「シュタイリッシュな?ハーモニカ」 その3 右手の音色いろいろ
アルプスの民俗楽器「シュタイリッシュハーモニカ(スロヴェニア語でフライトナルツァ)」についてお話ししているシリーズの3回目。ご興味がある方は動画や写真も色々と貼ってありますので、ぜひ他の回もどうぞご覧ください。
【3枚リードがスタンダード】
さて、主にメロディを奏でる右手側の音色の「元」となるリード(風圧で振動して音を出す金属片)は通常同じ高さのものが3枚同時に鳴る仕様になっています(ハーモニカを3人が同時に吹くのを1人でできるなんてすごい発明だと思いませんか?)調律は、ピッタリ揃えない方が音同士がぶつかって独特なウネリのある「トレモロ(ビブラート)」が大きくなります。
元々野外で弾いたり、管楽器とのアンサンブルに入ったりしますので音が遠くまで通るように工夫が重ねられて来ましたが、そこにはフランス・パリの下町で生まれたアコーディオンが大活躍するダンス音楽「ミュゼット」の影響も大いにあります。ミュゼットはザワザワしたダンスホールでマイクが発達していない時代にアコーディオンがメインでダンスの伴奏をするジャンルですが、そこで生まれたのが、わざとピッチをズラすという調律方法。そうする事で音同士が干渉し合って主張の強いビブラートを伴った「通る音」になります。この「強い音色」を重用するアルペン音楽の界隈では「ミュゼット 」というとフランスのダンス音楽ではなく「ビブラートのついた音色」を指す言葉として楽器の音色スイッチに常用されています( MMMだけでなくMMの音色もミュゼットと表記される事があります)
【閑話休題】宜しければ一曲お付き合いください。キラキラした MMMの通るメロディと対照的なシュタイリッシュハーモニカの特徴の一つであるヘリコンベース(左手の強烈な低音パワー)にご注目ください↓
さてさて。人々は家の前のベンチ(玄関ポーチやベランダにベンチが置いてあるお宅はとてもたくさんあります)や、ドライブして車を停めた先、ガーデンパーティー、ハイキングをしながら、山や湖のような自然の中など(本当に2000メートル級の山の頂上で弾いていたりする事は珍しくありません!)心の赴くままにシュタイリッシュハーモニカの演奏を始めます。そもそも都市部でない限りは近所の家が密集している訳ではないので苦情を言われる心配はありませんし、一緒に歌い始めたり踊り出したりします。そういう光景を見ていると、アコーディオン文化の共有についてはとても羨ましい限りです。また、よく日本在住の外国の方と地元住民との騒音トラブルがありますが「音」に対するセンスは本当に文化の断面の現れとして興味深い要素だと思います。
【「家の前のベンチ」がイメージ湧かない方のためにまずはこちらから】
【次はスロヴェニアの巨匠ロイゼ・スラック氏の「楽しいワイン蔵」と言う曲を。MVとはいえかなりリアルな雰囲気は出ています】
【今度はスロヴェニアの国旗にもデザインされている最高峰トリグラウ岳2,864mでのハーモニカ登山の様子をご覧ください】
【番外編:スロヴェニアでは、スキージャンプの応援にもハーモニカ。特にシーズン最後のプラニーツァスキー場はお祭り騒ぎ!計点200メートルを超えるとお祝いの曲が生演奏で流れます】
さて、話を元に戻します。この右手のトレモロの「強烈さ」にはランクがありまして、アルペン音楽にも数多くの演奏形態があるため楽器を注文する時には目的・用途(もちろん好みも!)に応じてトレモロの波の強さを変えてもらいます。様々な可能性がありますから、基本的にオーダーメイドをするのが良いのではないかと思います。2020年秋から東京御茶ノ水の老舗・谷口楽器さんではルータルアコーディオン社のシュタイリッシュハーモニカの取り扱いが始まりました。谷口楽器さんを通じて買われる場合には私がアドバイザーを務めさせていただきますので、どうぞご相談ください。
【目的別・大まかに3つのチューニングがあります】
・独奏、特にダンスの伴奏をする場合→強めのトレモロにして、ガヤガヤしたところで弾いても遠くまで届く音色にします。 アンサンブル向きのサウンドというよりはソロでガシガシ弾くイメージですね。昔は冬が長い国ではアコーディオンが当時数少ない娯楽の一角を占めており、その名残として今に脈々と伝わるフォークダンスには伝統の本質を見る気がします(好き)
・管楽器とのアンサンブル→強めか、ややマイルドなトレモロ。特にオーバークライナーというトランペット、クラリネット、バリトン(チューバのような低音楽器)ギター、ハーモニカの5人編成のスタイルでは、バンドが目指すサウンドによっても変わりますが、トレモロが優しい方がモダンな印象になります。私がルータルアコーディオンにオーダーしたボタン式(クロマティック)はこのタイプのチューニングになっています(好き)
【閑話休題2 音色の参考にどうぞ】
・バイオリンやハープ、チターなどとの室内アンサンブル→トレモロが目立ち過ぎない調律(特に、耳が良いバイオリニストの中にはトレモロが強い楽器だと、どの高さのリードに合わせて良いのか混乱してしまい合奏するのが苦痛な人もいます)この「トレモロ無し」はソロ演奏に使っても落ち着いた雰囲気で素敵な仕様です(好き)但し、弾いている内に調律がちょっとでも狂ってくると聴いてても弾いてても気持ち悪いのでメンテナンスの頻度が上がります(=コストがかかります)
さあ、シュタイリッシュハーモニカ(フライトナルツァ)の事が少しずつ分かって来ましたか?まだまだ続きます!
お調べ参考リンク
ドイツ語のウィキペディア
https://de.m.wikipedia.org/wiki/Steirische_Harmonika
英語のウィキペディア
http://www.wikiwand.com/en/Steirische_Harmonika
以前「15分で分かるシュタイリッシュハーモニカ 」という動画を作りましたので宜しかったらどうぞ!
いつも温かいサポートをどうもありがとうございます。お陰様で音楽活動を続けられます!