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”IT'S IMMATERIAL"の事。

1970年代後半に活動した、英国イングランドはリバプールのパワー・ポップ・バンドであるYachtsのメンバーだったMartin Dempsey は、バンドを脱退して、元Big in JapanのヴォーカリストだったJayne Casey、Budgie(The Slits,Siouxsie and the Banshees)、元Deaf SchoolのTim Whitakerなどが在籍したバンド、Pink Militaryに加入しますが、バンドが早々と解散してPink Industryに変化すると同時に脱退、Yachts時代の仲間が再び集結し、1980年に結成したのがIt's Immaterialでした。初期メンバーは、元Yachtsの3人=ヴォーカリストのJohn Campbell、ギタリストのMartin Dempsey、キーボーディストのHenry Priestman、それにドラマーのPaul Barlowを加えた4人組としてスタートしています。

[Fish Waltz] (1985)

"Young Man","A Gigantic Raft In The Philippines"といったシングルをインディ・リリースした後、1981年の3枚目のシングル "Imitate The Worm"をリリースすると、ジョン・ピールに注目され、BBC RADIO1のセッションに参加するチャンスを得ます。その後、Wah!,及びThe Mighty Wah!, Black,Pete Wylieなどを輩出したインディ・レーベル「ETERNAL」と契約する頃、キーボーディストのJarvis Whiteheadが加入しています。1年に1枚のスロー・ペースでシングルをリリース、再びBBC RADIO1のセッションに参加して好評を博し、1985年のシングル"Fish Waltz"をインディ・チャートに送り込みます。程なくして「ETERNAL」の親会社だったメジャーのVIRGIN傘下のレーベル「Siren」へ移籍し、バンドの前途は開けていったのでした。

[Driving Away From Home (Jim's Tune)] (1985)

「SIREN」移籍後はリリース・ペースを上げ、シングル”Ed's Funky Diner”が中ヒット、次のシングル"Driving Away From Home (Jim's Tune)が大ヒット、その後もシングル"Space","Rope"をリリースした後、1986年にデビュー・アルバム"Life's Hard And Then You Die"をリリースしています。結成から6年の月日が経っていました。このアルバムには、今作を最後に脱退するHenry Priestmanが加入することになるThe Christiansのメンバーも参加しています。アコースティック・ギターやホーンを使用したカントリーやフォルクローレのテイストとクールなエレクトロニクスとソウルフルなヴォーカル、リズム・マシーンROLAND TR-808などを使用したダンサブルで緩急のあるビートが混ざり合った個性的なサウンドは、多くの音楽誌に支持され、UKチャートにランクインするヒットになりました。この作品は、ボーナストラックを大量に詰め込んで、30周年デラックス・エディションとして2016年に「CAROLINE RECORDS」から再発されています。

[Life's Hard And Then You Die] (1986)

Henry PriestmanがThe Christiansに専念するために脱退、John CampbellとJarvis Whiteheadの2人組となった彼らは、ツアーを一部キャンセルし、レコーディングに専念します。Blue Nileの準メンバーで、エンジニアであったCalum Malcolmをプロデュサーに迎え、一音一音に拘って様々な音の素材を自身で集めて組み合わせ、完璧主義が反映された丁寧に作り込まれた繊細で静謐感のあるサウンドをトータル・コンセプトでドラマティックに組み上げていきました。そして1990年にセカンド・アルバムとなる"Song"が完成します。イギリスの前衛的画家のデビッド・ボンバーグの作品をジャケットにあしらったこの作品は、ダンサブルな部分が後退し、粒ぞろいの楽曲と非常に繊細で内省的なサウンドが美しいアルバムでしたが、同時に非常に前衛的な内容でもありました。この作品は、UKの音楽プレスは概ね高評価だったにも関わらず、商業的には失敗に終わってしまいます。折しもソウルフルなダンス・ミュージックが席巻していた当時のUKで、彼らのサウンドは真逆を行ってしまった。彼らのバックとして始まったThe Christiansが、ソウルフル路線で大ヒットを放ち、完全に逆転されてしまったという...。

[Song] (1990)

そうこうしている間に「SIREN」の体制変更があり、売れないバンドは切られ、売れるものはVIRGIN本体へ移籍となり、SIRENというレーベルは実質終了ということになったようです。レーベル・メイトだったCutting CrewやPaula AbdulはVIRGIN本体へ、あまりヒットが無かったかピークを過ぎたバンド、例えばBreathe,The Mock Turtles,T'Pau,Lies Damned Lies,そして彼らも契約を解除されてしまいます。レコード契約を失った彼らですが、1993年にはニュー・アルバムの制作に取り掛かり、"House for Sale"というタイトルまで決まっていてリリースを待つばかりでしたが、結局のところ、この計画は実現に至っていません。2010年あたりからバンドに動きが出始めていよいよか?と思わせますが、予定が次から次へと延びていき、2017年、2018年...しかし2020年、遂に「Burning Shed」というインディ・レーベルから、実に30年もの時を経て正式にリリースされました。機材は非常にチープなれど、当時の素材に新しい演奏や素材を加えて完成させたアルバムをリリースする根性は並々ならぬものがあり、世に出たこと自体が凄いと思います。が、あまり話題になることはなく...。

[House for Sale] (2020)

非常に優れた音楽性を持っていたのに、いきなりのブレイクで世間やレコード会社は持ち上げ、バンドは完璧を求めすぎてしまったがために、あまり幸福な歴史を辿ることのできなかったバンドではありましたが、彼らの残した素晴らしい楽曲が、少しでも多くの人々の心に残っていくことを祈るしかありません。

今回は、問題のセカンド・アルバムからの名曲を。

"Heaven Knows" / It's Immaterial

#忘れられちゃったっぽい名曲

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