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"THE NAMES"の事。

イギリスという国の音楽の長い歴史の中で、色んなバンドが出てきてはセンセーションを巻き起こし、時にムーヴメントになり、小さな島国から生まれたサウンドが世界的規模で広がっていく事もある。更に巨大な国であるアメリカは、本国での盛り上がりだけでも世界規模並みのムーヴメントとなる。以外の国々ではどうだろうか。例えばベルギーは、Factory BeneluxとLes Disques Du CrépusculeやCrammed Discsといった名門レーベルが多いけど、ヨーロッパ的耽美なカラーが強く、世界的に盛り上がるのは厳しい。そんな中、イギリスの音楽への憧れが強かったため本国では浮いてしまい、国外で活動する資金も無く、実に短命に終わってしまったバンドもいた。このThe Namesなんて、特にそうだったのではないかな。

The Namesは、ベルギーはブリュッセルで1978年に結成されたバンドでした。ベース&ヴォーカルでソングライターのMichel Sordiniaを中心に、ギタリストのMarc Deprez、ドラムスのChristophe Den Tandt、ヴォーカルのIsabelle Hanrezが初期メンバー。メンバーの殆どは、まだ大学生でした。小さなライヴハウスでのギグを重ねて好評を博した彼らは、もっと厚いサウンドを目指して、Christopheがキーボーディストになり、ドラマーとしてLuc Capelleが加入、Isabelle Hanrezが脱退したため、Michel Sordiniaがメイン・ヴォーカルを担当する事になります。結成当初はThe Passengersというバンド名でしたが、イギリスに同名のバンドがいたため、The Namesに変更しています。しかし、そのイギリスのバンドは、早々に消えていったみたいで、後にMichel Sordiniaは「やめとけばよかったかな...」と語っています。確かに簡素なバンド名ですが、覚えやすくていいんじゃないかと思いますけどね。デモ・テープを聴いたWEAは、シングル1枚をリリースする権利を与え、1979年にWEAからシングル"Spectators of Life"でデビューしています。このまま上手くいけばメジャー・デビューできたのかもしれませんが、セルフ・プロデュースで制作されたこの楽曲は、あまり売れなかったみたいで、WEAとしては不本意で、本人達はイギリスのレーベルとの契約を希望したため、インディ・レーベルのFactory RecordsとFiction Recordsへオファーを出し、最終的にはFactoryとの契約に至ります。Joy Divisionのベルギーでのギグ会場で、Factoryの創設メンバーでJoy Division~New OrderのマネージャーだったRob GrettonとMartin Hannettが彼らの楽曲を気に入り、即契約に至ったみたいです。

1980年には、Factoryからシングル"Nightshift"をリリース、プロデュースはMartin Hannettが担当しています。この曲はUKインディー・チャートで35位を記録しています。以降のオリジナルNamesの作品は、すべてMartin Hannettが手掛けています。1982年には、John Peelのラジオ1でのセッションをレコーディング。この音源は長らくお蔵入りしていましたが、2009年に”Radio Session 1982”としてデジタル・リリースされています。同じ年にシングル"Calcutta / Postcards”をFactory Beneluxからリリースした後、デビュー・アルバム”Swimming”をLes Disques Du Crépusculeからリリースしています。これらの作品のクリアーに歪んだギター・サウンドとダンサブルなビート、そして流麗なシンセサイザーのサウンドと流れるような良質なメロディは、彼らが憧れたUKのPost Punk系そのものでしたが、オリジナリティに溢れたサウンドであり、ベルギー出身の彼らが起こした奇跡と言えます。Martin Hannettの大いなる貢献もあったでしょう。しかし、英国の音楽プレスには完全に無視され、同じ年にシングル"The Astronaut"をリリースした後、バンドは解散してしまいました。理由としては簡単で、音楽で食っていくのは難しかったから。大学卒業を控えていた、若かった彼らは将来への不安を感じたみたいです。解散後すぐに勉学に励み、音楽からすっかり足を洗った彼らですが、1985年にはLTM Recordingsから未発表のスタジオ・レコーディングとライヴ音源をコンパイルしたコンピレーション""Postcard Views ‎をカセットのみでリリースしています。

各々、公務員、教師、映画評論家といった音楽とは離れた職業に就いていた彼らですが、友人であるということは変わりなく、連絡は取り合っていたみたいです。解散から10年以上を経過した1994年、Christophe Den Tandt、Marc Deprez、Michel Smordynia、Luc Capelleというオリジナル・メンバーが再結集し、Eric De Bruyneを加えた5人組バンドとして突如として活動を始めますが、何故かバンド名は、Jazzでした。このネーミングにも後悔しているみたいです。1995年にJazz名義でアルバム"Night Vision"を自主リリースしています。これは、同窓会的にレコーディングしたみたいで、これで食おうという意図はなかったらしく、この1枚で再び消滅しています。

過去音源の発掘は続き、2001年には初期シングル&レア・トラックス集”Spectators Of Life”がLTM Recordings(Les Temps Modernes)からリリース、2014年には、Jazz名義と再結成時の音源とIsabelle Antenaのカヴァーなどを収録したコンピレーション”In Time”をFactory Beneluxから、2016年には、1981年にMarc DeprezがVini Reillyに触発されてソロでレコーディングした3曲入りカセットの音源、 Les Disques du Crépusculeが企画した1982年のパッケージ・ツアー「Dialogue North-South」出演時のNIM (Names In Mutation)名義でのライヴ音源を収録したコンピレーションと、非常にリリースが多い。恐らくですが、これらの収益を音楽活動の資金に充て、断続的に活動してるではないかな。その後、2017年にアルバム"German Nights"をFactory Beneluxからリリースしています。流石に初期の様な新鮮なサウンドはありませんが、非常に肩の力の抜けた、明るいポップ・アルバムとなっています。2021年には、Passengers時代のレコーディングから、2009年、2014年、2020年のライヴやスタジオ・デモなどを集めたコンピレーション"Hidden Tracks"をLa Vague Belgeから限定200枚でリリースしています。

再び一般の職業に戻っていた彼らですが、2005年あたりから趣味的にバンド演奏を行っていたみたいです。そして、2007年にブリュッセルのPlan Kで行われたライヴ・イベント 「A Factory Night (Once Again) 」のために再結成し、Section 25、Crispy Ambulance、Kevin Hewickと共にステージに上がりました。このライヴの盛況ぶりに自信を取り戻した彼らは、2009年にフランスのレーベル、Str8lineからThe Namesとしての復帰アルバム"Monsters Next Door"をリリースしています。このレーベルは、フランスのバンドNo Tearsのメンバーが設立したもので、彼らのライヴでヘルプとしてステージに上がることがあったMarc Deprezとの縁でリリースにこぎつけたみたいです。No Tearsのメンバーは新生Namesのメンバーでもありました。間もなく、Christophe Den Tandtはバンドを去っています。2014年には再び再結成してアルバム"Stranger Than You"をリリースしています。その後も断続的に活動し、最新アルバムとライヴも計画している様です。

ヨーロッパ的な耽美さが特色のレーベルで浮いてしまい、ベルギーでも浮いてしまい、Post-Punkが終焉に向かった間が悪い時にデビューしてしまい、正直売れなかったために、音楽で生計を立てるという事にビビって創作意欲に溢れていた時間を棒に振ってしまった残念なバンドですが、彼らが残した初期衝動の存在感は素晴らしかったし、現在の気楽に楽しそうに演奏する肩の力の抜けたサウンドも中々に好きだったりします。結成から40年以上経過して、”音”を”楽しむ”に至った彼らに、幸あらんことを。

今回は、デビュー・アルバムに収録された、彼らの初期サウンドの魅力が詰まったこの名曲を。

“Floating World” / The Names

#忘れられちゃったっぽい名曲


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