セラムン二次創作小説『君と月見と(エンセレ)』
side セレニティ
今日は珍しくエンディミオンから夜に会おうと言われていた。
いつもは明るい時間に会う約束をしていて、夜に会う事は滅多にない事だったから凄く驚いた。
稀に公務で遅くなってしまって夜が更けることがあったりはしたけれど、夜に会う約束は今日が初めてだった。
理由を聞いても笑顔で「来れば分かるよ」の一点張りで全然教えてくれなくて、「エンディミオンのいじわるー」なんてふくれっ面で怒ってみたりしていた。
夜ともなると危険性が増してヴィーナス達を説得するのに結構一苦労だったりするから会えるのは嬉しいけど、それなりにリスクが高くて理由を教えて貰えないと説得が難しくて本当に困るのよね。
まぁ説得せずにそーっと行けばいいんだけどね?
でも会う時間が遅いと待ち遠しくてソワソワして公務やお勉強に身が入らない。
そんな感じだからすぐにヴィーナス達にバレてしまってそーっと抜け出す事も出来ないのよね。
だから今回はちゃんと許可をとって行こうと決意した。エンディミオンもその方がいいって言ってたし。
「今日はエンディミオン様との約束は無いのですか?」
今日は珍しく公務も勉強も無いのに会いに行かない私に驚いてヴィーナスが聞いてきた。
「今日は夜に会いたいって言われて…」
「はぁ?夜にエンディミオン様と会うお約束をしたですってぇ?」
案の定、ヴィーナス怒りの鉄拳が落ちてきた。大声で叫んで怒り狂ってる。
「いつもは明るい時間に会ってらっしゃったのにどうしてなんですか?」
両手を腰に当てながら聞いてくる。
私も分からないのよ…うぇーん
「エンディミオンが今日は夜じゃないと意味が無いって仰ったの!行きたいの!お願い!ヴィー、着いてきてくれるでしょ?」
「…まぁ護衛付きなら仕方ありません。でも、長居は禁物ですよ?約束して下さいね?」
目を潤ませついてきてと訴えかけるとあっさり承諾してくれた。
「分かったわ!大好きよ、ヴィー」
これはエンディミオンの入れ知恵だったりする。着いてきてって言えば断らないって、その通りだった。
流石はエンディミオン、頭が良くて頼りになるわ。
でもちょっと罪悪感、ヴィーナスを騙しちゃったみたいで…。
「夜の地球楽しみね、ヴィー?」
ヴィーナスは守護戦士の中では一番地球に行ってるけど、夜に行くのは初めてだった。
「…あくまで護衛ですから!遊びで行く訳では無いので楽しみじゃありません!」
普通に楽しめばいいのに素直じゃないなぁ…リーダーは責任感強くて堅い。もっと肩の荷下ろせばいいのになぁ…
side エンディミオン
「聞きましたよ、マスター。今日はプリンセスと夜にお会いになるそうですね」
公務前にクンツァイトが心配そうに話しかけてきた。
「あぁ、今日は月見だろ?セレニティと見たくてね」
「それだけですか?」
クンツァイトの問いかけに笑顔で返して話を逸らす。
「心配ならついてくるか?夜は何も仕事ないだろ?」
「…分かりました。夜は危険なのでご一緒します」
「ありがとう、恩に着るよ。向こうも誰か一緒に着いてくると思う」
全く何を考えているのやらと言う言葉が聞こえてきそうな顔でため息をつきながらやれやれと呆れ気味に同意してくれた。何だかんだと優しい奴でありがたい。
リーダーと言う立場上、他の3人より口うるさく言ってくるけど最後はいつも俺を尊重して折れてくれる。
セレニティと月見がしたいというのも勿論大前提だけど、この日はたまたま夜まで公務がびっしりで夜しか空いてなかったから必然的に夜の待ち合わせになった。
セレニティは昼で終わってその後は自由時間で早めに地球に来てゆっくりしていると言っていた。
公務が終わり約束の時間が迫ってきて、クンツァイトと一緒に約束の場所へ向かう。
夜も更けてきて満月とは言えあたりはすっかり暗くなり、人気もない分余計に薄気味悪い。
セレニティも昼とは違う雰囲気に怖がってないか心配だ。誰かと一緒に来ていると思うけど、この闇夜を長く待たせるのは紳士のすることじゃない、急ごうと早足になると護衛のクンツァイトも早足で着いてくる。
「護衛が着いているとはいえ女性2人でこの暗闇に待たせるのは心配ですね」
早足に察したのかクンツァイトが気にかけて来た。
「ああ、明るい時間に来てゆっくりしてると言っていたからこれ以上待たせるのも気が引ける」
話しながら目的地に近づいてくると遠くの方で神々しく光る人影が見える。
ーーセレニティだ
月明かりに照らされてと言うよりは彼女自身の内なる心から自然と照らされ月と同じ暖かく美しい光。月と同じ綺麗な光だ。
彼女が月のプリンセスである象徴だと改めて感じて関心し、魅了される。
初めて出会ったあの日も彼女は一際神々しく光り輝いていた事を思い出した。
その光に惹かれ彼女を好きになった訳では無いが、興味をそそられ惹き付けられた。あの光だ。
「これは…」
横で月と同じ色で神々しく光るセレニティを初めて見たクンツァイトがあまりに美しい光景に言葉を失っていた。
俺たちに気づいた当の本人のセレニティは何でもない風に笑顔でこっちに手を振っているし、護衛のヴィーナスは左手を腰に当て難しい顔でこちらを見ていた。
「すまない遅くなって」
「エンディミオン様、こんな夜遅くにうちのプリンセスを呼び出してどう言うつもりです?」
言い終わるが早いかヴィーナスから怒りの質問が来る。
大切な月の王国のお姫様を土地勘がない地球の危険が多い場所に夜に呼び出したんだ、ヴィーナスの怒りは当然だ。
「セレニティと月を見たくてね」
「月…ですか?」
要件をストレートに伝えるとプリンセスもヴィーナスもキョトンとしていた。
「後はお2人でどうぞ」
呆気に取られている二人を他所にクンツァイトがフォローを入れてくれた。
ヴィーナスの事は私に任せて楽しんで下さいと小声で言い残し、この場から2人で離れていった。助かった。
side クンヴィ
「ちょっとクンツァイト!月を一緒に見たいだけでこんな夜遅くに会いたいっておたくの王子様は一体何考えてるの?」
まだ怒りが収まらないヴィーナスに詰め寄られ苦笑する。
「今日は満月で、地球では秋に当たる。中秋の名月と言って年に一度の月見と言うイベントだ。プリンセスが住んでる月が綺麗に見られるこの日を一緒に見たかったんだろ?我がマスターはロマンティストだからな」
「何それ意味分かんない。それに月はいつも満月なんじゃないの?」
全く理解不能だと言う顔をして呆れて怒りが治まってきたようだ。
「いや、満月に見えるのは月に1度程度だ」
その後は月の満ち欠けの仕組みについて知ってる事を教えてやると難しい話に明らかに混乱して理解の範疇を超えてしまったようだった。
「まぁいいわ。こう言うのはマーキュリーの独壇場よ!帰ったら分かりやすく説明してもらうわ」
俺も分かりやすく説明したつもりが堅かったのか理解出来ず頭脳明晰なマーキュリーに聞くという。全く失礼な奴だ。
「そんなに月の満ち欠けが変か?」
「変よ!月からは地球はいつでも丸いもの!納得出来ない」
全くこのお嬢様はロマンティックとは無縁だな…。
「月が綺麗だろ?」
「当たり前でしょ?誰の守護星だと思ってるのよ!」
「そうだったな。しかし先程プリンセスを見て驚いた。月と同じように発光していて」
「私も夜に付き添って来たの初めてだったから驚いた。月にいるとああはならないから。地球にいる時だけの現象みたいね?どう言う仕組みなのかは不明だけど」
ヴィーナスも初めて見たらしく、驚いていた。
「マスターが関係してる可能性はあるのだろうか?」
「分からないわ。でも少なからず関係はあるかも?額の三日月マークも王子といる時に光ってる事が多いから」
三日月マーク発光も月に居る時には起こらない現象で、目立ちすぎるから光らすのを止めるよう言い聞かせたが本人ですら光を沈められずコントロール出来なかったと続けて話すヴィーナス。
遠くからでも光っているのが分かるからかえって目立って仕方ないとため息混じりに頭を抱えている。
俺も人の事は言えんがどうもヴィーナスはプリンセスの事となると神経質なくらいに過保護になる節があり、もう少し気楽にすればいいと思う事がある。
月にいると同化して分からないとも考えられそうだが、月の王国のプリンセスの発光現象の謎は神秘だと思った。
この事は誰にも言わないようヴィーナスから釘を刺される。言われんでも分かっている。こんな事言っても誰も信じないだろうし、こちらが頭おかしいと思われるだろう。
side エンディミオン
「エンディミオン、私と月が見たいってどうして?」
不思議そうに聞くプリンセスに顔が綻ぶ。
「今日は満月だろ?今地球は秋に当たる季節で、それを中秋の名月と言ってすすきとお団子を備えて月を見ると言うイベントが昔からあってね?満月自体は珍しくはないんだけど、1年で一番綺麗に見える特別な月なんだ。」
だから月のプリンセスである君と一緒に月見をしたかったんだ、君にピッタリのイベントだろ?と言うと素敵ねと目をキラキラ光らせ、セレニティの身体をまとっている光もより一層輝かせ笑顔で無邪気に喜ぶ。
「中秋の名月のお月見イベント気に入ったわ。またあなたと見たいわ」
予想以上に喜んでくれて気に入ってくれたセレニティはまた俺と見たいと言ってくれたけど俺たちに未来は無く、遠い約束は面と向かってはする事が出来ないけれど、来年も君と過ごすことが許されるなら喜んで一緒に月見をしようと心に誓う。
「もう1つ言い伝えがあってね?この時期には月でうさぎがお餅を突いていると言う伝説が地球にはあって、本当にそうなのか知りたくて」
勿論信じてなんてないけどね?と付け加えたが、俺らしくない変な話をしてみるとキョトンとした顔をした後セレニティは笑いだした。
「まぁエンディミオンったら面白いわ」
月には動物はあまりおらず、勿論うさぎと言う動物も見たことがないと言う。当然、お餅という食べ物も聞いたこともないとセレニティは話してくれた。
ただの伝説で信じてなどなかったらガッカリはしなかったけど、うさぎもお餅も月には存在しない事にカルチャーショックを覚えた。
セレニティとそれぞれの星の話をよくするけれど、その度お互いの文化の違いに驚かされると同時にとても勉強になる。
伝説は伝説で昔の人が面白おかしく話を作り脚色され、拡張され過ぎただけの本当にただのおとぎ話だった。
「でも月に王国があると言う伝説は本当だった」
ゴールデンキングダムにずっと伝わって来た“月には王国があり、全知全能の女神がいて地球を見守ってくれている。王族の血を引く者はその額に三日月マークがある”と言い伝えられ、その話にずっと魅せられてきた。
まさか本当に月の女神がいて会えるなんて思いもしなかったし、ましてやこうして心を通わせるとは思ってもみなかった。
うさぎやお餅が無くてもいい。
セレニティがいてくれたことが幸せだ。
「君がいてくれてよかった」
「エンディミオン…」
セレニティは恥ずかしそうに頬を赤くして瞳を潤ませ、ゆっくり瞼を閉じる。
瞳同様リップで潤んだ唇にゆっくりと自分の唇を優しく重ねキスをした。
彼女の守護星の月が優しく微笑んでくれている気がする。
今だけは未来の事などは考えずただ彼女と時間が許す限りこうしていたい。
おわり
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