香り
私は香りものが大好きです。
初めて香水を母に買ってもらったのは小学3年生の時でした。母がつけているイブサンローランの香水の香りが大好きで、沖縄旅行に行った時空港の免税店で見つけおねだりして買ってもらいました。
すっごく大人な香りで当時の私には全く似合わない香りでしたが、少し背伸びできたのが嬉しかったです。今でもその香りを嗅ぐと当時の母がふっと頭に過ります。香りに宿る記憶はどんなに昔のものでもとても鮮明。頭で覚えているというより体と心が覚えている、そんな気がします。
そして私はその時から「私の香り」を探し始めました。
19歳の頃から数年間ずっと一つの香水に恋をしていました。Chloeのオードトワレ。当時この香水を使っていた女性はとても多かった気がします。街を歩くと自分と同じ香りがする方によくすれ違っていました。ずっとこの香水を使っていたので、もしかしたら友人たちにとってはこの香りが今でも私の香りかもしれません。
先日久しぶりにこの香りに触れる機会があったのですが、一瞬で当時の記憶がフラッシュバックしてなんとも言えない気持ちになりました。いい時も悪い時も様々な経験をこの香りの中でしました。私にとって忘れられない香りです。
香りに敏感なので好みの香りがすると自然と足は向かってしまいますし、男女問わずいい香りの人に近寄ってしまいます。でも香水の瓶をかぶったの?と聞きたくなる様な付け方をしている方はとても苦手です。食事へ行っても邪魔をせず、隣に居るともう少し近寄って香りたいと思わせてしまう程さりげなく、残り香で興味をそそる様な、香りを上手に纏っている人ってすごくセンスがいいなと思います。そしてそういう人を好きになっている気がします。
好きな人の首筋や手の甲に近づき、その人自身の香りと混ざった香水の香りを感じていると、自分と相手の境目がなくなってしまう様な気分になります。
昨年から使っている香水OFFICINE UNIVERSELLE BULYのグランド・オダリスク。近年稀に見る私的ヒットでしたが矢が刺さったのはど真ん中の少し横、惜しい。ムスクとスパイシーな香りがするオリエンタルでとっても艶やかで奥ゆかしい香り。ルーブル美術館に飾られている同名の絵画に調香師がインスパイアされて作られたという、香りの成り立ちもすごく魅力的な香水です。オダリスクとは中近東のハーレムの女性のことを指すそうで、なるほどだからこういう香りなのかと納得する色っぽい香りなのです。色っぽいの定義は人それぞれだと思いますが、私にとってはクラシカルでどこか一筋縄でいかない少しクセのある芳しい香りです。
知人に調香師の資格を持っている女性がいます。彼女は医師であり西洋占星術やアロマ、パワーストーンや錬金術など学んでおり、彼女のラボはまるでハリーポッターの実験室。いつ行ってもトキメキとワクワクをくれる場所です。そしてその場所も彼女自身もいつもいい香りがします。
彼女のラボで香り作りのお手伝いをしていた時のこと。
「どんな香りが好きなの?」と聞かれました。「グランド・オダリスクが好きで、色っぽい香りが好き」と言いました。
「色っぽさを求めなくなったら本当の色気が出てくるかもね。今はその香りに助けてもらってていいと思うよ。でも本当の杏ちゃんの香りはある意味もっと色っぽいのかもね。」と…。
芍薬や桃はその姿そのものが香り立つ。
そんな存在への憧れ。