セラムン二次創作小説『キセキと運命(A美奈)』
心臓が止まるかと思った。キセキだとも。
今、俺の目の前にいるのはセーラーヴィーナスだ。セーラーVと名を少し変え、更には戦闘服もガラッと変わっている。
しかし、紛れもない。彼女は金星のプリンセスであるヴィーナス様その人だ。理屈じゃない。俺には分かる。
前世の記憶を持っていた俺ーーダンブライトは、遥か昔から恋い焦がれていた。
何時の頃からか?それは、もう幼い時ーー物心ついた時からだ。
愛と美の女神と称される彼女はとても美しかった。いや、実際会ったことは叶わなかった。
俺は当時、末端兵士。身分が違い、会う事など許されなかった。
それでも、いつかお近付きになって、あわよくば恋人に。などと言う幻想を抱いていた。幻想などでは無い。本気だった。
程なくして俺は、地球の戦争へと駆り出された。
末端でありながらも地球の王国、ゴールデン・キングダムの第一王子側近が一人、クンツァイト様の部下として務める日々に。
激務で大変だったが、充実した毎日。
勿論、母星の事は毎日心の片隅にあったし、プリンセスの事を思わない日など無かった。
手が届かない孤高の存在のプリンセス・ヴィーナス。
そんな彼女に、まさか金星では無いこの地球で一目会う事になるとは思いもしなかった。遠くから、偶然ではあったがお目に書かた。心臓が飛び出るかと思うほど、驚いた。
彼女は聞いていた通り月の王女の側近として務めを果たしていた。その姿はとても凛々しく、誇らしく大きく輝いていた。
益々近寄り難い存在。そう感じた。
そして、次の瞬間知ってしまった。彼女が、恋をしている事を。
俺の事を知らないのだから、他の人に気持ちを向くのは仕方が無い。噂によると男好きで恋多き女と聞いていた。それは、悲しいけれど構わない。
けれど、相手による。その相手が問題であった。
よりにもよって、クンツァイト様だなんて……
あんまりだ。勝ち目は無いと嘆いた。
結局、月の王女と地球の王子の禁断の恋は、地球の四天王を含む兵士たちが月へ攻め込む形で星諸共終わりを告げた。
そこからどれだけの月日が流れたかは分からない。
また俺は、クンツァイト様の部下として反乱分子となっていた。
前世の記憶は、その途中で目覚めたもの。その時には既に遅く、セーラーVと言う戦士と敵対していた。
部下からの報告で、彼女の写真を見た俺はハッとなった。姿や名前が変わっても、俺は一目で気付いた。ずっと、遠くで見ていたから。
「セーラーヴィーナス。俺のプリンセス……」
もしも彼女がまた、無類の男好きであるならば……
そう考えた俺は、一つの作戦を思い付き、実行に移そうと決意した。
それは、この可愛い顔を活かしてアイドルとして芸能界で活躍すると言う飛んでもない作戦。
その一環としておお仕事はレインボーキャンディを売る事。美容に良いと謳い文句を付けると大概の女は喜ぶ。
そして彼女も例外ではない。元々が愛と美の星金星出身者。きっと釣れる!そう確信していた。
先ずはインパクトが大切だと考えた俺は、人々を太らせた。体重が落ちないと嘆く愚かな女達に無料でレインボーキャンディを配る。そこに満を持してセーラーVの前に姿を現す。ーー真打の登場だ。
そして、怪盗エースとして活躍。女の子のキレイを手伝いたいと笑顔でインタビューに回答。
怪盗エースの公開収録に、セーラーVとしてやって来た彼女。遂に、対面。
前世、顔を見る事さえ許されなかった俺が今、間近にまで接近。どさくさに紛れて手まで握っている。
夢にまで見た彼女が目の前に!これをキセキと言わずなんと言うのだろう。
会う為に仕掛けた数々の緻密な作戦が甲を制した。
互いに仮面をかけているが、目もあっている。
それどころか、彼女に上から目線で話している。
憧れの眼差しを向けられている。
恋する女の子の、かつて違う人に向けられていた顔でこちらを見てくれている。
やっと、俺たちのストーリーが始まるんだ。
「セーラーVの人気がなくなっても、クヨクヨすんなよ!人生これからさっ」
ちょっとした意地悪な言葉。それは、俺の事でもある。
前世を忘れているクンツァイト様とヴィーナス。
これを逆手にとってリードし、この世では恋人に。
しかし、やはり彼女は一筋縄ではいかない。
ありとあらゆる手段で彼女の気を引き、接近しては思い知らされる。彼女の心は俺では無い人が巣食っている。ストッパーがかかっている。かけられていると。
それは戦士としての心で、主君を守る絶対的忠誠心なのか?
はたまた女性としての本能で、最も慕っていた人への恋心なのか?
どちらにしても、嫌な予想だ。結局彼女の心は俺には向かないと認める事になるのだから。
せっかく俺だけ前世の記憶があるのに、チャンスを物にも出来ないなんて。恋人になれることは、永遠に無いのだろうか?
こんなに近くにいるのに、なんて残酷な運命なんだろう。敵対していても、君を守って来たのに。
前世とは違う。会うことすら許されなかった俺へのご褒美だと思っていたのに。
運命とは、何て残酷なんだ。神とは無慈悲。
運命の歯車が違っても、オレたちが恋人になる未来など何処にもなかった。
運命は、ひとつだけ。
いつまでも君に辿り着けないまま、道が終わる。
それがオレの運命ーーー
「最後の恋占いをしてやるよーーー君の恋は永遠に叶うことは無い。恋か使命か、この究極の選択に、もう頭を悩ます必要なく生きていける。戦いつづけろって運命なのさ。本当の戦いはこれから……」
美奈子と恋人になれなかった俺の負け惜しみの最期の言葉。しっかりと、爪痕を残す。心に刻む。
彼女が戦士として戦いを選ぶ限り、この言葉は否が応でも思い出すだろう。
美奈子も俺も、愛の星金星出身なのに本当の恋は叶わない。悲しき運命。
おわり
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