ないからだった。
確かに、スモールレディはまだまだプリンセスとして未熟だ。自分がそうであったように、敵と戦い戦士としてのスキルを上げることで自信になる。自信に繋がる。
いつかはクイーンとして立派にこの星を、太陽系を守らなければならない。
そして、この戦いはうさぎやクイーンへの劣等感を持っていたスモールレディの心を成長する為にも乗り越えなければならない試練だった。
「スモールレディ……」
「うさ」
不安な心で祈っていると、キングがクイーンをそっと抱き締めた。
「まもちゃん……」
「あの時は、すまない」
「ううん。呪いだって分からなかったんだもん。仕方ないよ」
「悟られちゃいけないと思ったんだ。ただでさえ新たな敵で苦戦しているのに、俺の事で負担になりたくは無かった」
「私たち、いつだって二人で乗り越えてきたじゃない。相談はしてはしかったけど」
「そうだったな」
「あなたの苦しみは、私の苦しみ。それは今もこの先も変わらないわ」
「じゃあ、この戦いを終えて帰って来たスモールレディに彼氏が出来た俺の苦しみも、分かってくれるか?」
「まぁ、まもちゃんったら!900年パパ一筋でいてくれたんだから、祝ってあげなさい」
「だからこそ、受け入れ難いんだよ……」
この後の展開が予め分かってしまっている為、キングはスモールレディの成長の一端を嘆いた。
“パパ、だぁいすき♡”
いつもそう言って片時も離れたがらなかった娘が、過去での修行で恋人が出来るとは考えたくも無かった。
「まもちゃんには私がいるじゃない!これからもずっと変わらずうさはまもちゃん一筋で愛していくわ♡」
「うさ……」
視線が合うと、クイーンはあの頃の純真無垢な笑顔で頬をほんのりと染めた在りし日のうさぎがそこにいた。キングである衛は、見上げてそんな顔で見られるのが、とてつもなく弱かった。
優しく包み込む笑顔に吸い込まれるように、自然とキングは顔が動き、クイーンの顔へと近づいた。クイーンの顎を右手で持ち上げ、自身は腰を屈める。そして、唇がふんわりと触れ合った。
気持ちを確かめる様な優しいキスに、時間が止まったような感覚に、そして戦いが始まる事など何処吹く風だ。
「ゴホッゴホッ」
ほぼほぼ空気と化していたプルートが、バツが悪そうに咳払いをして見せた。完全に二人の世界に目も当てられない。
しかし、思い返せばこの戦いの最終決戦でも二人は、みんなが見ている前で長く深いキスを人目もはばからずしていた。つまりは通常運転。二人には回りなど関係無い。
そう、二人の愛が昔の地球と月を滅ぼす程なのだから。プルートは、過去と前世に思いを馳せながらそう感じていた。
「え、ええっとぉ、スモールレディはまだ……だっけ?」
「うさ、そのボケは苦しいぞ。まだ当分帰れないと話したところだ」
「そうだっけ?」
キングに恋心を抱いていた事もあったプルートだが、この二人のこういうやり取りを見て、叶わないと再確認した。
所詮は叶わぬ恋。そっと胸にしまい込むことを決意した。
「スモールレディの恋の応援、してあげてね?」
「それはエリオスとスモールレディの態度次第だな」
「まぁ。あの子もこの戦いでは辛い想いを抱えているのよ?エリオスだって……」
そう、“乙女よ”そう言われて頼られたかと思い喜んでいたが、よくよく聞くとそれは自分では無かった事が判明。
“美しい夢を持つ月の光に守られた王女にして戦士”
エリオスの探していた乙女の詳細を聞けば、それはスモールレディでは無くうさぎである事は一目瞭然だった。
それでもエリオスが頼ったのは、他では無いスモールレディだった。
「そうだったな。エリオスとスモールレディがあの時いなければ、俺の命は無かったかもしれない」
「そこは私の愛の力で、絶対治してたわ!」
「それが無理だからゴールデン・クリスタルを探してたんだろ?」
「でも、そこに頼りたくなるじゃない?」
「気持ちは分かるけど……うさだって俺の呪いが移ってしまって、結局それどころではなかったしな」
「元を辿れば私が前世でかけられた呪いよ。まもちゃんのはとばっちりじゃない!私といるから、まもちゃんを危険に巻き込んじゃう。みんなまでも……」
ネヘレニアにかけられた呪いの言葉を思い出しながらクイーンは、悔しがった。
自分と言う存在が、いつも周りを巻き込んでしまうこと。それでも黙って着いてきてそばにいてくれて支えてくれるキングや戦士達に、感謝をしてもし足りない想いだった。
「それは言いっこなしだ!ネヘレニアのは祝賀パーティに呼ばれなかったことや孤独な事を逆恨みしたに過ぎない。勿論、今までの敵も、これからの敵も」
「そうですよ!私たちはクイーンが大好きで大切だからずっと傍にいるのです。これからも、何度生まれ変わろうともこの命はあなたの為にあります」
「まもちゃん、せつなさん」
“せつなさん”そう久しぶりに呼ばれたプルートは、歯がゆかったが、万遍の笑みを浮かべていた。
「でも、惜しかったな……悪夢で見た小さいまもちゃん、すっごく可愛かったのにぃ!!!」
「一体、どんな夢を見ていたんだ……」
「あれは私にとっては悪夢なんかじゃあなかったわ!寧ろ幸せな夢よ!なのに、なのに……」
「起こしてすまなかったよ」
自分の知らない夢の話の中の小さい衛の話をし始めたクイーンは、とても幸せそうな顔を浮かべた。
その顔を見てキングは、全く面白くなく、期限を損ねた。例え小さい自分であっても、やはり今の自分では無い衛を想い恋する乙女モードに入られても楽しいものではない。
大人気ないが、小さい自分自身へ嫉妬している心の狭い人間である。
「それを言えば敵の幻術で小さくなったうさも可愛かったぞ」
そんなクイーンに、キングはここぞとばかりに反撃に出る。
あの時は呪いで苦しんでいて、そんな余裕すら持てなかったが、敵の手により小さくなったうさぎは更に可愛いと感じた。
ちびうさがうさぎとの娘と聞いた時に、小さい頃のうさぎもこんな感じかと想像したが、また違った可愛さで驚いた。
「本当に?えへへぇ、嬉しいな♡まもちゃん、ありがとう。大好き」
衛とは違い、うさぎは可愛いと褒められた事が単純に嬉しくて喜んだ。そんなうさぎの姿を見た衛は、やはり自分は心が狭いと感じ、うさぎの方がずっと大人だと気づいた。
「うさ!」
そんな己の心の小ささを打ち消す様に衛は、うさぎを抱き締め再びプルートの事を忘れて夢中で深くキスをした。
「はぁ……」
再び存在を忘れられたプルートは、深いため息を着いた。
周りさえも空気と化して何も見えなくなる二人には何を言っても無駄だと、今度は二人から視線を逸らして時空の扉のいつもの位置へと戻った。
そうして二人の世界に入っているキングとクイーンを他所に、これからの戦いに苦戦するであろうスモールレディ達を思いながら、無事をそっと祈るのであった。
おわり