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『趣味は、読書です』。


「好きな本を聞くのは、告白だと思っている」

この言葉に出逢ってから、好きな本の話をするのを辞めた。

読書が趣味だと、言いにくい世の中だなと思っている。
本当のことであればあるほど、言いにくい。
大抵、「凄いね」と言われる。
凄いことなんて、何一つしていない。
酷いと、「偉いね」と言われる。
「真面目だね」とも言われる。

言われると、途方に暮れてしまう。
その時の気持ちを正直に、嘘偽りなく、これを読んだ人が嫌な思いをするかもしれないという配慮も一切なく本当の気持ちで言うと、
胸糞悪いな、と思うことがある。
ごめんなさい。本当の言葉で書きたかったんです。

凄いね、と返事をくれるのは本を読まない人だろう。
本を読まないことを悪く言っているのでは絶対ない。
読書は嗜好品だから、好みがあって当然だ。
煙草が好きな人がいれば、匂いも駄目だという人もいる。
甘いものが一日のご褒美という人もいれば、好んで食べない人も。
漫画が大好きな人もいれば、読む習慣がない人もいるだろう。
好みを否定する権利なんて誰にもない。
だから、「凄いね」という返事は仕方ないよな、と思っている。
逆の立場でも、言ってしまうかもしれない。
例えば釣りとか、格闘技とか、
自分が知らない世界を持っている人は眩しく見える。
ダンスやゲームが上手な人を尊敬せずにはいられない。
そんな時、「凄いね」は言いやすいから、出てしまう。

でも、偉くはないんだ。真面目でもない。
「凄いね」とは、圧倒的に違う。
圧倒的に傷つく。
線を、引かれたなと思う。
「私とは全然違いますね」
「あなたのことは私には理解できません」
私には、明確な線引き宣言に聞こえている。
履歴書に書きやすいような趣味だから、なおさらだ。
「真面目」なんて、とうの昔に誉め言葉から破門されている。
つまらない。融通がきかない。堅物。
全部、真面目の同義語だと思っている。
真面目だと言われ続けてきた人間にはそう聞こえている。
歪んでいると、言いたければ言えばいい。
誉めてやったのに言いがかりをつけるなんて可愛げがない、そんなつもりで言ったわけではないのに勝手に歪んだ解釈をするなと、言いたければ言えばいい。二十四年も生きていれば、誰だってどこか歪んでいる。

それからは、書店で本を購入するとブックカバーをお願いしている。
それでも、本の題名をわざわざ聞いてくる人がいる。
「いつもいつも真面目だね~」
「勉強熱心だねぇ~」
そう言って、本の題名を聞いてくる。
何の本を読んでいるのか知られたくないからブックカバーをしているのに、ブックカバーなどものともせず直接読書を遮って聞いてくる。
目上の方なので仕方なく有名な作家さんを適当に挙げると、「あ~知らないわ~」と言い残してどこかへ行ってしまう。
じゃあ聞くなよ。
私がどエロい小説読んでても、絶対真面目だって、偉いって言えよ。
人の領地を土足で踏み荒らしてくれるな。

告白は、好きな人にだけ、丁寧にしたい。
嫌われないだろうかと怯えながら、そっと告白したい。
やっと、大人になったのに。
好きな人とだけ関わって、あとは一人で生きていけないものだろうか。

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