【シリーズB調達記念 スペシャル対談】 日米のSaaSを知り尽くした投資家・福井氏と語る -シリーズB資金調達までの道のりとanyの将来性- |前編|
堀内:
anyの堀内です。今日はシリーズBまでの道のりについて、当社社長の吉田と、Archetype Ventures マネージングパートナーの福井さんが語ります。それではお2人、よろしくお願いいたします。
まずは、吉田さん、自己紹介そしてany社とプロダクト「Qast」の紹介をそれぞれお願いします。
吉田:
any株式会社の代表を務めております吉田と申します。
私のバックグラウンドは、もともとインターネット広告会社で法人営業を数年経験した後、ゲームアプリの会社でディレクターやマーケターを兼任しておりました。2016年10月にanyを創業し、最初はB2Cの領域でプロダクトを3つ作りましたが、簡単に言うと失敗しました。。しかし、その経験を糧に、次こそはという思いで現在の事業にたどり着きました。私たちが提供している事業内容は、Qastというクラウドサービスです。ナレッジマネジメントの領域に特化し、特に従業員500名以上の大規模な企業で活用されています。
属人化や情報が見つからない問題、日々同じ質問が繰り返される現場の課題を解決するクラウドサービスで となっています。
創業から丸8年が経ち、9期目に入ったスタートアップです。従業員規模は現在26名で、株主様が15社になります。福井さんのいらっしゃるArchetype Venturesさんには約3年半前から投資いただき、多岐にわたるご支援をいただいております。
現在私自身は、anyのCEOとしてファイナンス活動やプロダクトオーナーの役割を担い、3ヶ月ごとにフォーカスする領域を決めて役割を変えながら事業を運営しています。
本日はよろしくお願いいたします。
堀内:では次に、福井さんお願いいたします。
福井:
Archetype Venturesの福井と申します、よろしくお願いします。
私は新卒でNTTデータという、比較的堅めの会社に入社しましたが、約3年ほどで退職しました。その後、仲間たちとスタートアップを起業したり、海外で映画祭を開催したり、現地のVCでインターンをしたり、2社目の起業を経験したりと、様々なことを経験しました。
そして2013年からVCの道に入り、気づけばもう11年が経ちました。よろしくお願いします。
堀内:
ありがとうございます。改めまして、anyでTeamWill & Cultureに所属している堀内と申します。私は最初に人材業界で営業を経験した後、ずっと人事の仕事をしています。初めてスタートアップで働いたときに、「スタートアップでしか働けない!」と思い、それ以降はスタートアップ人事を続けています。
anyには昨年入社しました。熱い思いを持ったメンバーが多いことや、強い組織を作ることを大事にしている点に強く共感し、毎日楽しく働いています。本日は進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
吉田:
最初に一つだけどうしてもお伝えしたいのですが、
福井さんがこうした場に出られるのは非常に珍しいことです(笑)。
このnoteをご覧になる方の中には、Archetype Venturesや福井さんを初めて知る方もいらっしゃるかと思いますが、福井さんはSaaS業界やB2B事業のスタートアップにとって非常に重要な存在でありながら、メディアにほとんど出られていません。
福井:
メディアには出たくないんです(笑)。ずっとそう思いながら生きてきました(笑)。
吉田:出ない理由もすごいかっこいいな、と覚えているんですが...
福井:なんでメディアに出ないか、そんな理由言ったことありました? (笑)
吉田:
僕は明確に覚えています!「投資家が目立つんじゃない。起業家が目立つべきだ」って(笑)。今回の対談オファーも難しいかと思いつつお願いしたら、快諾してくださいました。
福井:基本的に、起業家さんからのお願いは全部引き受けるスタンスです。
ただ、VCは基本的には黒子であるべき・有名になっても良いことは一つもない(笑)ので、特に目立つ必要はありません、というのが理由でございます(笑)。
吉田:ということで、非常に貴重な機会です(笑)
SaaS市場の現状と未来
堀内:
それでは早速、今回のテーマであるシリーズBの資金調達までの道のりについてお話を伺っていきます。まず、資金調達の話をする前に、SaaS市場全体のトレンドについて知りたいのですが、ここは福井さん、いかがでしょうか?
福井:
難しい質問ですね(笑)。非常に言いづらいところですが、実は一社目のNTTデータの時からこのSaaSというビジネスモデルに携わってきました。
いわゆるデータ通信サービスという企画モデルで、自分のリスクでプロダクトを作り、それを使ってもらい、継続的に課金していくというモデルは実は昔からありました。
SaaSのトレンド、ビジネスモデルの名前がグッと上がってきたのは2017〜2018年頃です。特にビジネスモデルとしての完成度や美しさが評価され、2021年には非常に盛り上がっていたと感じます。ただ、その評価が現在では適正なレベルに戻りつつあり、その時々で求められるものが変化してきているのだと思います。
単体のSaaSも引き続き投資対象ですが、最近ではSaaSに何かを掛け合わせたり、異なるスタイルで顧客に価値を提供したり、プライシングモデルが違ったり、顧客の課題解決に合わせてモデルが進化しているのが、昨今のトレンドだと考えています。
吉田:福井さんはB2C領域などに取り組まれたことはありますか?
福井:
やりたいなと思っていますけど 2013年からB2Bがすごいんですよ。「B2Bしかやりません」と言ってお金集めしているので、 B2Bばっかりやっています。だけど、僕が究極的にやりたいのは課題解決なので、それがB2Cだろうと、B2BだろうとB2B2CだろうとC2Bだろうがなんでもいいんですよね。
だから2013年から独立系のベンチャーキャピタルを立ち上げたという意味からすると、その時の山の登り方と勝ち方、というのはB2Bがちょうどホワイトスペースだったんです。息が長いし、トレンドの移ろいがないというところで、かなりいい結果を出せていたので、ここはめちゃめちゃでかくなるなと思ったのももちろんあります。そろばんも弾いてますし...。
というのでB2B領域を選んで入っているという感じですね。
吉田:
トレンドがないという点が、とても美しいと僕も感じています。
僕は前職や、anyの最初のプロダクトでもB2Cを手がけてきましたが、B2Cでは一定期間のトレンドを作ることが重要になります。もちろん、キャッシュレスの領域やエンタメコンテンツなど、普遍的に変わらないものもあります。しかし、コンテンツを作るというのはライフタイムバリュー(顧客生涯価値)が比較的短く、次々と新しいものを投入する必要があり、その中で事業を伸ばしていくのは非常に難易度が高いです。
一方で、SaaSの場合、いきなりドカンと大きな成果を出すことは難しいですが、地道な積み重ねの先に、着実な事業成長があります。この点に矛盾がないのは、とても良いと思います。株価などはSaaSに限らず刻一刻と変動しますが、ビジネスモデル自体や顧客と向き合い続けることで事業が成長するのは普遍的です。そのため、トレンドに左右されにくいのがSaaSの良さだと感じています。
福井:いきなりドカンといってほしいですけどね(笑)
吉田:いきなりドカンといきたいんですけどね(笑)
福井:
真面目な話、SaaSでもいろいろと模索しています。例えば、PLG(Product-Led Growth)やLand and Expand、セルフオンボードモデルといったものを、今まさに探しているところです。
これらのモデルは、いきなり大きく伸びる可能性がありながらも、着実に事業を成長させることができる点が魅力的です。お客様を裏切らず、価値提供を続け、課題解決に真摯に向き合えば、長く使い続けてもらえる。まさに理想的なモデルだと思います。そのため、一つ一つプロコン(長所と短所)を洗い出し、特にコンの部分を改善していく作業を引き続き行っています。
吉田:
福井さんはもともとアメリカでVC業務をインターンとして経験され、現在もアメリカのプロダクトをよくご覧になっていると思います。SaaSという領域において、アメリカの現状と日本の現状にはどのくらいギャップがありますか?それとも、全く違うマーケットだから別物として捉えていますか?
福井:
これは、SaaSそのものというより、もう少し視点を引いて考えると、B2Bのマーケットが全く違います。例えば、僕の以前の職場であるNTTデータは素晴らしい会社で規模も大きいですが、日本のSIer市場とアメリカの市場では、そもそも全く異なるんです。アメリカでは多くの企業が内製化を進める文化があり、SIerの市場規模はそこまで大きくありません。
そのため、アメリカのトレンドを見ることは参考になりますが、そのまま日本に持ち込むのは難しいです。限られた24時間の中で、マーケットリサーチや現場でのフィールドスタディの時間配分をしっかり考えなければいけません。もちろん、向こうのマーケットを見るのは楽しいし、永遠に見ていられるくらいです。でも、やらなければならないことがたくさんあるので、バランスを取るのが重要ですね。最近はアメリカ市場を見る時間が減ってきていて、それは少し悲しいところだと感じています。
吉田:それこそ今年”SaaS is Dead”っていう動画が出回ってましたよね。
福井:
確かにそんな動画出てましたね。“SaaS is Dead”ってタイトル、面白いですよね。なんというか、“E-commerce is Dead”くらい面白いです。だってSaaSっていくつかの構成要素がありますよね。例えば、サブスクリプションモデルであること、ソフトウェアであることなど。そう考えると、“Subscription is Dead”なんて、どうやって言い切るんだろうと不思議に思います。結局、何が“Dead”なのかよく分からないんですよね。業界全体の流れで、キャッチーな言葉を使えばいいみたいな風潮はありますよね。逆に言えば、SaaSが注目されすぎてブームになっているからこそ、その裏打ちで“Dead”なんて言われてしまうんでしょうね。でも、生きるとか死ぬとか、放っておいてくれよと思いますよ。僕たちはずっと真面目にやっているわけですから。
吉田:
確かに、特定のワードや領域に縛られる必要はないですよね。実際に取り組んでいる側からすると、これからも十分チャンスが広がっていくと思います。特に生成AIを活用した事業は、一気に成長している例もありますし、こういう流行りのワードに振り回されない方が良いと思いますね。
福井:
そうなんですよ。たとえば、「AIがSaaSを食う」なんて記事をどこかで見たんですが、「どうやってSaaSを食うんだろう?」とずっと疑問に思っていました。SaaSにAIを組み込むのはとても理解できます。たとえば、エージェントモデルを採用したり、API化によってUXやカスタマージャーニーを進化させるのは理にかなっています。
でも、AIがSaaSそのものを“食う”という表現はよく分からないですね。今年の年末年始も、こういったトレンドワードを含む記事がたくさん出てくると思います。特に「日本の投資家は未来をどう見るか」みたいなテーマの記事が出るのが楽しみですね。
シリーズB資金調達の難しさについて
堀内:
次に吉田さんに今回の資金調達を通じて感じた市況感の違いなどがあれば聞いてみたいと思います。特に2年半前のシリーズAと比べると今話題になってたSaaSの評価もだいぶ異なると思うんですけれども、資金調達活動としてはシリーズAとBと比較して難易度や見られるポイントとかってどう変わりましたか?
吉田:
難度は非常に高くなっていると思います。これは、市況感という時間軸の違いと、シリーズAとシリーズBの違いの両方が影響していて、その結果として難易度が掛け算のように増しているという話です。
まず、シリーズAとシリーズBでは性質が全く異なります。デューデリジェンスで見られる質問の数、要求される資料の量やその深さなど、シリーズAと比べものにならないほど大変だったのは正直なところです。
一般的に資金調達ラウンドが進むごとに要求は厳しくなります。一般論として、シード期では、トラクションがほとんどないため、経営チームの質や、「なぜその課題を解決したいのか」「マーケットがどれほど大きいのか」「将来的にどのくらいのスケールが期待できるのか」といった点が主に評価されます。それが100%に近いと思います。
シリーズAでは、プロダクトがいわゆるPMF(プロダクトマーケットフィット)しているか、その証拠となる具体的な数字が求められます。
そしてシリーズBになると、PMFしていることが前提とされ、Exitの可能性や、計画する評価額で成長が達成できるかどうか、つまり事業成長の確度や根拠が厳しく見られるようになります。将来の数字を描くだけでなく、現在の実績を基にその計画がいかに蓋然性があるか、そしてその計画を実現できるチームかどうかが問われます。これらのポイントがシリーズAとは大きく異なります。
市況感についても難しさがあります。スタートアップの評価額は未上場企業でも基本的に上場企業のコンプス(比較対象)を参考に決定されることが多いです。シリーズAの調達を完了したのは2022年6月でしたが、その後市場環境が大きく変化したことから我々の置かれた市況も大きく変わりました。
福井さんとしては、2〜3年前と比べて現在の状況についてどのようにお考えですか?
福井:
まず大前提として、シードからシリーズAに進めるスタートアップの数は確率的に減っています。これはアメリカでも同じで、スタートアップの数が増えていることもあって、谷がどんどん深くなっている状況です。シードの数自体も増加しています。
さらに、シリーズAからシリーズBに進むスタートアップの数はもっと大きく減少します。これもアメリカでも見られる現象ですが、日本では特に厳しい状況です。今回、anyがそのハードルを乗り越えたことは本当に大きな成果だと思います。
グロースマーケットの特徴を考えると、世界的に見ても稀有なマーケットであり、規模の大小はさておき、IPOへのアクセスが非常に起業家にフレンドリーな環境になっていると思います。IPOって通過点に過ぎないとしても、ハッピーなイベントでもあるので、スタートアップにジョインしてIPOをチームとして体験したいという人にとっては、そういった確率が高くなってきているanyは、今まさにジョインする絶好のタイミングだと思います。
一方で、マーケットが盛り上がりすぎると、その反動で盛り下がるということが起きます。これは誰も悪くないのですが、結果として起業家がその状況をどうキャッチアップして生き残るかを考えなければならない状況になります。私たちの投資先も、懸命に生き延びてくれていることには感謝しかありません。
マーケットは時に結構残酷だなと思うこともありますけど、でも良い時も悪い時も両方あります。ただ大事なのは従業員がいるのでみんなが生き残ることが大事だねという話をよくしています。
吉田:新規でシリーズBで投資されることもあるんですか?
福井:
新規でシリーズBの投資は、私は基本的にやっていません。私たちはお金をお預かりしている立場なので、その時点でどういった戦略で勝つのか、お預かりしているお金をどのように増やすのかという戦略を描いています。その中で、シリーズBが得意な方やシリーズCが得意な方もいらっしゃるわけです。私はどちらかというとシリーズA以前のステージが得意なので、そこにフォーカスしています。「絶対にシリーズBの投資をしない」というわけではないですが、自分の得意分野ではないため、できるだけその範囲内で力を発揮するようにしています。
吉田:
新規でシリーズBに参入する投資家と、既存の株主が追加で投資するケースがありますよね。先ほどお伝えした所感は、新規投資家の間で見るポイントが異なるという話でしたが、既存株主の場合でも、シリーズAとBで追加投資の判断基準に違いが出たりするのでしょうか?
福井:
良い質問ですね。うちでは、基本的に追加投資をする方針で組んでいます。継続的に応援・支援したいというのが基本姿勢ですが、それだけではなく、既存の株主が一番深く事業を知っているインサイダーである以上、その人たちが追加で資金を投入するかどうかをいち早く判断することは、事業成長を評価し、信頼関係が築かれているという証明にもなると思います。リターンの観点から見てもそうですし、成功の可能性を高めるためにも、追加投資はできる限り行いたいと考えています。ただ、もちろん予算は限られていますので、その中で適切に采配しなければならないのが難しく、時に残酷な現実でもあります。そのため、1号ファンドの10億円からスタートし、2号ファンドでは60億円、今回は約155億円とファンド規模を拡大してきました。それも、この追加投資を可能にするための施策と言っても過言ではないですね(笑)。これ、さりげないPRです(笑)。
吉田:本当に稀有な存在ですよね...!
シードやプレシリーズAの段階から参画していただいて、追加投資も視野に入れてくださる方は多いですが、実際に実行されるかどうか、それも金額感や持ち株比率、ファンドをまたいでの投資ハードル、新規投資へのシフトなど、さまざまな要因で難しくなるケースが多いです。
そんな中で、一貫して支援し続けていただけるのは、私たちとしても本当にありがたいと思っています。
….テーマに戻りますと、シリーズBの資金調達がどれだけ難しかったかというと、正直、めちゃくちゃ難しかったです(笑)。ただ、その壁を乗り越えて実現できたことは非常に大きいので、ここからはさらに新しいメンバーを迎え入れ、より一層事業を伸ばしていきたいと考えています。
計画通りの資金調達だったのか?
堀内:
難度の高さは社内でも何度か聞いたりしていたので、「今回シリーズBってすごく難度が高いんだな」と思っていたのですが、シリーズBはもともと予定していた通りに進んだ資金調達活動でしたか?
吉田:
結論としては、資金調達の金額自体は予定通り、むしろ少し上回る形で完了しました。ただし、調達活動にかかった期間や、どの投資家さんから何億円ずつ調達するかといったポートフォリオの計画が完全に想定通りだったかというと、そうではありませんでした。
特にスケジュール感については予測が難しく、シリーズBのようにファンド規模が大きくなると、プロセスが長引くこともありました。そのため、スケジュールの見積もりはもっと長めに設定しておくべきだったかもしれないと感じています。
とはいえ、最終的に目標金額を無事に達成できたことは、非常に良かったと思っています。
堀内:どんな投資家さんに、どんなアプローチをしていったのでしょうか?
吉田:
まずはシリーズAの時は何社か投資家さんを絞っアプローチをしたのですが、今回のラウンドに限っては難度が高いだろうと思っていましたし、金額も2桁億を超える金額を目指していたのでとにかく多くの投資家さんにお会いしようと思いました。
そんな相談を福井さんにしていたミーティングで、事業会社・CVCも含めた各ラウンドごとの全投資家が記載されているシートを一緒に眺めながらご紹介いただけそうな先をピックアップいただきました。実際に、即日中にその方々にコンタクトを取り、Spirのリンクを送って日程を決めるという動きを初期段階で迅速に行いました。
アプローチ方法としては、基本的に既存の株主さんからの紹介が大半でした。
堀内:かなり多くの紹介をしていただいたんですね。
福井:
やはり、どのベンチャーキャピタルに行くかも重要ですが、最も大切なのは、どの担当者に出会うかだと思います。その担当者がQastの価値をどれだけ理解してくれるか、そしてanyの魅力をしっかりと分かってくれるかという点が大事なポイントかなと思いました。
吉田:
それは仰る通りかもしれません。誰がキーマンか、キーマンにいかに検討材料を渡すかという観点では、BtoB SaaSの営業と非常に似ています。
堀内:面談を重ねていく中で、意識していたことは何ですか?
吉田:気迫です(笑)
福井:やっぱ圧ですね(笑)
吉田:
初回の面談で印象がほぼ決まると思うので、2回目や3回目はないと思って、初回60分でしっかり伝えきるための事前準備が大事です。また、面談は全て録画して、その後に見返して、タスクに漏れがないか、その担当者さんがどの部分に注目していたのかを確認するようにしていました。
意識していたのは、本当に厳しいシーンを乗り越えてからのフェーズです。これまではいただいた質問には返答するものの、あまり納得されていなさそうな場合、そのラリーで終わらせて、切り替えて次に行こう、とすることが多かったんです。でも、後がないという状態になってからは、ラリーを終わらせるのではなく、もう一度その投資家さんに質問の意図の確認や、別のアプローチを提案したり、粘り強く食らいつくようにしていました。
福井:
それは大事ですよね。何がダメなのかを聞かないと本当の学習が回らないので、最後まで追いかけていくことは重要だと思います。正直、VCもキャリアを重ねるほど忙しくなる仕事なので、どうしてもアテンションが落ちる時がある。でも、その中でしっかり食らいついていただけるのは、すごく大事なポイントだと思います。
吉田:
そうですね。投資の意思決定にもプロセスがあるので、いかにわかりやすく、他者に説明できる材料を渡せるかは意識していました。
投資家が最も関心を持った「競争優位性」
堀内:
多くの投資家さんにお会いしたと思いますが、その中で一番よく聞かれた質問は何でしたか?
吉田:
これはもう間違いなく競合優位性です。Qastというプロダクト事業の特殊性なのかもしれないですが、解決する課題は非常にわかりやすいと思います。ただ、だからこそ参入障壁がどれくらいあるのか、競合が多くないかという質問は、必ず受けましたね。
福井:
同じですね。よく聞かれるのは、'Must haveなのか、Nice to haveなのか'ということです。Qastは切り口によっていろんなバリューが出ます。例えば、エンタープライズサーチならElasticのようなものもあれば、社内wiki、FAQなどもいろんなツールがあります。そんな中で、なぜQastだけが勝つのかという質問がよくありました。実際にQastは伸びているので、その理由を聞かれますが、本当のところはお客さまに聞けば分かることですよね。でもその価値をどう言語化して、自分のパターン認知の中にスッと入れていくかというのが、投資家の方々にとっては難しかったのかもしれません。
吉田:
基本的に投資家さんは、パターン認知をして、このタイプはこのタイプだからこう伸びそうと予測していくということですか?
福井:
そうですね。確かに投資家はパターン認知の中で予測することが多いです。ただ、そのパターンに入らないものにこそ本当のバリューがあると私は思っています。でも、どうしても癖で「これって結局何なんですか?」といった理解の仕方をしてしまいがちだと思います。
吉田:
最終的にユーザーにとっての価値は、他のサービスでは提供できないことをQastで実現できることです。具体的には、部署や拠点を横断して詳しい人からコメントやリアクションをもらえる体験が提供され、これがQastのユニークな価値になります。他のツールでは、他部署の人からこうした回答がもらえる体験はなかなか得られません。それが結果的にQastにしか投稿されないナレッジやノウハウ、人が集まる環境を作り出し、Qastでしか探せない知識が生まれる。大企業で何万人規模での導入実績があることで、この状態になると他のツールに乗り換えるハードルが高くなり、スイッチングコストが生まれます。この点をいろいろと分解していくと、Qastにはいろいろな切り口があるというのは本当におっしゃる通りで、そこが難しさを感じさせてしまうのかもしれませんね。
福井:
Qastがどの規模の企業に適しているか、どんな業種や業態が適しているか、どのユースケースで使われるかって、実際にいろんなパターンがありますよね。だから、投資家がどこに軸を置くべきか、成長軸をどこに定めるべきかが難しいんです。投資家はだいたいひとつの軸を見つけたがるけれど、Qastの場合は3つや4つの軸がある。選択と集中と言われる中で、どこか一つに集中しないといけないという圧力があるのですが、実際に3つの軸を持っていることが強みだとも思うんですよ。シリーズBの段階ではこの点がうまく伝わらないことが何度かあったと思いますが、次のステージに進むと、投資家が数字を見て理解することが増えてくると思います。シリーズCでは、もう数字からその価値が理解されるようになると思います。
今回は、【シリーズB調達記念 スペシャル対談】 日米のSaaSを知り尽くした投資家・福井氏と語る -シリーズB資金調達までの道のりとanyの将来性- の前編をお送りしました。
まだまだお二人の対談は続くのですが、そちらは後編として近日中にお届けいたします!
オンライン配信のお知らせ
さて、そんな後編を含めた本記事の全容が聞ける、Archetype Ventures福井さんと代表吉田の対談(収録)を明日12月18日(水)に配信します。
記事とはまた異なり、二人の熱量が直に感じられ、様々な角度からanyのことを知っていただける機会ですので、ぜひご覧いただけると幸いです。
開催日: 2024年12月18日(水) 18:30-19:30 / 形式:オンライン配信
後編も近日中に公開いたします!ご期待ください!
まずは前編、最後までお読みいただき、ありがとうございました!
anyでは共に事業を推進する仲間を募集中
候補者の方々にとって、これからは個人としても組織としても新しいチャレンジをしながら事業フェーズをダイナミックに変えていけるステージに突入していきます。最高のチームと、最高の仕事がしたい方のご応募お待ちしております。
現在募集中のポジションはこちらですが、それ以外のポジションも近い将来募集させていただく可能性は十分にあるので、ご興味を持っていただいた方はまずは一度お話しましょう!