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【掌編小説】永遠の冬茜

 終業式の日に授業なんて無視して図書室で本を読む。学校生活の貴重な時間を無駄にしてなんて思われるかもしれないけれど、僕にとっては読書する事の方が貴重で重要だった。それに図書室にいればあいつが来るかもしれない、そんな淡い期待がある。
 本を読む。調べものをする。あいつが好きなシクラメンについて調べたりもする。
 この学校の図書室は暖房が壊れていて、手が悴む。悴んだ手を気にしない様にしながら、誰にも気付かれずに時間が過ぎ去っていく事がどうしても頭の片隅にある。
 あいつの気を引く為に掃除当番を毎日サボる。サボり続けているから、永遠に掃除当番が終わらない。永遠に掃除当番が終わらなければあいつの気を引き続ける事が出来るかな? なんて思ったのだけれど、今日は終業式でこの学校生活は着実に終わりに近づいているんだなと気付かされる。
 彼女はピンクのシクラメンの花言葉の様な人だ。『憧れ』、『内気』、『はにかみ』。じれったさに心を掴まれてしまう。白いシクラメンの様に、『清純』。そんな彼女が他の男と親しげにしていると、赤のシクラメンの花言葉、僕が勝手に『嫉妬』する。
 寂しくて、誰かと一緒にいたくって、でもどうしようもなく重い暗さに情緒を持っていかれる季節、そんな12月に可憐に咲く花。
 ガラリッ、と図書室の扉が開く。
「行事まるまるサボって何をやってるの。もう夕暮れになっちゃったじゃない。担任だから私が怒られるのよ」
 冬茜が彼女を朱く染める。
 内気なあいつは僕には心を開いてる。そう思う。どういう状況でも誰も無下にしないあなたが『憧れ』なんだ。禁断の恋とかそういうの知らないよ、あんたが好きなだけ。冬茜が僕を朱く染める。

『僕が小説家になれたら、結婚してよ』

 冬茜が僕らをこれ以上無いくらいに赤らめさせた。朱く朱く、滲んで、滲んで、この空間を忘れないと思った。
 先生は、『はにかんだ』。

 何度でも描写出来ると思った、

『永遠の冬茜』。

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