長月杏。

ありがとう、ここにいます。

長月杏。

ありがとう、ここにいます。

最近の記事

薬では治せないもの

随分久方ぶりにそれは訪れた。 未だに何なのかわかっていない。 名前も無い。あっても教えないでほしい。 常に、心臓に圧を感じる。 誰かの手が近くにあるけど、触れてないけど存在は感じる、それが心臓に居る。 どうしてそうなるのかも、治し方もわからない。 忘れた頃にやってきて、私を世間から少し引き剥がして。気付いたら消えている。 ここ数日、かなり気圧が低いようだけれど、 そんなことは関係ないはずだ。 あってたまるか。 こういう時、薬は効かない。 効くかもしれない。効いてたま

    • でも、今はもういい。

      居酒屋の空気は大抵、橙色をしている。 そこで生まれるのは柔らかい空気で、浸かると暖かく心地いい。 「生?」 「んーーー、生で」 「いやぁーーー、生で」 ふざけているのは耳だけでわかる。私は思わずニヤつきながら、備え付けのタッチパネルを操作する。 返事を聞く前から、生ビールをカートに入れていた。 会社だったら間違ってもこんな聞き方しない。けど彼らは、いや私含めて、一発目には生しか頼まない。それに、嫌なら嫌と言ってくる。 もう既に懐かしかった。その信頼も含めて。 手元のパネ

      • 季節は春だし、それなのに何も変わらないし。

        毎日見ているはずなのに、桜の木が花を落とし、葉桜へ変わっている姿を見て「いつのまにか」と思ってしまう。 葉桜も、綺麗だ。もしかしたら、葉桜の方が好ましいかもしれない。満開の桜のような、底なしの無邪気な明るさというか、愛されている自信全開というか、押しつけがましさが無い。 いや、「押しつけがましい」だなんて偏見だ。桜はただそこで咲いているだけなのだから、「押しつけがましい」と感じたのならそれは受け取る側に問題があるのだろう。 わかっているよ。 桜が散ってしまうのを見ていると、

        • 赤く透き通るその球体は、他のどれよりも私を虜にしました。

           一人で暮らすようになった今こそ毎日の食事を自分で調達するようになりましたが、実家で過ごしていたころは今日の食事をどうしようかなんて気にしたこともありませんでしたし、その問題は私のところまで到達するものではないと思い込んでいる節がありました。キッチンの前に立つ母を冷やかすことはあっても、包丁を握ることはほとんどなかったように思います。  母の立つキッチンの後ろには、キッチンと同じ濃い茶色をした棚があり、そこにはいつも私と弟の好きなお菓子が入っていました。それはクリームが挟まれ

          言葉を発することすらままならないこのご時世で、選びはじめたことです。

          今年3月、私の「新入社員」が終わった。 20人いた支社の同期は4人減った。 「同期で飲もって話してるけど来る?」と消極的に誘われた飲み会はその後音沙汰がなく、さりげなさを装いながら開催の有無を確認するとそのまま流れたのだと知らされた。 開催できなかったのはご時世もあるし仕方ない。本当は小規模ながら開催されていて私の参加だけが流れたんじゃないかと訝しむ気持ちも少しある。仮にも私は誘われていたのだから中止になったことすら当日まで知らせてもらえなかった事に対して憤ってもいいのだろう

          言葉を発することすらままならないこのご時世で、選びはじめたことです。

          京都嵐山で出会う、既知の感覚。 已己巳己(いこみき)

          前触れもなく大きい風呂に浸かりたくなった。 紅葉も拝めたらより良いなと思った。 足は、龍と目が合うあの土地に向かっていた。 嵯峨嵐山駅から坂道を下り、古書店の角を右に曲がる。 メンチカツを買い食いして歩くと、食べ終わる頃に賑やかな通りへ出る。 目の前に天龍寺。人力車が前を横切る。 艶やかな着物姿がちらつき、見頃目前の紅葉は控えめに映る。 天井で睨みを利かせる龍を想い足を運んだはずが、入口の達磨に引き寄せられ諸堂へ足が向いた。 昼過ぎの大方丈は陽の光に包まれ、敷かれた畳をゆ

          京都嵐山で出会う、既知の感覚。 已己巳己(いこみき)

          ある少女の、記憶。

          橙色に照らされた眩しい店内には、スイミングスクールにあるロッカーよりもずっと小さな部屋が沢山並んでいました。一つ一つに名前が書かれていましたが、何が書いてあるのかはわかりませんでした。 お父さんもお母さんも、小さなコップを持っています。私の手に丁度いいくらいの大きさで、お父さんには小さすぎるほどです。 お母さんが金色のお金を入れて、ボタンを押すと小さな部屋の上から水が出てきてコップに入りました。お父さんもお母さんも、別々のロッカーにお金を入れて、そこから出てくるお水を美味しそ

          ある少女の、記憶。

          私は、なぜ憤っていたのでしょうか。 島本理生著 『ファーストラヴ』

          「環菜が、え、と上目遣いになると、無意識に媚びた目つきになった。いつから身についたものだろうか。」 さりげなく織り交ぜられた文章でした。物語全体を揺るがすほどの影響力を持つ場面ではなかったと思います。 それでも私の気持ちが真壁由紀から少しずつ離れていったのは後から見直せばこの言葉からではないかと思います。 島本理生著  『ファーストラヴ』 アナウンサー志望の女子大生がキー局の二次試験直後、父親を刺殺した事件が物語の中で取り上げられています。 注目されたのは逮捕後の台詞

          私は、なぜ憤っていたのでしょうか。 島本理生著 『ファーストラヴ』

          突然すみません、ところで私が探していのは貴方ですか。

          午後八時半。堪らず家を出る。 エレベーターを降りるとすぐ目の前に通りが見える。 静まり返った交差点には車高の低い白のワゴンが止まっている。 後ろに続く黒のヴェルファイアに乗った助手席の女がこちらを見てくる。 プリーツの入った薄紫色のスカートがドアに挟まれて小さく波打っている。 久しぶりに見た人間の口元はぬらぬらと光っていて不快だった。 視線を引き剥がして歩道を歩く。 人通りはほどんどない。 手を繋いだ男女が私とすれ違うために一列に並ぶ。 なるべく視線を向けないよう気を付け

          突然すみません、ところで私が探していのは貴方ですか。

          行先不明の、不在着信。

          朝というには少し遅い、でもまだまだ昼には程遠い中途半端な時間に目が覚めた。 二度寝を試みる身体を無理矢理にでも叩き起こすべく、携帯の画面からブルーライトを摂取する。 携帯を開くと、今から1時間と少し前、まだ胸を張って朝と言い切れる時間帯に見知らぬ番号から着信が入っていた。 0261から始まる番号には全く心当たりがない。 知らない番号から着信が入ったとき、まずは検索をかけることにしている。何の情報も得られないことが多いけど、今回は発信源がはっきりとわかった。 東北方面の、某有

          行先不明の、不在着信。

          『趣味は、読書です』。

          「好きな本を聞くのは、告白だと思っている」 この言葉に出逢ってから、好きな本の話をするのを辞めた。 読書が趣味だと、言いにくい世の中だなと思っている。 本当のことであればあるほど、言いにくい。 大抵、「凄いね」と言われる。 凄いことなんて、何一つしていない。 酷いと、「偉いね」と言われる。 「真面目だね」とも言われる。 言われると、途方に暮れてしまう。 その時の気持ちを正直に、嘘偽りなく、これを読んだ人が嫌な思いをするかもしれないという配慮も一切なく本当の気持ちで言うと

          『趣味は、読書です』。

          好きな人に好きと簡単には伝えられなくて会いたい時に会いたい人と逢えないのは携帯がなかった時代の特権だけど、携帯があったって大切な人に本当に伝えたいことは文字には置き換えられなくて会いたい人に逢いたい事も伝えずに終わるしどの時代でも私は歪んでいるし素直じゃないしかわいげもないし

          好きな人に好きと簡単には伝えられなくて会いたい時に会いたい人と逢えないのは携帯がなかった時代の特権だけど、携帯があったって大切な人に本当に伝えたいことは文字には置き換えられなくて会いたい人に逢いたい事も伝えずに終わるしどの時代でも私は歪んでいるし素直じゃないしかわいげもないし

          置いてけぼりの、赤い籠。

          昔から、自分の部屋の片づけは何一つ円滑に進まないのに公共の施設は綺麗に使用することができている。 この文章を書いている今も、キーボードのすぐ横に晩御飯のカレーが入っていた皿が残っているし、この皿を運ぶために使用したミトンも机の上に載っている。 今日買った水あめはまだ食べたくなるかもしれないからまだ片付けられないし、家に帰った時手に持っていた鍵とマスクも置きっぱなしだ。 読みかけの本は、机の隅の方に追いやられている。 そんな人間でも、公共の施設は綺麗にするものだ。 むしろ、知

          置いてけぼりの、赤い籠。

          少しだけ、背伸びする季節。

          いくつになっても、「お姉さん」に憧れる。 お姉さんって、どんな人だろう。 「かわいい」ではなく、「綺麗」を選ぶ人だろう。 前髪は眉のあたりで切り揃えるのでなく、長く伸ばしてかき上げてほしい。 きっと煙草が似合う指をしていて、 普段歯を見せて笑ったりしないから、彼女から爆笑をゲットできたらきっとガッツポーズが出てしまう。 でもきっと、すぐその綺麗な指で口を隠してしまうから、またどうにかして笑わせてやろうと思う。 強い、ひょっとすると少し偏ったお姉さんへの憧れがあるせいか、

          少しだけ、背伸びする季節。

          彼女の部屋には、ビールグラスがない。

          気付けば、社会人になって1年が経っていた。 1つ年下の後輩が、新入社員になっていた。 久しぶりに会った同期は、すっかり社会人の顔をしていた。 私にはまだ、後悔し続けていることがある。 大学生の4年間、私は無敵だった。 酒と枝豆とたこわさがあれば朝まで飲んでいられた。 盲目で人を愛せたし、顔面から傷ついたし、傷付いてなお人を愛していた。 常に最悪の状況を考慮して行動し、危機管理を怠らない、退屈な元来の私にとってあの4年間は幻のような日々だった。 当時、身がよじれるほど愛おし

          彼女の部屋には、ビールグラスがない。

          ストレス社会と、壊れる私と。

          世は、ストレス社会である。 日々、私達はストレスに晒されながら生きている。 もはや、ストレスを切り離して生活することは難しい。 私達は、ストレスと上手く付き合っていく必要がある。 そのために、自分が現状どれほどストレスを溜め込んでいるのか、客観的に判断するというのはなかなか有用な手段である。 ストレスを過剰に抱えると、言動に現れるものである。 貴方は、どんな行動を取っているだろうか。 まず、イライラする。 できることなら常にご機嫌でいたいけれど、ストレスに晒されたまま

          ストレス社会と、壊れる私と。