anydaynow(えにーでいなう)

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Filmarksからの転載という省エネ映画レビューや、好きな音楽の話を中心に書きます。 Filmarksはこちら。https://filmarks.com/users/7iu

最近の記事

不器用なダッドの思い「スティルウォーター」レビュー

引き込まれた映画でした。静かな作品ですが、その中に生まれる一瞬の揺らぎがどんどん歪みを生んでいくような。後半は息を止めて見入るような展開でした。 この作品をよくしている一つの要因に特に音楽があるように思います。無骨なビルがマヤと学校から帰るシーンなど、ほっこりさせるところはしっかりと可愛い音楽で雰囲気を変える。緩急の付け方がベタと言っていいくらいハッキリしてるから、見てる方も心が休まるし、終盤の別れのシーンでも「そりゃ、ビルも男泣きするよな…」と涙腺がゆるくなる。 またマ

    • 自分の世界の操り人形は誰か?「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」レビュー

      世界一有名な寓話をベースにしているからこそ、ここまで政治性の強い映画になったのだろう。オリジナル脚本ではこのような政治性の強い映画は結局のところ見たい人にしか届かないことを監督は知っている。 この企画が発表されたのは2008年。監督はこの映画を「作らない方が怖い」と表現している。それから15年ほどの歳月をかけてついに公開となった訳だが、監督のメッセージは日を追うごとに重くのしかかる世界となってしまった。 たくさんのイシューが描かれているが、私が一番刺さったのはキャンドルウ

      • モンパチにみるバンドの儚さ〜MONGOL800 -message-を見て〜

        モンゴル800が「MESSAGE」でブレイクしたのが2001年。当時、高校でバンド活動をしていた私は、モンパチのことを数ある青春パンクバンドの一つとして捉えていて、自分にとっての音楽ではないような気がしていた。ただ、あの若さでブレイクしたことは凄いなと思ったし、それにしては随分インディペンデントな姿勢を貫いていた事には好感を抱いていたと思う。 その後しばらくモンパチの音楽に触れることも無かったが、2006年にリリースされた4枚目のアルバム「Daniel」のツアー告知CMを見

        • 「最後の決闘裁判」|呪われた男たち

          久々にどっぷりと夢中になって見入った映画でした。2時間半は長かったけれど、最後まで緊張感たっぷり。 リドリー・スコットは83歳らしいですが、どんなおじいちゃんなんだよ、信じられないです。 かなりテーマ性がはっきりとした映画でした。 女性の社会的地位の問題や、性暴力や、今でいうマタニティーハラスメントなどなどかなり分かりやすく問題提起をしている作品ではあります。 ちなみに海外版ポスターでは、二つの剣のイラストの間にマルグリット(レイプの被害女性)が挟まれて俯いているという

        不器用なダッドの思い「スティルウォーター」レビュー

          「湯を沸かすほどの熱い愛」を批判的に語る

          色々な方のレビュー見てみたらこんなに賛否両論な映画珍しい。これをどう見るかで人な価値観が分かるんじゃないかというくらい笑 ちなみに私は、否の方でした。 集中力途切れずに見れたし、感動的な作品だった。ただしかし、とても政治的に良くない映画だとも思った。脚本も良いし映画として面白いだけに、かなり問題含みな作品だなぁと思わざるを得ない。 その理由を残しておこうと思う。 娘が制服を盗まれ学校には行きたいないと訴えるシーン。母(双葉)は娘に対して「逃げるな、今逃げたらこの先学校に行

          「湯を沸かすほどの熱い愛」を批判的に語る

          映画レビュー|「チョコレートドーナツ」|内発的な動機の強さと、それを阻む全体主義について

          久しぶりに見たこの作品、相変わらずの完璧さだった。 たった98分の映像なのに、観る前と観た後では同じ自分ではいられない。 そういう体験がアートの醍醐味。 学校のお遊戯会で歌をうたうマルコ。 決してうまくは無いけれど、その姿を満面の笑みで見つめるルディ。 あのルディの表情を見る度になぜこんなに心を打たれるのだろう? その理由は、ルディがマルコを愛する動機にあると思う。今作では意外にも、なぜルディがあんなにもマルコに執着するのか描かれていない。さも当たり前のようにルディはマル

          映画レビュー|「チョコレートドーナツ」|内発的な動機の強さと、それを阻む全体主義について

          映画レビュー|「愛してるって言っておくね」|遺された者の生き方についての回答

          アメリカの銃乱射事件によって、娘の命を奪われた両親の話し。 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」や「フランク叔父さん」のレビューでも少し触れたのだけど個人的に「どう角度を変えて見ても起きなかった方がいい出来事」の当事者になってしまった時に、どうやって生きる意味を見出すのか?という点に興味があり、この作品も同じテーマを孕んでいるのでそういった点で解釈を巡らせることになった。 物語に登場するのはお父さん、お母さん、娘の3人。それぞれの感情を「影」で表現しているところがこの作品の要

          映画レビュー|「愛してるって言っておくね」|遺された者の生き方についての回答

          映画レビュー|「シン・エヴァンゲリオン劇場版」

          レビュー書いてる時点でFilmarks平均スコアが4.5。こんなに高いスコアは見たことないですね(笑)。25年付き合ってきた長年のファンの熱さが垣間見れる。 かくいう僕は、小学校5年生で11歳の時からテレビ版を見てきた。当時、深夜アニメで放送していたエヴァの録画をマセたクラスメイト数人とワイワイ言いながら一風変わったロボットアニメとして楽しんでいた。(UCCのエヴァ缶をコンプリートしたくてコンビニはしごしたなぁ…) あれから25年、今年で36歳になる。こんな歳になるまでエヴ

          映画レビュー|「シン・エヴァンゲリオン劇場版」

          映画レビュー|「フランクおじさん」|宗教の功罪と自分の中のカッコつき女性性の発見について

          ポール・ベタニー、ソフィア・リリス、ピーター・マクディッシ。この3人の演技が素晴らしかった。特にピーター・マクディッシのキャスティングはパーフェクト。彼以外はあり得ないんじゃないかというくらい魅力的なキャラクターを演じていたと思う。 フランクおじさんの辛い過去が物語のネックになっている。10代の出来事を46歳になってもずっと引きずっている。世の中には、どう角度を変えて見ても「起きなかった方がいい出来事」というものが存在する。その引き金を自らが引いてしまった時に、その人の人生

          映画レビュー|「フランクおじさん」|宗教の功罪と自分の中のカッコつき女性性の発見について

          映画レビュー|「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

          編集や音楽、俳優陣の演技それぞれとても素敵でしたが、なんと言ってもこの映画はラスト5分で点数が爆上がりしました。この終わり方、天才的ですよね?ちょっと脳みそが追いつかないくらい鮮やな技巧で参りました。。 複数の時間軸が交差していく脚本になっていますが、ラストは時間軸の交差に加えて、「小説の中の世界/現実の世界」までも交差させています。そうすることで「世間が望む幸せな結末/若草物語の原作者オルコットが望んだ自立した幸福のあり方」のそれぞれを描くという神業のような結末を見せてく

          映画レビュー|「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

          映画レビュー|「フルートベール駅で」

          マイケル・B・ジョーダンがチャドウィック・ボーズマンに宛てた追悼文がとても印象的だった。2人の深い繋がりが文章から溢れていて改めて彼の死を残念に思った。 そんなこんなでブラックパンサーを久しぶりに見返そうと思って、アマプラやネトフリを徘徊してたらこの映画を見つけた。しばらく前からいつか見るリストには入れてたけど、よくよく考えたら件のマイケル・B・ジョーダンとライアン・クーグラというブラックパンサー組の2人か、、、そんな事を思っていたら、この作品こそ今見た方が良い気がして見て

          映画レビュー|「フルートベール駅で」

          映画レビュー|「ボヘミアン・ラプソディ」

          なんだかレビューを書くのが難しくてしばらく放置してしまった。 総評としては、みんなが見たいクイーンの物語を綺麗にまとめていて非常に完成度が高い、素晴らしい映画だった。 中学生からクイーンにはまり、家の近くのコミュニティセンターで3日かけてライブエイドのビデオを見きった者としては知ってる話がほぼだった。とはいえ、ボブ・ゲルドフがライブ中に募金額の達成を待ってヒヤヒヤしている描写は新鮮だった。本当にあんな感じだったんだろうか。 この作品は、息子と映画館に観に行った。息子の年は

          映画レビュー|「ボヘミアン・ラプソディ」

          映画レビュー|「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」|この不思議なタイトルの理由とは

          「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」というタイトルはなにを意味してるか。これがこの映画を見終わった人たちの中で最も語られる事のようだ。母を意味するのか、父を煙たがっていたのではなど。だけど、自分には疑いようがなく「これでしょ」というのがあったので賛否両論ある事に逆におどろいた。 劇中、主人公が探査の内容をまとめたノートのタイトルとして表紙にこの言葉が一度だけ出てくる。彼は今回の探査の総論として「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」というまとめをしたという事だ。

          映画レビュー|「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」|この不思議なタイトルの理由とは

          映画レビュー|「さよなら、僕のマンハッタン」|ジェフ・ブリッジスの哀愁が決め手

          物語は大筋は、主人公のトーマスが、親父の不倫現場に遭遇してしまい母親のためになんとか不倫解消させようと躍起になる話。だた、お相手がえらい綺麗な女性だったもんだから、別れさせようとしたのにあれ?自分もハマっちゃってる?といったところで…。 ラスト15分くらいまでは、もう親父と愛人と息子のドロドロの関係で「おー、この暴露は痛すぎる…」とつい声が出てしまうくらい救いが無い。 ただこのドロドロの関係がメインディッシュではなく、あくまで全てを綺麗に回収させるオチがあったという事なんで

          映画レビュー|「さよなら、僕のマンハッタン」|ジェフ・ブリッジスの哀愁が決め手

          映画レビュー|「ありがとう、トニ・エルドマン」

          2016年製作。マーレン・アーデ監督・脚本の映画です。 好き嫌いが分かれる映画だと思いますが、私は非常に面白かったです。 2時間42分という長尺映画ですが、ゆっくり淡々と進む話にどっぷりと浸かりました。 娘をイライラさせる父親の行動、職場の上司との関係性や、同僚との密室の関わり合いなど娘のイネスの周囲で数々のエピソードが描かれます。時には、なぜそのエピソードを?と思われるものもあるのですが、この積み重ねで独特のグルーブを作っていく映画です。 最後のエピソードで少しゆった

          映画レビュー|「ありがとう、トニ・エルドマン」

          映画レビュー|「マリッジ・ストーリー」|感情と状況の乖離

          スカーレット・ヨハンソンは涙の流し方がとても自然で、映画の途中でもハッとしてしまうほど。ハスキーな質感の声が、感情の高まりと共に色を変えていく所も凄く魅力的だ。アダム・ドライバーは、なんというか全ての人に一定の距離感を空けている、そんな独特な距離感を持つ人物像を自然に演じていた。 この作品を、アメリカの裁判ビジネスに巻き込まれ…という視点で紹介している文章をいくつか目にしたりしたけど、僕はそういう話しとは違った印象を受けた。 あくまで自分達の選択でそこに進んでいった訳で、

          映画レビュー|「マリッジ・ストーリー」|感情と状況の乖離