セラムン二次創作小説『黄泉の世界で(ジェダレイ)』
髪の毛を優しく撫でる感触で私は目が覚めた。
「んッくぅっ」
「マーズ、目覚めたかい?」
目を開けて最初に映ったのは、短髪の髪の毛の青年ーージェダイトだった。
バスで連れ去られた時のように、彼は私の髪の毛をウットリした顔で撫でていた。
「ここは……?」
聞かなくても気配で何となく分かる。殺したはずの彼がいる事も説明が着く。そう、きっとここは……
「死後の世界だよ、マーズ」
「……そう」
やっぱり、私は死んだのね。変身ペンを投げ出したのだから当然、生きているわけないもの。
勿論、後悔なんてしていないわ。私たちのプリンセスを目覚めさせる為だもの。プリンセスの為に私の命はあるの。昔も今も変わらない忠誠心。
それでプリンセスが生き残ってメタリアを倒してくれたら私は何も言う事は無いわ。
「どうしてここに?」
「プリンセスの為に命を投げ出したわ」
横たわっていた私は身体を半分起こしながらそう答えた。
「覚悟の死、か……」
立派な行動だ。それでこそマーズだとジェダイトは続ける。
そう。私は裏切って死んだ訳では無い。使命を全うして死んだの。自分の使命を誇らしく思っているわ。
「後悔はしていないわ。それでプリンセスが目覚めてくれるなら」
「そうだね。俺たち四天王はマスターを二度も裏切ってしまった。俺たちとは違う」
情けないと後悔を滲ませながらジェダイトは顔を歪ませた。
彼らだって王子の忠実なる側近。裏切りたいわけじゃないのよね。操られていた。ただそれだけの事。だけど、それがどれ程の裏切り行為だったか。そのせいで、月は滅びたんだもの。
「はっ、そうだわ!プリンセスは?」
ここが黄泉の世界であれば、死んでいる人がいるはず。
私は誰より霊感がある。こうしてここで目覚めたのにはきっと理由があるはず。プリンセスがいるかどうか確かめなきゃ!
「ヴィーナス達はいるけれど、マスターとプリンセスの姿はここには無いよ」
ジェダイトは暗い顔で頭をフルフルと横に振って残念そうに答えてくれた。
ここにいないと言う事は、死んでなんかいないということ。私にとっては朗報だった。
「じゃあ、お二人は生きているのね?」
「恐らく、ね」
プリンセスも王子も生きている。その事実に私は歓喜した。私たちのした事は間違っていなかった。無駄死にじゃなかったのね。
「良かったわ。生きているって事よね?」
「多分ね」
「命を投げ出した甲斐、あったわ」
「良かったね」
私の言葉に短く答えるジェダイトは、珍しく感情を顕にしている私に驚いている様だった。
前世ではジェダイトの方が口数が多く、感情豊かだった。今もコロコロ表情を変えているところを見ると、前世の性格はそのままなのだろう事が伺えた。
現世、ほんの一時だけの再会。前世の記憶が無いままに敵対していたジェダイトをセーラー戦士として目覚めた私はその流れで彼を殺す事になった。今の彼を知らない。
けれど、あの時のようにきっと明るく素直な人なのだろうことが想像に固くなかった。
「ええ。ありがとう」
「今日のマーズは素直で優しい」
「もう、からかわないで!」
このままこうしてここにいるのも悪くないわね。なんて思っていると、ジェダイトから意外な言葉が発せられ、現実に呼び戻された。
「君はここにいてはいけない」
「え?」
「戻らなきゃ、元いた所へ」
「でも」
戻る手当なんて、流石の私も持ち合わせてなんていないのよ?一体、どうやって?
頭が真っ白になる。
「君たちは俺たちとは違う。プリンセスがきっと呼び戻すよ」
そうか。プリンセスの銀水晶で彼女が望めば私たちは蘇ることが出来るのね。忘れていたけれど、地球に生まれ変わったのもクイーンの銀水晶のお陰だったわ。
「もしプリンセスがまだ必要としてくれるのなら……」
「きっとプリンセスは君たちと一緒にいたいと思うよ」
「そうかしら?」
「ああ、きっとそうさ」
そんな会話をしていると、私の身体を光が包み込み始めた。暖かく優しい光。安心する癒される光。
私、この光を、暖かさを知っているわ。最期にこの光を浴びながら死に絶えたのよね。ただ、あの頃とは少し違う暖かな光。これがプリンセスの銀水晶の力。
「そうみたい」
「マーズ、会えて嬉しかったよ」
「私もよ。さよなら、ありがとう」
「こちらこそさ。マスターを頼む!」
「貴方は?」
「俺は、裏切り者。報いを受けないと。マーズ、相変わらず美しい」
「バカっ!」
互いに握手を交し、私は覚悟を決めてその場から消えた。
この先も、何があっても私はプリンセスを守って行く。
私はプリンセスの忠実なる戦士なのだから。
おわり