セラムン二次創作小説『そのカオリは妖しさを纏って』


“ほたるの様子を伺う”


ルナから戦士として初めての使命を与えられたちびうさ。

ほたるの父で、“超生物”の研究をしていると言う土萠創一。六年前に学会を追放されていて、その二年後に火災で妻をなくしている。

怪しい点が多く、要注意だと言う。その創一の娘であるほたると偶然知り合ったちびうさ。

何度か彼女の家に遊びに行った事から、ルナの計らいでちびうさがこの使命を任されたのだ。


本来であれば、危険なミッション。

“近づくな”と言われてもおかしくは無い。大人チームでも、無限学園への侵入は失敗に終わっていた。

子供だからかえって怪しまれない事もあるだろう。何度か土萠家にも行っているちびうさがこのミッションに適任。そう踏んだルナからの計らいだった。

土萠創一の事を探れて、ほたるとも仲良くなるチャンス。ちびうさは張り切った。


「よし、戦士として頑張るぞー!」


放課後、土萠家へと向かう。

ほたるの家には何度か行っていた。

しかし、怪しいところは特に無い。

そんなに早く成果はでないとは分かっているものの、何か一つでも手土産を持って帰れればとちびうさは気負う。


「ほ〜た〜る〜ちゃん!」


呼び鈴を鳴らし、ほたるを呼ぶ。

ガチャリとドアが開き、出てきたのはほたる。では無く、カオリと呼ばれた女性。


「あら、あなた……」

「ほたるちゃん、いますか?」 


威圧感があるものの、臆すること無く質問するちびうさ。


「ほたるさんなら、まだ学校から帰ってませんよ」


ちびうさを追い払おうとするカオリ。

だが、その時カオリの後ろから声が聞こえた。


「カオリさん!勝手な事は止めて!」

「ほたるさん、貴女、普通の体では無いのですよ?」

「ほっておいて!ちびうさちゃんは、私のお客様よ。さ、入って。ちびうさちゃん」


初めて来た時からほたるとカオリの態度に気になっていた。顔を合わせては言い争っている。


「ごめんなさいね、ちびうさちゃん」

「ううん、こっちこそ都合も考えずにごめんね」

「良いのよ、気にしないで。私がちびうさちゃんをお家に招きたかったから」

「ほたるちゃん……」


優しい子だとちびうさは思った。

初めて会った時も、不思議な力を持ってはいたが、とても聡明で大人しい子だと感じていた。それは今も変わらない。

けれど、カオリに対する態度はまるで違う。どうしてなのだろう。どんな関係なのかちびうさは気になっていた。


「さっきの人……」


聞いてはいけないとは思いつつ、好奇心には勝てず聞こうと決意した。土萠創一の些細な事でも聞き出せればと考えた。


「カオリさん?」

「ママ……じゃ無いよね?」

「彼女は、パパの助手なの」


カオリと呼ばれた妖しい女性は、創一の助手だと説明され、ちびうさはハッとなった。

これは何か有益な情報を得られるのではないかと。


「でも、家政婦みたいにこの家の事に手を出していて……」


ほたるは、そう言いながら苦虫を噛み潰したような顔をした。


「私ね、ママがいないの。昔、火災事故で死んでしまって……」


母親がおらず、この大きな屋敷で父親と二人。そこに、漬け込んで助手のカオリが家にまで押しかけている。


「カオリさんはね、元々はママの大親友で、私もママが生きていた頃はカオリさんにとっても良くしてもらっていたの」


そう話すと、ほたるは悲しそうな顔をする。

そんなほたるに、どう声をかけたらいいのか分からず、ちびうさは黙って聞いている他無かった。


「私も小さい頃は、そんなカオリさんに懐いてた。とっても大好きで尊敬していたの。なのに、ママが死んでしばらく経ってからカオリさん、この家にも入って来て私やパパに構ってきて……」


最初こそ、螢子の親友として心配して気にかけてくれていると思っていた。

しかし、行動は段々とエスカレートしていき、それまでカジュアルな服装だったカオリだが、露出度の高い服になり、胸を強調する服に、ミニスカートと言う出で立ち。

あからさまに創一に女として媚びを打っていた。


「カオリさんは、パパの事が好きなのよ。パパもカオリさんの事、信頼しているみたいだし……」

「ほたるちゃん……」


ほたるだって分かっていた。母親が死んで、いない今、創一が誰と恋愛しようが自由だと言う事を。

双方合意であれば、結婚だって出来る。そこにほたるの意志など不要。法律上でも何の問題もない。それは充分理解していた。


しかし理解はしていても、心は別だ。

幾ら小さい時から知っていて、慕っていたからと言っても認められない。心がついていかない。

螢子が死んだのはほたるが八歳の時。とは言え、螢子との思い出はあるし、大好きだ。ほたるにとって、母親はただ一人だけ。螢子以外は考えられなかった。

ましてや、大親友であるカオリが創一の相手。それを聞いて螢子はどう思うだろうか?ショックを受けるのではないか?

母親の気持ちを考えると、ほたるは受け入れることが出来なかった。


ほたるは、父の事が大好きだった。いや、勿論今も。母親が死んでから、事故の後遺症で体が弱くなった。そんなほたるの体を見て管理してくれているのが、創一だった。ほたるにとっては父であり、医者でもある。頼りになる唯一の肉親だ。


そんな創一は、素敵な人だ。男としても魅力的だと思う。カオリのみならず、女性から慕われている事もほたるは知っていた。

創一もまだ若い。その気になればカオリ以外でもそう言った相手が出来るだろう。


全てを理解した上で、それでもほたるはーーー。


「幾らママの親友で、パパの助手で信頼もあるからって、二人が付き合ったり、結婚するなんて、嫌なの!」


激しい拒絶。ほたるとて、こうして実際声に出して大きな声で気持ちを叫んだのは初めてだった。


「ほたるちゃん、分かる!分かるよ、あたしも……」


そんなほたるの姿を見て、ちびうさは泣きながら抱き締める。

ほたるの状況とは少し異なるが、ちびうさも少し前に同じ体験をしていた事を思い出したのだ。


「ちびうさちゃん……?」

「ほたるちゃん、私もほたるちゃんと似た体験を少し前にしているの……」


そう言いながらちびうさは、ほたるに自身の体験を話すことにした。



ちびうさは、セーラープルートの事を思い出していた。


いじめっ子にいじめられて、落ち込んだ時に出会った孤独の時空の番人。彼女は最初から自分の事を知っていて、深々とお辞儀をして自己紹介をしてくれた。

励まして、優しくしてくれた。いつも良くしてくれて、友達だと思っていた。

孤独な彼女と自身を重ね合わせ、同士だとちびうさは感じていた。


「大好きだったお友達がね、実はパパの事を好きだったって気づいてしまったの。その人、ママの友達でもあって……」


そこでちびうさは言葉を切った。

悪口では無いが、死んでしまってもうこの世にはいない人の事を悪くいう事に抵抗があった。プルートの真意も分からない。


「あ!ママは生きているんだけど、その人は死んじゃってて……」

「え、まさか?バレて消され……」

「違う違う!ただの事故なの。ごめんなさい、変な話の流れで」

「私の方こそ、勘違いしてごめんなさい」


事故と言えば事故だが、プルートの死因を端的に言えば自殺だ。タブーを犯したが故に、自らで制裁を受けたのだ。

そして、それはちびうさを含むこの星を守るために身を呈して守ってくれた。戦士として、勇敢な行動だった。


そんな戦士として忠実で、勇敢。それでいて模範的なセーラープルート。そんな彼女が、どうして妻子ある父に恋心を抱いたのか?

彼女が死んでしまった以上は聞くことは叶わないが、知りたかった。


「お友達がパパを好きなんだって知った時、すっごくショックだったんだ。裏切られたって思ったし、居場所を無くした気分だった」

「ちびうさちゃん……」


ちびうさがいつも見ていたプルートの笑顔は、切なくて寂しげで。それでいて儚い。そんな印象だった。

それが、父親に頼られている時のプルートはとても嬉しそうで、見たこともない笑顔で笑っていた。

自分には向けられる事の無かった笑顔に、敏感なちびうさは悟ってしまった。プルートはパパのことが好きなんだと。

同じだと感じていたプルート。実はそうでは無かったと気づいた時、居場所が無くなってしまったと悲しい気持ちが支配した。


「私の事を大切にしてくれていたのは、好きな人の子供だからだったのかな……」


何故プルートは父親の事を好きになったのだろう。

何故プルートはちびうさに良くしてくれていたのだろう。

一国のプリンセスで、いずれはこの星を統べる女王になるから。

愛する人の大切な子供だから。

疑いたくは無いが、段々と疑心暗鬼になってしまっていた。


「そんなこと……」


無いよ。と言おうとしたほたるだが、言えずに飲み込んだ。

自身のことと重ね合わせると、そう考えてしまっても仕方が無いと思ってしまった。それに、薄っぺらい言葉で励ましても、何の慰めにもならない。自身がそうだからだ。


「ちびうさちゃんはパパやママの事、好き?」

「大好き♡」


迷わずそう答えたちびうさはとてもいい笑顔をしていた。

星を背負って頑張っている両親を尊敬していたし、誇りに思っていた。

“ママの様な素敵なレディになる”と言う立派な夢を持っているし、父親はちびうさにとっては初恋の人。恋人は父親に似た人がいいと密かに思っていた。

つまり、ちびうさの理想像は両親そのもの。目標としているところだった。

そんな事もあり、父親も母親も魅力的な人だから色んな人が慕っていることをちびうさは知っていた。

けれど、まさかこんなに近くに父親に恋心を抱く人がいるとは、思いもしなかった。それも、何でも話して同じだと思っていた友達だったとは思いもよらないことに、ただただショックだった。


「どれだけ慕っている人だって、本物のパパとママの代わりは出来ないよね」


不謹慎だが、ちびうさを羨ましいとほたるは思ってしまった。母親は生きていて、相手の女の人は死んでいる。

自分とは違い、母親がいて幸せに暮らしている。


「そうなんだよね……」


幾ら慕っていても、母親の代わりにはならない。本当の母親は唯一無二の存在だ。


「ちびうさちゃん、ごめんなさいね」

「何が?」

「嫌な事、思い出させちゃったし。暗い話になってしまって」

「ううん、気にしないで。私が聞いたんだもん」


土萠創一の有益な情報は得られなかった。

だが、ほたるが今置かれている辛い状況を知ることが出来た。

そして、何故こんなにも惹かれ、仲良くなりたいかも知ることが出来た。

少し状況は違うが、似ていた。

益々ほたるの事が好きになったし、友達になりたい。そう思ったちびうさだった。







Fin

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