セラムン二次創作小説『強く儚い者達(ジェダレイ)』
「知りたい事があるの」
いつにも増して真剣な面持ちでレイは和永に話しかけた。
普段は余り質問や知りたい事などは聞いてくることは無い。そんなレイが知りたい事は余程の事だろうと和永は悟り、身構える。
例え難題でも出来る限り真摯に応えたい。和永はレイの質問に向き合う為に心を整え身構えた。
「どんなことでも答えるよ」
「クインベリルの事よ」
「ベリルの?」
レイから意外な人物の名が発せられ、和永は驚きを隠せないでいた。
クインベリルーーー彼女こそ前世でも現世でも諸悪の根源の始まりを作った人物。
怨みこそあれど、知りたい事があるとは思えない。
「ええ、クインベリルよ」
「ベリルの何が知りたいんだい」
ベリルとは四天王の中でも前世でも現世でもジェダイトとして一番親しかった。和永はどんな事でも知っている事は全て話そうと決意した。
「彼女は王宮で何をしていたの?占い?」
「ああ、レイの感の通りさ。優秀な占星術師だった。もしかして、その手の噂で前世に耳にした?」
「いいえ。実は彼女、私と同じで火星出身だったの」
「え?そうだったの?」
ベリルが火星出身だと言うことは和永にとって初耳で、正に寝耳に水だった。
しかし、驚きはしたが腑に落ちた。思い当たる節が色々あったからだ。彼女の耳の形は地球人のそれとは全く違っていて、不思議に思っていて出身地と共に気になって問いかけたことがあった。その時は笑ってはぐらかされたが。
「ええ、太古の昔から火星出身者の優秀な占星術師がゴールデンキングダムへと派遣される事になっていたの。その事を今日、急に思い出したのよ」
セーラームーンがプリンセスとして覚醒した時、レイ自身も前世の記憶が蘇った。
しかし、1000年という長い年月を生きていた前世。志半ばとは言え、若さを保ちながら多くの年月をすごしていた。その為、その時の記憶は本の一部。そこから戦士として経験を重ねていきながら時々前世での記憶が断片的に蘇る。
ベリルの事は今朝、急に思い出したのだ。その足で和永に聞いたという訳だった。
「そうだったのか。確かに歴代、占星術師が王宮にいて色々王族に助言して来たと聞いていたが、火星出身の人達だったからベリルも素晴らしい占星術師だったんだな」
和永もまた、レイの話を聞いて色々ベリルに関して思い出していた。
確かに彼女は優秀な占星術師だった。キングや王子の王族とも近しく、信頼が厚かった。
「優秀だったのに、どこで間違えちまったんだろうな……」
「ごめんなさい。ベリルをと母に推薦したのは私なの」
「レイが?それは、益々すげぇな!」
「私があの時、推薦しなければ……」
ベリルがゴールデンキングダムの占星術師として選んだのは他では無いセーラーマーズだった。
占星術師としてとても優秀だったが、戦いにも優れていた為、月の王国のプリンセス付きの守護戦士として勤めていた。その代わりになる人をマーズ自ら探していて、ベリルに白羽の矢がたったのだ。
それ程優秀と言う事。訳を聞かずとも和永はどれだけ凄いことか瞬時に理解した。
しかし、肝心のレイはそうは思っておらず、自分がベリルを派遣させたから悲劇を引き起こしたと悔いていた。
「いや、ベリルはとても優秀で役に立っていたよ。救われた人がどれ程いたか。俺自身も良く占って仕事を成功へと導いてもらった」
「ちゃんと役に立っていたのね。それを聞いてホッとしたわ」
「大丈夫!君の目に狂いは無かったよ。ただ、レイにもベリルにとっても想定外にマスターに激しい恋心を宿してしまった。それだけさ」
来た頃から、熱心に占って王族を導き繁栄させてきて一目置かれていた。それが、いつの間にか王子へ恋心を抱いてしまった。
そこに、悪魔を呼び寄せつけ入れられて太陽系は滅びの一途をたどった。
「うちのプリンセスが地球に降りたた無ければ……」
「それも違うさ。どうせ何があっても彼女の恋は実らなかった。マスターにはフィアンセがいたんだ。付き合えたとしても、長くは続かない儚い恋だったさ」
王族として生まれたものの宿命。それは、生まれながらに伴侶が決められていること。王国の繁栄の為、この掟は絶対である。
それでも、それが分かっていても止められない想いがある。王子が自ら月のプリンセスを愛した。それが事実だった。
「ベリルもそれは分かっていたと思う。だから、誰にも気づかれぬようにと心に仕舞い込んでいた。けれど、ある日プリンセスとの逢瀬を見てしまった。そこからは、見ていられなかったよ」
「ベリルの気持ちも知らず、プリンセスの愚かな行動で……」
ベリルを悪魔へと変えてしまったのだと悟った。
「もっとベリルの心に寄り添ってやるべきだったんだ。マスターばかりに気にして。いや、結果的に俺らも洗脳されてしまったから何も言う資格は無い」
いつしか冷静な判断が下せなくなり、何が正しいか分からなくなっていた。
前世でも現世でも、王子の側近であるのにベリル側へと付いて悪の手へと堕ちてしまっていた。
「こうなる運命だったのよね。ベリルに関しては貴方達が悔やむ事では無いわ。全ては呪いのせいよ」
レイに似つかわしくない言葉が出てきて、和永はとても驚いた。呪いとは、一体どういう事なのだろうか?
「何かあったの?」
「プリンセスが生まれた祝賀パーティに招かれざる客であるネヘレニアがやって来たの。クイーンが封印してくれたけれど、その時に“プリンセスは王国を継ぐことなく死ぬ”と呪いの言葉を残して行ったわ」
そしてそれは真実となり、王国もプリンセスもマーズ達も死んでしまった。
偶然の出来事が重なっただけと受け入れるには余りに出来すぎていた。
「だから、ベリルはきっかけかもしれないけれど、貴方達が気に病むことは無いのよ?私たちがもっと注意していたらこんな事にはならなかった。巻き込んだ形になってしまってごめんなさいね」
滅ぶ事が決まっていたにせよ、月だけの問題。地球には関係の無い話だったはずだ。
それが、こんな形で巻き込む事になったのはマーズとしても誤算であり、心が傷んだ。
「いや、例え巻き込まれて無くてもいずれは滅んでいたと思うよ。それに俺は巻き込まれて良かった」
「何故?」
「こうして同じ星の同じ時代に同じ場所で生まれて出会って恋に落ちたからさ!クイーンやプリンセス、そして銀水晶とゴールデンクリスタルに感謝だ」
「前向きで助かったわ」
レイは少なからずベリルの事や前世での出来事を話すか迷っていた。
しかし、自分の中でのみ考えてモヤモヤしていても重く暗くなるだけで何の解決もしない事は今までの経験で分かっていた。
きっと心を軽くして貰いたかったのかもしれないとレイは思った。
「また、レイと出逢えて良かったと心から思ってるんだ」
王国が滅んだ事は“良かった”と言う一言では片付けられないし、そうは思わない。
ただ、幾つもの偶然が重なり地球も月も滅んだからこそ、こうしてまた巡り会い前世では成就する事が叶わなかった恋を手に入れる事が出来た。
それも数多の戦いの中で銀水晶やゴールデンクリスタルが奇跡を起こしてくれたからこそ授かった“今”がある。
「私も、貴方には感謝しているわ」
「これからも何でも知りたい事があれば遠慮なく聞いてくれ。レイの力になりたい」
ベリルの事は可哀想だと思うが、互いの主が星を滅ぼす程に深く激しく愛し合った。どれだけ愛していたかは計り知れず、彼女のみぞ知るところだが、二人の仲に割って入る事等到底出来なかっただろう。
そして、その想いは現世でも前世の記憶を失っていた時でさえ惹かれ合う程強いものだった。
きっとどんな事をしてもベリルが報われる事は無かっただろう。
「ベリルには幸せになって欲しいわね」
「ああ、そうだな」
あの世にいるのか、それともこの世のどこかにいるかは分からない。
それでも、二人はベリルの幸せを願わずにはいられなかった。
「私たちも、うさぎと衛さんの幸せを守っていかなきゃね!」
「俺たちの幸せの為にもな!」
きっとこれからも幾多の困難が待ち受けているだろう。
その度に手と手を取り合い、敵を倒し二人の未来を守り抜くと心に誓っていた。
二人の愛は普遍的なものだからーー
おわり
2023.11.01
良いレイちゃんの日