セラムン二次創作小説『ボーイフレンド(まもうさ)』
十四歳、冬。あたしは人生で初めて彼氏が出来た。
ずっと好きだったゲーセンのお兄さん、では無くてあたしがセーラームーンになるその日から偶然街角で会っては口喧嘩をしていた人。憎まれ口を叩きながらもどこか気になっていた高校生の恋人。
大人で落ち着いていてかっこよくて。眉目秀麗、才色兼備、頭脳明晰。ここらへんの四文字熟語がぴったり当てはまる素敵な人だ。
そんな彼はタキシード仮面として活躍していて、セーラームーンである戦士としては全然未熟なあたしをずっと支えて守ってくれていた人でもある。
それに、何を隠そう前世では王子様で、お姫様だったあたしと付き合っていた。
つまり、あたしとまもちゃんは前世から運命の赤い糸で結ばれている。
でも、あたしには不安なことがある。
それは、そんな誰がみてもイケメンで完璧な人に今まで彼女がいないわけがないってこと。あたしはまもちゃんが初めてだけれど、まもちゃんは過去に何人付き合ったんだろう?
しかも、前世で付き合っていた記憶があったとしても、この世界では月野うさぎとしては、まもちゃんとは初めてなわけで。まもちゃんと会うときはいつもドキドキしているし、どうしたら良いか分かんなくて。
前世の記憶なんてあってないようなもので。どれだけ前世で長く付き合い、何度も会っては愛を確かめていても、今の私はそのどれもを経験なんてしていない。
あたしはセレニティであって、セレニティじゃない。月野うさぎとしてまだまだ恋に焦がれる十四歳。まもちゃんだってエンディミオンだけれど、きっと違う人で。地場衛としての人生を歩んで来ているわけで。
モヤモヤと考えても答えなんて出ないから、ある日のデートでまもちゃんに聞いてみることにした。
「まもちゃん、あ、あの、ね?」
覚悟を決めていたはずなのに、いざ聞こうと思うと怖い。緊張する。現実を突きつけられたら辛い。
「まもちゃんって、その、今までお付き合いした人っているの?」
一気に言葉を出し切る。まもちゃんの顔を見ると、驚いた顔をしていた。思ってもない質問だったんだろうことが見て取れる。
「急に、どうした?」
「うん、まもちゃんってモテそうだからあたしと付き合う前にも彼女いたんだろうなって、思って……」
言いながら悲しくなってきて、顔を俯いた。
きっと、素敵な女性が恋人だったんだろうなって想像して、凹みそうになった。
「いないよ」
「え? うそ? なん、で?」
“ない”と言う言葉に驚きを隠しきれない。びっくりして顔を上げると、まもちゃんは苦笑いをしていた。
「確かに告白は良くされた」
「……やっぱり」
「でも、断ってた。知らない人ばかりだし、それどころでは無かったしな」
「それどころって、勉強?」
「いや、それもあるけど違う。失った記憶を取り戻すために“幻の銀水晶”をずっと探していた」
「あっ!」
そっか。自分の記憶を取り戻すために銀水晶を一人でずっと探していたんだ。
「いつから?」
「中学生になって慣れた時から、かな」
まさか前世があって、その記憶を取り戻すために必要だったとは思わなかったけど。とまもちゃんは困った顔で笑って言った。
「地場衛としての記憶は、気長に待つよ」
「まもちゃん……」
「思い出せないのは辛いけれど、うさこが傍にいてくれる。何か、それだけで戻ってくれそうな気がしてるんだ」
十年、全く戻らなかった。そんな簡単に戻るわけないしな。とまもちゃんは続けて話す。
「そう、だね。ゆっくり、焦らず! だよ!」
「そうだな。これからはうさこと過ごす未来が大切だしな」
「まもちゃん!」
あたしは嬉しくてまもちゃんに抱き着いた。まもちゃんもギュッと抱きしめ返してくれた。とっても幸せ。
「だから、付き合うのはうさこが初めて。うさこは?」
「嬉しい! あたしもまもちゃんが初めて、だよ♡」
「良かった。お互い、初めての恋人なんだな。初めてを二人で紡いでいける。想い出を作っていけるんだな」
「そうだね。でもね、まもちゃん……」
「何だ?」
「あたし達って、前世の記憶があって、付き合っていたじゃない?」
「ああ、そうだな」
あたしはもう一つの不安をまもちゃんに伝えようと言葉を選びながら話し始めた。
「でも、ね? この世界では、月野うさぎとしては何の経験もしてなくて。セレニティとしての経験は継続してないんだよね」
上手く説明出来ない。伝えたいことが思うように言葉にできなくて、バカな頭を呪う。
「ああ、違うよな。うさこはうさこだ。俺が俺であるように。一度死んで転生して記憶があるからややこしいけれど、別人だしあのときのことはリセットされてるよな」
「そう! そうなの! 違うの、全然! 上手く説明出来ないけれど」
「言いたいことは分かるよ。大丈夫! ちゃんとうさこを見ているよ」
「まもちゃん……!」
伝わった! 頭の良いまもちゃんは勘が良くて頭の回転が凄い。あたしの下手な説明に、言わんとしていることが伝わって、ホッとした。
「混乱するよな。でも、うさことセレニティはやっぱりどこか別人だ。俺もそうであるように」
だから、心配することはないとまもちゃんは続けて言ってくれた。
「だから、二人の想い出を、前世の二人に負けないくらい作っていこうな」
「うん!」
笑顔でそう言われ、スゥッとこころが軽くなって行くのが分かった。
まもちゃんは凄い! 欲しい言葉をくれる。あたしの心をちゃんと分かってくれている。安心する言葉をくれる。
もうなにも心配も不安もない。まもちゃんとならこの先も幾多の障害も乗り越えて幸せになれるって確信した。
おわり