音楽に、生かされる。
カツセマサヒコさんの、#人生を変えた一曲 を拝読した。そこに広がっていたのは私の知らない世界だった。モッシュピットも、出てくるアーティスト名もことごとく知らなかった私は、何度も記事を閉じてsafariで検索しながら読み進めた。学生時代はスポーツばかりでバンドとは関わることのない人生だったけれど、カツセさんの文章から忘れかけていた真夏の部室の熱気がした。速乾性のTシャツから、それを身につけた肌から直接香る汗の匂いがした。あの熱を、あの匂いを思い出として消化するにはまだ時間が足りなくて、少し胸の奥の方が絞まる音がした。
私は、どうやら大きな音が苦手らしい。
それに気がついたのはもう十分大人になってからだった。新幹線に乗って旅行に行く時に落ち着かないのは、旅行への緊張ではなく新幹線の床から響く振動音がそうさせているのだということも最近気づいた。
今でも映画の予告映像で腹に響くような音が鳴ると緊張で気が滅入るし、車内で流す音楽の音量が合わない人とは友達になれない。
だから羨ましい。身体を突き上げるような音圧を、恐怖ではなく感動として受け入れられる感性が眩しい。
そんな理由でライブには行けないけれど、それでも多くの曲に人生を支えられた自覚がある。
断ち切れなかった恋を終わらせられたのはback numberの『幸せ』が泣かせてくれたからだし、ウルフルズの『ええねん』で不意に浮き上がる数々のトラウマをねじ伏せてきた。
そんな中でも、今なお私が真っ直ぐ立っていられるのは間違いなく彼女のおかげだ。支えられすぎて一曲選ぶのは難しいけれど、強いて選ぶならこの曲だと思う。
椎名林檎 『絶体絶命』
軽快なメロディに隠された悲壮に、何度逃げ込んだだろう。この曲は何度も、何度も私を救ってくれた。
彼女の歌は、力ずくで立ち直らせようとはしなかった。
ただ、隣で一緒に泣いてくれた。
自分が向いている方向が前だと彼女が信じさせてくれた。目の前が暗くなり、もう立ち上がることさえ億劫になった時、彼女の声はいつもそばにあった。
大丈夫。私には椎名林檎がいる。
そう思わせることで、彼女はどれほどの人間を救ったのだろう。
この曲は、人生の一瞬間を大きく変えた曲ではない。
きっと、私のこれからの人生も変え続ける。
大丈夫。私には椎名林檎がいる。