娘ももこの挑戦 遊具その2
娘のももこが幼稚園児の頃、林試の森公園によく遊びに行った。
林試の森公園のアスレチックはそれほど多くないが、家からさほど遠くなく、たっぷり遊ぶには十分だった。
ここのアスレチックでも、ももこは一日かけて挑戦することになる。遊具の名前は分からないが、網目状のロープの上を歩いたりくぐったりするもので、小学生であれば割と簡単に遊べるレベルのものだが、4歳の、それも怖がりのももこにとってはかなりハードルの高い遊具だった。
ある日ももこは林試の森公園に着くなり、その遊具に向かって行った。幼稚園の遠足で何度か訪れていたので、やってみたいと思っていたのだろう。早速網目状のロープまでたどり着くが、上手くロープの部分に脚をかけて進まないと、穴に脚が入ってしまうことに恐れをなしたももこは、見ていた私のところに来て、「どうやったら渡れるの?」と聞いた。
子ども達が遊んでいるところに大人が入り込んで、ももこにロープの渡り方を教えても良いが、いや、それじゃないだろうと思い、私はももこに向かって、「近くにいるお兄さんやお姉さんに聞いてみたら?」と言った。
「教えてくれるかな?」と不安げなももこに、「聞いてみないとわからないよ。まず教えてくださいとお願いしてみたらどうかな?」と言って、ももこを送り出した。
様子を見ていると、ももこは小学校高学年らしい男の子に近寄るが、言い出せないままもじもじしていた。さて、どうするのかなと見ていたら、ももこが再び戻ってきた。「聞けないよ。お母さん教えて」
「お母さんが教えるより、上手に遊んでいるお兄さんに聞いてみるのが一番良いと思うよ。もう一回聞いてみたら?お母さんはここで見ているから大丈夫。」と言って半ば強制的に送り出した。
ももこが話しかけようとしていた男の子に再度近寄る。そして、もじもじと話しかけているようだった。男の子は、一緒に網目状のロープを上るところから始まり、ももこに脚をどうロープにかけるか、手はどこに置くかを丁寧に教えてくれている様だった。
ももこは教えられたとおりに手足を置いて、少しずつ進んで行く。途中でロープの穴に脚が入りそうになると、さりげなく男の子は手を差し伸べる。良い子だなあと思いながら私は眺めている。ももこは、すっかりそのお兄ちゃんを頼りにして、これで良い?こう?と確認しながら進んで行く。3分の2程度まで進んだ時、ももこは十分一人で出来るようになっていた。
教えてくれた男の子は、ももこが最後までやりとげるのを見届けてくれた。ももこがお兄ちゃんにお礼を言っている姿を見て、なかなかやるじゃん、ももこ、と心の中で拍手した。
私は男の子に近寄って、「娘に教えてくれてありがとう。おかげで一人でこの遊具で遊べるようになったよ。本当にありがとう」とお礼を言った。ちょっと照れくさそうに、その男の子は笑っていた。
その後、同じ遊具で何度も遊び満足したももこは、帰り道「あのお兄ちゃん優しかった。嫌な顔しないで教えてくれたんだよ」ととても嬉しそうだった。どこの誰か分からない小さい女の子に、丁寧に教えてくれた男の子。今頃どんな素敵な青年になっている事だろう。
何事も自分で「できる」と確信を持たないと次に進まないももこ。人より遅くても、確実に自分のペースで進み続けるももこの姿を色々な場面で見て行く事になる。