セラムン二次創作小説『真剣勝負(クンヴィ)』




「クンツァイト、お相手を」


剣を初めて交えたあの日から、ヴィーナスはこうして俺に相手を申し出てくる。

プリンセスの護衛が無い日でも1人、気まぐれに剣の相手をして欲しいと頼みに来る。

別にいけないことは無い。高みを目指してプリンセスの為に強くなろうとするその志の高さは尊敬に値する。

何度目になるのか分からないが、またこうして手合わせを申し出された。


「御意!」


やはり真剣な眼差しで頼んでくる彼女の気迫に負け、この日も答える事にした。

何だかんだ俺は、ヴィーナスとのこの時間が好きなんだと再び、何度目かの剣を交えながら感じていた。

勿論、他の四天王やマスターとも剣を交える。

しかし、ヴィーナス程の手応えは無い。

四天王もマスターも強い。だが、それ以上に強く、美しい剣さばきはヴィーナス以外には見られない。少しでも雑念と気を抜くと殺られる。それだけ彼女の腕は軍を抜いている。

月の王国の重力。そして、何よりこの鉛以上に重い剣。この2つが上手く作用してこの強さに繋がっているのだろうと分析していた。

そう分かってはいても、今日は雑念が入らざるを得ない。


「今日はプリンセスの護衛だろ?」


護衛の日だけは何故か全くそんな頼みはしなかったヴィーナス。しかしこの日は、護衛もそこそこに剣の相手をして欲しいと頼み込んできた。

別に相手するのは構わない。俺自身も強くなれる。互いにウィンウィンな関係だ。男として応えたいと考えている。

しかし、護衛が疎かになるなら話は別だ。


「護衛もちゃんとするわ!」


そう豪語したヴィーナスの眼差しの先には、プリンセスをしっかりと見据えていた。

何か理由でもあるのだろうか?

何も理由が無く、こんな中途半端な戦いは挑んでこないと俺は考えた。


「何故、護衛の日に?」


単純な疑問である。真面目で、護衛の日はプリンセスをただ一点を見詰めて見守っているほどだ。


「そうね、実践と言った所かしら?」

「どう言う意味だ?」


やはり何か意味のある行動だと察する。

ヴィーナスは一体何を考えてプリンセスの護衛をしながら剣を交えることにしたのだろうか?


「強いて言うなら、プリンセスの護衛の一環ね」


そういうヴィーナスは、実際に敵が襲って来たらプリンセスを守りながら戦う事が出来ないと強くても意味が無い。そう説明された。

なるほど、確かにヴィーナスの言う事は至極真っ当で、的を得ている。

幾ら強くても、実際の戦いの場に置いて姫の安否を確認しながら周りの状況を見て状況判断を迫られる。それを出来なければ、リーダーとして強くなっても仕方が無い。


「考えているのだな」


この考えは俺にも言える事だ。

しかし、そこまでの考えに及んでいなかった俺はヴィーナスに気付かされる形になり、反省した。

そして、リーダーとしてしっかりしている。自覚していると感心していた。その時だった。


「後は単純に、ボーッと護衛してるのが嫌なだけよ!」


語尾を荒らげて、剣に体重をかけて来た。

その衝撃で、少し体が崩れてしまったが、瞬発力で持ち直した。

しかし、心中は穏やかではない。別に負けそうだからと言う浅はかな理由では無い。

先程、リーダーとしての資質に感心してやったのに、直後のこの発言。前言撤回だ。

要するに暇潰しという訳だ。その暇潰しにまんまと付き合わされ、乗せられる俺。可哀想だな。


「気持ちは分かるが、ここだけに留めておけよ!」


先程の仕返しで俺も語気を強め、剣に力を入れる。

やはり予期せぬ重力に、ヴィーナスは驚きよろめくが、俺と同じく瞬発力でカバーした。


「時間の無駄をしたくないのよ!」


護衛の時間を無駄だとキッパリ言い切る。分からなくはない。

しかし、これは任務であり大切な公務の一環だ。

苛立ちの矛先をこちらに向けられている。ヴィーナスらしいと思うが、やはり気持ちのいいものでは無い。


「俺に当たるな!」


主君であるプリンセスが恋をしている。その相手が地球の王子。応援したいが禁断の恋故、素直になれない。

大好きなプリンセスをマスターに取られ、悔しい。と言った所か?困った奴だ。

俺も同じだが、ここまで嫉妬心剥き出しだといつかマスターを殺しかねん。注意しておこう。


「はっ!」


会話をしながらの真剣勝負。時間も近づいて来たこともあり、ここで一気に勝負をつけようと最後の一振をする。


「キャッ」


全く手加減すること無く、強いヴィーナスに経緯を示してあらん限りの力で振り下ろす。すると彼女は力に圧倒され、重い剣が地面に落ち、彼女自身も地面に尻もちを着いた。


「負けたわ。流石、クンツァイト様ね」

「雑念があったからだろう。お前も充分強い」

「そうね。やっぱり雑念は集中力を落としてしまうわね。反省」


素直に自分の欠点を認め、舌を出して笑顔で反省をするヴィーナス。

雑念があったとは言え、彼女の強さと護衛の時間も押しんで精進したいと願う姿にはやはり屈服する物がある。

剣を交え、ヴィーナスの色んな一面が知れる。会話が出来、本心を伺える。

勝ちはしたが、やはり好敵手。俺も高みを目指してもっと頑張らねばと刺激になった。そう、マスターを守るリーダーとしてーーー。





おわり



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