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「シュタイリッシュな?ハーモニカ」 その1 シュタイリッシュハーモニカってどんなハーモニカ?〜はじめに〜

シュタイリッシュハーモニカって、一体どんなハーモニカ!?】 

皆さんはシュタイリッシュハーモニカ(注1 という楽器の名前を聞いたことがありますか?これは南ドイツやオーストリア、スロヴェニアやイタリア北部の「南チロル(注2」などを中心に大変に親しまれている手で弾くハーモニカのことです。「手で弾くハーモニカ」!?そう、シュタイリッシュハーモニカは口で吹いたり吸ったりする、いわゆる「ハーモニカ」を手で弾くような仕組みの楽器なんです。そして、左手側には伴奏するためのベースとコードのボタンがついています。だからアコーディオンの親戚「ファミリー」に加えられています。今から、私が魅せられたアルプスの民俗音楽に欠かせないユニークな「ハーモニカ」についてお話しして行きたいと思います。

(注1 カナ表記については日本では「スタイリッシュ〜」や「スタイリッシェ〜」と表記されることが多いのですが、ドイツ語では語頭のSは「シュ」と発音されることと、ドイツやオーストリアの友人たちの発音を聞く限り、語末のeは割と曖昧に発音されることから筆者は落とし所として「シュタイリッシュハーモニカ」を採用し、この先も「シュタイリッシュハーモニカ」と表記しますのでご承知ください。なお、スロヴェニア語ではHarmonika(ハルモニカ)といえばアコーディオンの総称でシュタイリッシュハーモニカもピアノ鍵盤のアコーディオンも「ハルモニカ」と呼びますが、ディアトニック式の楽器は特に"Frajtonarca”(フライトナルツァ)と区別して呼ぶこともあります。また、スロヴェニア系の移民がこの楽器を持ち込んだアメリカ合衆国やカナダの一部地域では”Button box”或いは”Squeeze box”とも呼ばれますが、英語圏では同名でケイジャン音楽やコンフントなど違うジャンルに使われる押引き異音のディアトニックアコーディオン(蛇腹を押した時と引いた時で違う音がするタイプのアコーディオンの仲間)を指す場合も多いので、お調べの際にはその点にご注意ください。またこれ以外にもまだ幾つかの呼び方がありますが、方言名だったり俗称だったりするので、ここでは割愛します。「他にも親しみ込めて違う方言名前で呼ばれているんだなぁ」とだけ覚えておいてください。

なお、スロヴァキアやポーランド、チェコでもheligonkaやheligónka或いはhelikonkaなどと表記する、仕様が似た楽器が使われていますが文化圏が異なり演奏する音楽が上記の楽器とは異なるため本稿からは除きます。

また、日本人の間では「アルプス」というと「アルプスの少女ハイジ」の絶大な影響でスイスをイメージしがちなのですが、もちろんそれぞれの地域によって細かい違いがありますが、バイエルンやオーストリア、またスロヴェニアの相似性に対して、スイスはかなり独自の文化を色濃く保持しているので本稿では触れないこととしました。

(注2 「南チロル」は現在イタリア領になっているチロル南部(=イタリア北部)のドイツ語系住民の居住するエリアを指す言葉です。旧オーストリア領だった後第二次世界大戦を挟んで国境が改まりイタリアに編入されましたが、その自治や教育などについて議論が続く場所です。文化圏として南ドイツやオーストリア西部などと合致する「アルプス」の一角です。

【百聞は一見に如かず。ちょっと色々聴いてみましょうか!】

さてさて、シュタイリッシュハーモニカだのフライトナルツァだの、初めて名前を耳にした方も多いと思うので、まずはガストホフ(民宿とでも言いましょうか。レストランと宿屋が一緒になったホテルよりは格式ばっていないところ)のレストランを陽気に楽しく盛り上げる、サルンタールのゲプハルトさんをご覧ください↓

どうですか?お気に召しましたか?

次はオーストリア第二の都市【シュタイヤーマルク】州グラーツから、知り合いのシュテファンさんの動画をどうぞ(彼は通信教育にも力を入れてます!)↓

ご機嫌でしたね!!

管楽器のアンサンブルに入るとこの通り↓

また違った味わいで素敵です。

スロヴェニアの国民的音楽家Lojze Slak(ロイゼ・スラック氏)の名曲にして国民的愛唱歌 ”V dolini tihi(静かな谷間・拙訳)” の圧巻のパフォーマンスはこちら↓

ニコニコしたお爺ちゃんの奏でる一台のハーモニカに合わせてこんなに大きな会場が盛り上がるって凄くないですか?私は感動を覚えます!

ユーゴスラビアから91年に独立した今も、郷愁を伴う彼の作品はスロヴェニアの人々にとても愛されていて、集まりでは誰ともなく彼の作品を歌い出して大合唱になることも珍しくありません。

さあ、デュオでインストもお届けしましょう。こちらもスロヴェニアから(この2人には2019年6月に出会って以来色々とアドバイスをもらったり、仲良くしてもらっています。向かって左手側Tomaž Boškinさんはヨーロッパチャンピオンに輝いたこともある実力派。Gašper Belejさんも若手の注目株です)

さぁ、シュタイリッシュハーモニカまたはフライトナルツァに興味が出て来ましたか!?少なくともどのような楽器のお話しかは分かって頂けたのではないかと思います。私はこのジャンルの音楽を聴いたり弾いたりするとマーチやポルカで元気が湧いてウキウキと幸せな気分にもなりますし、静かな曲のしみじみと噛み締めるような味わいも大好きです。いつか日本中で誰もが「シュタイリッシュハーモニカ」や「フライトナルツァ」という名前を知っていて、お友達にも習っている人がいたり、何曲かは代表的な曲を知っていて、パーティーでは誰かが弾くハーモニカに声を合わせて歌ったりする日が来たら嬉しいなと思います。

さて、いくつかの動画をご覧になって、地域や演奏内容によって色んなスタイルがあるものの、キラキラと通りが良い右手側のメロディー音と、ビリビリとまるで金管楽器のチューバのように低い音を出す左手側のベース(ヘリコンバス”Helikon Bass”と言います)が特徴だとお分かりいただけたのではないかと思います)

これから何回かに分けて色んな角度から、このユニークで魅力的なアルプスの民俗楽器「シュタイリッシュハーモニカ(フライトナルツァ)」のお話しをしていきます。ちょっとマニアックに思われるかも知れませんが、今まで興味がある方にも読んで頂ける日本語資料は殆どなかったので少し立ち入ったことについても書きました。また、一方でアコーディオンとその周辺世界に初めて触れる方もいらっしゃる事を念頭に「当たり前」と思われるような事柄にもページを割きましたし少し重複もありますが、楽しんでお読み頂ければと思います。どうぞ肩の力を抜いてお付き合いください!

過去に私が作ったダイジェスト解説動画も併せてどうぞ】↓

【お調べ参考リンク】

 ドイツ語のウィキペディア https://de.m.wikipedia.org/wiki/Steirische_Harmonika 

 英語のウィキペディア  http://www.wikiwand.com/en/Steirische_Harmonika

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二胡とアコーディオンの二刀流「安西創(あんざいはじめ)」と安西はぢめ
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