セラムン二次創作小説『恋と花火と過去(ネフまこ)』


「今度、花火見に行こうぜ!」

夏の思い出の一つとして何気なく勇人はまことに提案した。

花が好きなまことのことだ。花火も好きに違いない。そんな単純な理由があった。

喜んで二つ返事をしてくれると思っていたが、まことの顔を見て状況が一変した。


「……花火、か」


小さくつぶやく誠の顔は、笑顔ではなく、曇っていた。一体、どうしたのだろう?

喜んでくれるだろうとの予想に反して、まさかのローテンション。


「どうした?」


理由が分からないので、素直に聞く事にした。


「ああ、花火はちょっと苦手で……」


まさかの答えに驚いてしまった。まことに苦手な物などあまり無いと思っていたからだ。

何故苦手なのか?綺麗なのに、皆目見当もつかない。デカい音か?まこともやはり乙女だな。等と気軽に考えてまた質問した。


「何でだ?音がデカいからか?」

「いや、違うよ。私の両親、飛行機事故で死んでるだろ?空を見上げるのが怖いんだ」


そう話すまことの身体は少し震えているように見えた。


「すまない。気付いてやれなくて」


そんなまことの心に寄り添うように勇人はそっと抱き締めて、軽率な自分の提案を反省した。


「こっちこそごめん!誘ってくれたのは嬉しかったんだ。本当だぜ?」

「ああ、無理はするな。別に俺はまことと一緒なら花火じゃ無くても全然良いんだ」

「勇人……」


無理強いはしない。そのさり気無い優しさに、まことはいつも救われていた。

幼かったあの日、突然両親は帰らぬ人となり、一人になった。両親の祖父母宅に預けられ、不自由無く暮らしてきた。


しかし、傷は思ったよりも深く、テレビで飛行機の音を聞くだけでも怖くなり、悲鳴をあげるほど。

戦士になるまでは空を見上げる事も怖かった。空を見上げて、飛行機が飛んでいるのを目にしてしまうのが嫌だった。

昼は何となく回避出来るが、夜は星なのか飛行機なのか一目では分からないため、見上げる事がはばかられた。


「人は死んだら星になる、なんて言うけど……飛行機事故で死んだ両親を見上げられなくて」


それでも戦士になってからは、何とか克服傾向にあった。ましてや、月に行ったこともあるし、空も飛べる。

でもそれは戦士としての事で、普通の人としてでは無い。普通の人である時のまことは、まだまだトラウマを克服出来ずにいた。


それ故に、星になった両親もちゃんと直視出来ずにいた。

それを勇人に包み隠さず話した。器がデカい勇人だから、きっと受け止めてくれると確信があったから。


「そうか。中々克服出来るもんじゃねぇからな。在り来りだが、時間が解決してくれると良いな!」


ま、一番は俺が治してやれたら最高なんだけどな。と言いながら、大袈裟に笑って見せた。


「うん、そう信じてるよ!」


やっぱり勇人にちゃんと話して良かった。とまことはこの日、心からそう思った。そして、ホッとした。

花火を二人で見に行けるのはいつになるだろう。1000年もあるんだ。一生行けないなんて言葉で流石に無いだろうとまことは思った。


「手持ち花火なら余裕だぜ?」


この提案に早速乗った勇人は、速攻で車を走らせて手持ち花火をスーパーで大量に買ってきた。

二人でするには多かったが、楽しいひと時を過して夏の思い出を作ったのだった。


そしてそれから数週間後、この手持ち花火大作戦が項を制したのか?まことは、勇人の提案通りに花火大会へと足を運んでいた。

あの日以来、夜の空を見上げる練習をして少しづつ克服して行った。

元々頑張り屋のまこと。“勇人と一緒に花火大会へ行く”と言う目標を貰った為、頑張っていた。

マンションで空に近かった事もあり、容易とまではいかなかったが、飛行機が飛ばない時間を調べて遭遇しないよう回避した。

その甲斐あって、最後の花火大会には長時間見上げられるようになったというわけだった。

勉強では中々無理だが、勉強では無かった為、持続して頑張れたようだ。そして、なんと言っても恋人の存在が大きい。


「たーまやー」

「まこと、可愛すぎ!」


ベタに花火を見て叫ぶまことに、勇人は爆笑する。

二人はこの日、いつまでもいつまでも空を見上げていた。花火がとっくに終わっても、見上げ続けていた。


「木星があるぜ!」

「本当だ。懐かしいな~」

「いつか連れてってくれよな!」

「ああ、今度ゆっくりな!」


ようやく直視できた母星。そこに勇人とまた訪れる日が来るのかと感慨深く見ていた。


「まことの父ちゃん母ちゃんの星もあるぜ!」

「んなのねぇよ!ロマンチストだなぁ」

「あるって!俺が言うんだ!間違いない!」


どこにそんな自信があるのか分からないが、まことの両親の星もあると豪語する。

勇人が“ある!”と言うんだからあるんだろうと思えて来るまことだった。

木星も、両親の星も、必ず二人で行こう。そう改めて誓った夏の日だった。





おわり



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