欠片

ごちゃごちゃで、本がたくさんあって、ホコリっぽくて、自分の好きを詰めた部屋は決して寂しくはないのだけれど、あの音がない部屋はどこか足りない気がして、小さい身体の大きな死を思わせる。

金魚の飼い主としての私は一度区切りがついてしまった。

扉を開けて水槽がない生活も、朝起きた時の餌やりが無い生活も、一週間すれば慣れるだろうと思っていた。
が、一向に慣れる気配がない。
飼い主の帰宅に気付いて寄ってくるあの子の姿を期待するし、人間の出てくる方向を向いて待っている姿を思い出す。
もう水槽は無くなって、水槽の代わりに荷物置き。匂いは水と魚の匂いの代わりに金木犀の芳香剤。

魚が居なくなって、虫除けを使ってもよくなったというのに買う気もせず、涼しくなって出てきた蚊に尻を食われた。
どこか金魚飼いとしての性質が邪魔をする。  
決して良い飼い主では無かったというのに。

今、新しく金魚を迎えるかどうかを考えている。
と言ってもまだ先になるだろう。
日常に水音が再び流れ出すまでは、しばらくかかりそうだ。

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