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【大人童話・掌編小説】ホットココア

 かなみちゃんはホットココアを飲みながら泣いています。涙を流しています。
 心を開く事が出来ないのです。
 かなみちゃんの周りには、かなみちゃんを大切に扱ってくれる人はいません。お父さんもいません。お母さんもいません。お友達もいません。信頼出来る人がいません。
 かなみちゃんは、人を信用出来ませんでした。
 気分が落ちてるときは、いつもより見えてしまうのです。仲良さそうに手を繋いでいる、親子を、きょうだいを、恋人達を、友達というものを、みえてしまうのです。
 欲しいのです。それらを、かなみちゃんはどれひとつ持っていないのです。かなみちゃんにはわかるのです、これは自分の持っていない感覚だ、と。たまらなく、のどから手が出る程欲しいのに、手を出すのはあまりにも恐ろしい。
 かなみちゃんにはわかるのです。手の繋ぎ方をしらないから、おそらくそれらを壊してしまう、と。
 ぐちゃぐちゃな感情をあたためてくれるそれが一番欲しいのに、それを壊してしまうのが心底恐ろしくて、それが生まれそうになっても自らそれを壊してしまう。かなみちゃんはよく、「素直じゃないね」と言われます。
 心から。心を。
 あたためて、あたためて欲しいのです。春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も。
 ホットココアを飲むのです。
 春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も。
 涙を流して、鼻水を垂らして、嗚咽を漏らしながら、ホットココアを飲むのです。
 夏の寒い日も、冬の暑い日も。
 心も、身体も、羨望も、嫉妬も、嫌悪も、憎悪も、不快も、心も、身体も、羨望も。
 かなみちゃんは今日もホットココアを飲みながら泣いています。
 なんだか、染みるのでした。

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