
米一粒
父は非常に厳しい人だった。
厳しいを通り越していたと思う。
時代も時代だったとは思うし、私もかなり面倒な子供ではあったから、よくゲンコツをもらっていたものだ。
そんな父にも感謝しているところがある。
食事に関するマナーで、『綺麗に全部食べる』ということと、『箸を正しく使う』ということを厳しく躾けられたことだ。
後者に関しては割と普通のことかもしれないが、「お米や野菜などの食べ物を残すことは、お百姓さんに悪いと思え」というようなことを常々言われた。
時には「お米一粒一粒にも神様が宿っていると考えろ」と。
子供の胃袋だから好き嫌いだけでなく、物理的に食べられないときにも容赦はなかった。
「腹具合は自分のことなんだから、食べきれ無さそうだと思うんだったら最初に言え」と。
幼い子供にそこまでの思考を要求するのは滅茶苦茶である。
いつも泣きながら最後まで食べた。
そんなこんなで食事の際に「綺麗に食べるね」と言われると、褒められて嬉しい気持ちと厳しかった父を全肯定しそうになる複雑な気分になるのである。
そんな父もいまや考えられないくらい角が取れまくって丸くなっている。
キレる老人の方にならなくて本当によかった。
人間とは本当によくわからなくておもしろい。