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”GRAB GRAB THE HADDOCK"の事。
英国イングランドのハートフォードシャーはハットフィールド出身の4人組ガールズ・バンドのMarine Girlsと言えば、まずまず有名なバンドではあると思います。まだ高校生のTracey ThornとGina Hartman、JaneとAliceのFox姉妹により1980年に結成、相当にローファイながら味のあるDIYサウンドを聴かせるバンドで、Kurt Cobeinはフェイヴァリット・バンドのひとつに挙げています。1枚目のシングル”On My Mind"とアルバム"Beach Party"は、Pat Berminghamが立ち上げたばかりの「In Phaze Records」からカセット・リリースされています。あまり知られたレーベルではありませんが、後にThe Legendary Pink Dots及びヴォーカリストのEdward Ka-SpelのソロやPortion Controlの作品をリリースしているレーベルで、意外な接点を発見。この2枚は、Television PersonalitiesのDan Treacyが主宰するレーベル「Whaam! Records」からアナログ化して再リリースされています。次のシングル"Don't Come Back"と、アルバム"Lazy Ways"をCherry Red Recordsからリリースした後、バンドは解散しています。
Tracey Thornは、Hull大学入学後にBen Wattと知り合い、Everything But The Girlを結成、長らく第一線で活動することになるのは周知の通り。Georgina Hartmanは、Mark FlunderとMoscovite Fiveや Sindy Arthurといったバンドを結成。そしてJaneとAliceのFox姉妹は、ギタリストのLester NoelとSteve Galloway、管楽器奏者のTim Hallと共に、Grab Grab The Haddockを結成します。バンド名は、スコットランドの画家、ブルース・マクリーンの絵の題名から取られています。後のBBC Radio1のリスナー投票による「最低なバンド名」のチャートにランク・インし、不名誉な記録として歴史に名を残しています。
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Janeがベースとヴォーカル、Aliceがパーカッションを、他メンバーは流動的にパートを変えてレコーディングを行い、デビュー・シングル"Three Songs By Grab Grab The Haddock"を、Marine Girlsと同じCherry Redから1984年にリリースしています。プロデュースは、後にMory KantéやGipsy Kings、Salif Keitaなどを大ヒットさせたNick Patrickが手掛けています。何故この人選に至ったかは定かでは無いですが、それ以前にはHeaven17やBritish Electric Foundationのアシスタント・プロデューサーをしていた駆け出しのプロデューサーだった彼が、アコースティックなロウ・ファイ・サウンドに、ジャズやボサ・ノヴァのテイストを持ち込むという、奇しくもTracey Thornの以降の路線と微妙に交わっていますが、まあ、偶然でしょうね。
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翌1985年に"Four More Songs By Grab Grab the Haddock"をリリースしています。今作も、ジャズやボサ・ノヴァのテイストをアコースティック・ポップに絶妙にブレンドした非常に味のある作品となっています。しかし、今作を最後にバンドは解散しています。理由は定かではありませんが、こんな味のある楽曲を残しているにも関わらず、シングル2枚という短い期間の活動はあまりにも惜しまれた。その証拠に、バンド解散後のCherry Redのコンピレーションには、彼女たちの様々な楽曲が、かなりの頻度で収録されています。バンド解散後、Fox姉妹は音楽の道を捨て、それぞれ勉学の道に進んでいますので、この辺が理由でしょうか。Lester NoelとSteve Gallowayは、North of Cornwallisを結成しますが、短命に終わります。Lesterは、解散したHousemartinsのNorman Cookのソロ作品と、Beats Internationalに加入しています。
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恐らく、パーソナルな理由で音楽活動を終了させた彼女たち、その味わいのある良い意味でチープなサウンドが、活動を継続していたら、どう変化していったのか、今さら想像しか出来ませんが、惜しい才能を失ったものです...。今回は、Marine Girlsの流れを汲む、気怠くてダラっとしたヴォーカル(←褒めてます)と、チープながら小気味良いサックスやギター・サウンドが何とも味のあるこの名曲を。
"FOR ALL WE KNOW" / Grab Grab the Haddock