セラムン二次創作小説『千年桜』
「ふぅー、やっと出来た!!!」
六月中旬、梅雨に入り雨が続く天候のコントロールが出来ないクリスタル・トーキョーの庭園でセーラージュピターが歓喜の声を上げた。
この日、ずっとこの数ヶ月かけてやってきた事が漸く完成したからだ。
「頑張ったな、ジュピター」
ジュピターがやってきた事を一緒になって手伝っていたネフライトが労いの言葉をかけた。
ずっと、こん詰めて頑張っていた事を傍らで見てきたネフライトは、誰よりも頑張っていたジュピターを誇らしく思った。
「何とか間に合いましたね、ジュピター様」
同じく助手を買って出ていたジュノーも、一緒になって安堵した。
「ああ、二人ともほんっとぉ~にありがとうな!」
「ぜんっぜん!ジュピターの苦労は俺の苦労だ。どこまでもついて行くぜ!」
「部下として当然のことをしたまでです。それに、他では無い我がプリンセスのためですから」
「でも、飛んでもない発想だったよな」
「ええ、スモールレディの誕生日に必ず咲く桜を作りたいって聞いた時はビックリしましたよ」
ジュピターがここ数ヶ月研究していた事。それは、もうすぐ誕生を控えるスモールレディの為に桜を品種改良しようと試みていた。
クイーンからご懐妊したと言う話を聞いたジュピターは、30世紀の未来から過去へとやってきたちびうさと呼ばれていた少女の事を思い出した。
その少女は未来の衛とうさぎの子供で、頭がピンク色。その為、戦闘服のカラーもピンク色をしていた。
もしも今回生まれる子もピンク色の頭をしているなら、彼女にピッタリなのは桜だと植物好きのジュピターは考えた。
「しかも、千年咲き続ける桜を作りたいとか、マジでビビったぜ」
そして、そこに来て衛とうさぎがキングとクイーンとなり、銀水晶で千年と言う長寿となった。しかし、そこにゴールデンクリスタルの力が加わり、人間以外の生きとし生けるものは短命のまま。天候も自然に身を任せる形へと落ち着いた。
その為、桜も長い時を過ごすことは難しかった。
「いやぁ、私もダメかと思ったけど、二人が協力してくれたおかげで何とか品種改良間に合ったよ。これで、クイーンに遅めの妊娠祝いが献上出来るよ。二人とも、本当にありがとうな!」
クイーンがご懐妊したとの報告を受けた時から、妊娠祝いはこれをプレゼントしたいと考えていた。
長い時間かかるだろうと予想はしていたが、かかり過ぎたとジュピターは反省した。
「喜んでくれるといいな?」
「きっと喜んでくれますよ!ジュピター様と同じでクイーン、お花、大好きですから」
この事はクイーンには秘密裏に動いていた。キングには感がいいから秘密にできないと考えたジュピターは、早々に話して口止めしておいた。
ただ、口止め料として、キングが好きな料理とチョコレートのお菓子を毎日献上する様申しつかったが。
「ああ、喜んでる顔が目に浮かぶよ」
「じゃあ、早速報告に行くか?我がマスターも心待ちにしていたからな」
善は急げ。早速、クイーンに報告に行く事にした。
臨月を迎えたクイーンは公務を休み、産休中。クイーン業はお休みで、月野うさぎになっていた。
キングも、クイーンになっても健在の天然でおっちょこちょいな部分が心配で早々に産休を取り、四六時中付きっきり。四天王を始め、セーラー戦士全員が呆れ果て引いていた。
トントンッ
「はーい♪」
臨月の妊婦と言えど、明るく元気な声が中から聞こえて来てジュピターはクスッと笑った。
「ジュピターです。今、宜しいでしょうか?」
旧知の仲と言えど、一国のクイーン。ジュピターは丁寧に挨拶をする。
「ネフライトもおります」
「ジュノーもいますわ」
「三人とも、どうした?」
三人揃いも揃って来る事など無いため、一緒にいたキングが対応する。
「クイーンの体調はいかがですか?」
「ああ、すこぶる調子がいい」
「そうですか。では、お散歩がてら庭園に来て頂けると嬉しいです」
「なぁにぃ~、綺麗なお花でも咲いた?」
ジュピターの言葉を聞いたクイーンは、よっこいしょっと言いながらドアへと向かって来た。
「ええ、是非クイーンに見てほしい花がありまして」
「えぇ~、何だろう。楽しみぃ~。早速、行っちゃう♪」
「体調、大丈夫ですか?」
「うん、少しは動いた方が良いもん!お花見て癒されるのも胎教にはいいだろうしね」
そう話すクイーンは、ジュピターから見るとあの頃のうさぎと何も変わっていない様に見えた。
「では、私に掴まって下さい」
「俺にも掴まって」
ジュピターとキングが支える事を申し出る。それを素直に受け、二人に掴まりクイーンはエスコートされるがままに庭園へとゆっくり向かった。
「うっわぁ~、桜だぁ~♪きっれ〜。でも、六月だよ?季節外れなのに咲いたの?」
「漸く完成、といったところか?」
「ええ」
「どーゆー事?」
何かを知っているようなキングと、ジュピターの会話にさっぱり分からないクイーンはポカンとする。
「この桜は、品種改良を重ねて完成させた千年桜です」
「品種改良?」
「はい、クイーンの妊娠祝いと、スモールレディ誕生祝いに私がネフライトとジュノーに手伝って貰ってスモールレディ誕生の日に咲くようにしました」
「まぁ、ジュピター。ありがとう」
「いえ。私の趣味と実益を兼ねてやりたい事をしただけで。クイーンの笑顔も見たかったので」
ジュピターの気持ちを知り、元々泣き虫なクイーンは妊娠と歳のせいで余計に涙脆くなり、号泣した。
「後、千年咲くようにもしておきました。毎年、スモールレディとクイーンの誕生日付近に綺麗に千年、スモールレディが死ぬその日まで咲くようになっております」
「先の話ではありますが、クイーンやキング、ジュピター様達は私達より先に逝かれるかと思われますので、その後のことは私、ジュノーが跡を継ぎ、桜の手入れをさせていただきますのでご安心下さい」
ジュピターの言葉を継いで、ジュノーがそう付け加えた。
考えたくは無いし、かなり先の話であるがキッチリと説明しておく必要があると感じたのだ。
「ジュノーも、ありがとう」
「いえ、これもクイーンとスモールレディの為ですから」
「何かあれば俺も、力になりますので何なりとお申し付けを」
ジュノーに続き、ネフライトも協力すると申し出て来た。
「ネフライトも、ありがとう。スモールレディ、貴女はみんなに愛されているわ。いつでも出てきていいのよ」
「いや、六月三十日って決まってるだろ?」
すかさずキングはツッコミを入れた。と、その時だった。
「アッ!動いたわ!」
「え、うそ?マジか?」
「スモールレディもありがとう、嬉しいわって♪」
クイーンの言葉に、ジュピターもジュノーも感極まった。そして、二人はクイーンのお腹に手を当てた。
「スモールレディ、綺麗な桜だよ。いつでも生まれておいで」
「スモールレディ、ここで遊びましょうね♪」
こうして無事、スモールレディ誕生祝いとして品種改良をした桜をクイーンへ献上することが出来た。
毎年、六月三十日付近に咲き誇り、スモールレディの誕生日を祝い、優しく見守る大樹となった。
おわり
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