セラムン二次創作小説『夢幻花火(A美奈)』
少し涼しくなってきた夜の八時。集中して受験勉強をしていた美奈子の耳に遠くからドンと言う重低音が規律的に聞こえて来た。
「この音は、花火?」
そう言えば今日は花火大会だと街に貼ってあるポスターで目にしたなと美奈子は記憶を呼び起こしていた。
勿論行きたかった。勉強会でうさぎ達に提案したが、亜美があっさり却下して来た。
その一瞬のたるみが命取りだ。そんな場合かと。挙句の果てに、新しい敵の侵略が無い今、集中して勉強する時だと力説され、あえなく断念。
「行きたかったなぁ~」
どうせ独り身のしがない受験生。一緒に行ってくれる恋人などいない。
一人や、女友達と行ったところで周りのカップルと浮くだけだと言い聞かせ、断念する事にした。
仮に受験生では無ければ誰と行っていただろう。
「やっぱり、エースかなぁ?」
バレンタインデーに出会い、一目惚れしたエース。
美奈子的には付き合っていたと認識していた。
敵として立ちはだかり、前世さえ思い出さなければ今頃はきっと……
「エースって本当に実在した……んだよね?」
今となっては誰も彼を語ろうとしない。忘れ去られているだけか。人の噂も七十五日と言うが、エースが死んだ後も二ヶ月半で忘れられたのだろうか?
彗星の如く現れ、花火のようにあっという間に散ってしまったエース。
覚えているのは自分だけで、実は夢や幻だったのではないかとさえ錯覚をする。
思い返せばエースの事を追っかけていたくせに彼の事はほとんど何も知らない。そのことに気づいた美奈子は愕然とした。
彼はあれだけ見ていてくれたし、自分だってアイドルAを追っかけていたにも関わらず、彼に関する事を知らない。
知っている情報としては、前世は同じ金星人で地球に兵士としてクンツァイト直属の部下で、セーラーヴィーナスをずっと見ていて好きだった。
現世ではアイドルをしながら前世の記憶を持ちながらも敵として立ちはだかりながらも美奈子のことを愛していた。
思い起こせばしてもらうばかりで、何も返せていなかった。
オーディションで選んでもらったり、指輪を貰ったり。そして、愛してくれた。
それなのにその愛に応えることが出来なかったばかりか、敵として立ちはだかったとは言え殺す事になってしまった。
「もっと違う形で会いたかったな……」
何故、敵としての出会いだったのか。
何故、彼が敵の手に落ちなければならなかったのか。
今となっては分からない。
例え違う形で会ったとしても、うさぎが一番でエースとの恋は成就しなかったかも知れない。
では、うさぎと言うかけがえのない存在がいなければどうか?
それでも移り気な性格の美奈子は、一人に留めておけないだろう。
遠くで聞こえる花火の様に、一瞬で咲き誇り散り行くだけの恋になってしまうのではないか。美奈子は、打ち上げ花火に自身の恋を重ね合わせ、切ない気持ちになった。
おわり
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