Photograph Tee
一括りに「写真」(=“Photograph”)といっても、ジャーナリズムの先の報道写真か、コンシューマリズムの先のアート写真なのかで、その意味合いは大きく異なる。
「写真Tシャツ」の代名詞として語り継がれるBruce Weberといえば、Calvin Kleinの広告写真を手がけたことでその名を馳せた、生粋のファッション写真家である。
Bruce WeberとTシャツの邂逅については、イタリアの男性ファッション誌“Per Lui” 1985年8月号の企画に端を発する。この号では、Bruce Weberが撮影した数々のポートレートと、アーティストのRichard Giglioによるグラフィティが表紙から誌面全体までを飾った。雑誌の刊行と連動して、表紙デザインを前面にあしらったTシャツを、イギリスのブランドPaul Smithが製作し、一般向けに販売した。その後、ニューヨークのブティックPatricia Fieldによって新たに4版が加えられ、1985年にリリースされた一連のBruce WeberにフィーチャーしたTシャツは、一般に背面のデザインから“White Tiger”と呼称されることとなる。また、翌1986年、Per Luiが再びBruce Weberを起用した特集号の刊行に際してもTシャツが製作され、このTシャツは、特集の名前から“Summer Diary”と称される。
ファッション業界と写真家のコラボレーションによる写真Tシャツが常態化した決定的な出来事がある。1988年、HIV/AIDSの世界的流行を受けて、世界保健機関WHOは、12月1日を「世界エイズデー」に制定する。業界内に感染者を多く保有したファッション業界は、これに呼応し、エイズ撲滅の名目でたびたび慈善キャンペーンを敢行、ときに賛同する写真家やスーパーモデルを起用して写真Tシャツを発行するようになったのだ。
潮流のなかで、「写真Tシャツ」というテンプレートが完成形に近づき、各ファッションブランドは、製品として写真Tシャツをリリースする機会を得ることとなる。
1990年代に入ると、写真それ自体がアートとして高い評価を受けるようになったことで、写真集が頻繁に刊行されたり、伝統的な美術館で展覧会を開催するような大御所写真家が誕生する。マーチャンダイジングとしての写真Tシャツが一つの主流となり、アーティストのライセンス品を扱うFotofolio社も写真家のTシャツを主力商品に置いた。
ファッション写真以外の分野だと、スナップ写真で独自のスタイルを確立した森山大道や、マグナム・フォトに参加したElliott Erwittをはじめ、ジャーナリズムの文脈を汲む写真家のTシャツも存在が確認されている。
また、Bruce Weber『ブロークン・ノーズ』『レッツ・ゲット・ロスト』やWilliam Klein『ポリーマグー お前は誰だ』のように、写真家が監督した映画作品のTシャツも写真Tシャツとして括ることができ、ひとえに「写真Tシャツ」と言っても、その層は実に厚いのだ。
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