「プレイバック」は、レイモンド・チャンドラー最後の長編、これまでの作品と比べて短く、200ページほど。フリップ・マーロウの情感が思いのほか溢れ出て、名翻訳者の清水俊二先生も、異質な匂いを感じる謎を秘めた作品と評しています。執筆直前に、最愛の妻シシーを亡くしてうつ病に襲われ、大量のウイスキーを飲み、自殺未遂までに傷心していました。
イギリスの小説家ガズオ・イシグロがチャンドラー作品を讃えた表現
「人間の孤独・徳義を見事に描き、メランコリックなジャズ・バラードにも似た美しさを備えている」は本当にお見事です。
チャンドラーは、自らの終着駅と予知した「プレイバック」で、フリップ・マーロウの生き様を、さりげなくもあるがまま、Vivid(鮮明にイキイキと)に残したくなったに違いありません。
その中から、珠玉の場面をいくつかご紹介。