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"VIVA SATURN"の事。
1980年代前半、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルス、いや、もっと遡ってカリフォルニア州デイビスのカリフォルニア大学デービス校が出所と思われるインディ・ロック・サークルがあった。そもそもは、学生だったSteve WynnとKendra Smithが音楽的パートーナーシップを開始し、後にDream Syndicateとなる。同じ大学の音楽を志向する若者たちは、ロサンゼルスに集まり、インディ・ロックのスモール・サークルが出来た。Three O'ClockのMichael Quercioがたまたま思い付いたワード「ペイズリー・アンダーグラウンド」が皆んなをまとめるキーワードとなり、ムーヴメントが形成していった。その中で発生したバンドがBangles、Long Ryders、Three O'Clock、Dream Syndicate、Green on Red、Rain Paradeあたり。主にサイケデリックとフォークを混ぜ合わせたサウンドが多かったが、色々な音楽志向の人物がいて、バンドの課外活動のクロスオーヴァー・ユニットが当たり前に行われ、それが元で解散したバンドさえあった、わがままなシーンだった。中には、しっかりと地盤を築こうとしたバンドもいたが、短命に終わってしまったバンドもあり。兄が自由な活動で地位を築いていく一方、それに翻弄された弟の音楽人生はどうだったのか。兄の名はDavid、弟の名はStevenでした。今回紹介するのは、弟が率いたバンド、その名をViva Saturnと言います。
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Viva Saturnを語る前には、まずはRain Paradeありきでしょう。Rain Paradeは、David RobackとMatt Piucciが、ミネソタ州のカールトン・カレッジで意気投合したのが始まり。1981年の事でした。音楽キャリアへ進むために大学を中退して地元のロサンゼルスへ戻り、Davidの弟のSteven Robackを巻き込んで前身バンドを組みます。後にBanglesのメンバーとしてペイズリー・アンダーグラウンド・シーンの中核を為す事となるSusanna Hoffsも一時参加していました。新たなメンバーとしてWill GlennとEddie Kalwaが加入して1982年にRain Paradeの初期ラインナップが完成します。マネージャーは近所に住んでいたAdam Nimoy(Leonard Nimoyの息子)で、彼がEnigma Recordsとの契約を取り付け、1983年にはペイズリー・アンダーグラウンドを代表するフォーキィ・サイケデリックの名作デビュー・アルバム”Emergency Third Rail Power Trip”をリリースしますが、直後にDavid Robackがバンドを脱退してしまいます。Davidは、Dream Syndicate, The Three O'Clock, The BanglesのメンバーからなるスーパーグループのRainy Dayに参加した後、The Dream SyndicateのヴォーカリストだったKendra Smithと新バンドClay Allison~Opalを結成しますが、Kendra Smithの突然の脱退により後任ヴォーカリストとしてHope Sandovalが加入し、間もなくMazzy Starに改名して大きな成功を収めています。David Robackは、2020年に病気のため61歳の若さで亡くなっています。
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一方、Rain Paradeに残されたメンバー、ヴォーカル/ギターのMatt Piucci、ヴォーカル/ベースのSteven Roback、キーボードのWill Glenn、ドラムスのEddie Kalwaは4人で活動を継続。ミニ・アルバム"Explosions In The Glass Palace"は同じくEnigmaから1984年にリリースされ、フォーキィでザラっとしたサイケデリック・サウンドと、ゆったりとしたメロディとヴォーカルは、前作に引けを取らないもので、Davidの脱退による混乱を感じさせないものでした。それもそのはず、今作までDavidはレコーディングに参加していたみたいです。Enigmaとの契約が終了になるとともにドラムスのEddie Kalwaが脱退し、新たなメンバーとしてドラマーのMark Marcum、ライヴでのギタリストが足りないとして、Matt Piucciの大学時代の友人で、Davidが「彼はカールトン・カレッジのDavid Gilmourだよ」と称賛していたギターの名手、John Thomanが加入して5人組となり、メジャーのIsland Recordsと契約します。Islandからのアルバム”Beyond The Sunset”は、日本の渋谷公会堂で録音されたライヴ・アルバムでした。1986年には3枚目のアルバム”Crashing Dream”をリリースしますが、サイケデリックなギターは残っているものの、すっかりクリアーになったサウンドには、もちろん魅力はありましたが、初期の粗っぽいサウンドの衝撃には劣るものとなってしまい、評価は低かった。そのためか、次のアルバムのレコーディングを完成させていたものの、レーベルはリリースしない方針だったため、バンドは1988年に解散しています。
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やっとViva Saturnの登場です。Rain Parade解散後にSteven Robackが新たに立ち上げたバンドがViva Saturnでした。Steven Roback、John Thoman、Will Glennという、Rain Paradeの一部のメンバーで構成されています。Matt Piucciは大学に復学したため不参加でしたが音楽は続けていて、後に重要な役割を果たす事になります。1989年にデビュー・ミニ・アルバム”Viva Saturn”をリリース。フォーキィでサイケデリックなサウンドは、Rain Parade初期を彷彿とさせるものでしたが、アメリカン・ルーツ・ミュージックを消化したアーシィなサウンドと、チェロやオルガンやテープ・ループを用いた多彩なサウンド志向を持ち、何よりも快活な勢いのあるサウンドとスウィートなメロディが非常に魅力的で、まるで新人バンドの様な活きの良さと、抒情的なサウンドが表裏一体となった好アルバムでした。
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デビュー作をリリースしてすぐに、Will GlennはDavid RobackのMazzy Starに加入するために脱退しています。 バンドは、Rain Paradeの旧メンバーで、大学で研究をしながら音楽を続け、Crazy Horseなどに参加していたMatt Piucciに誘われてサンフランシスコへ拠点を移します。Matt Piucciのプロデュースとギターでのサポートを受けてレコーディングを行い、1992年に2作目のアルバム”Soundmind”をリリースしています。既にSteven Robackを中心としたプロジェクト的な色合いが強くなり、Matt Piucci、Barbara Manning、Green On RedのJack WatersonとChris Cacavasなどのロサンゼルス人脈の参加を受け、セッション・バンド的な形態になります。熟練のミュージシャンによるサウンドで粗っぽい部分は後退し、程良くまとまったギター・ポップ作品になっています。
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1995年には3作目のアルバム”Brightside”を、Rain Paradeがかつて所属したEnigma Recordsのサブ・レーベルである Restless Recordsからリリースしています。このアルバムは、Steven RobackとMatt Piucciによるプロジェクトになり、殆どのレコーディング作業を二人で行っています。サイケデリックでジャングリーに跳ねるギターと、バーズ直系の流れるようなアコースティック・ギター、多重コーラスによる魅力的なメロディとヴォーカル、例えてもいいかは分かりませんが、まるでPrimal Screamのデビュー・アルバムや、後期Jesus & Mary Chainを彷彿とさせるピュアなサイケデリアと、ダークでダウナーなサウンドまでが同居した緩急のあるサウンドで構成された、Steven Robackのキャリアを総括する様な完成度の高いアルバムとなっています。が、音楽誌の評価は芳しくなく、Rain Paradeの様なサウンドを期待していたレーベルを裏切った形になってしまった。1998年に4作目となるアルバム”Ships of Heaven”を完成させますが、レーベルはこれをお蔵入りにし、現在までに陽の目を見ることはありません。Viva Saturnは活動を終了し、Steven Robackはソロ活動を始めますが、あまり上手くはいかなかったみたいです。
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その後、2012年にRain Paradeは再結成してライヴを行い、その模様を2013年にライヴ・アルバム”San Francisco 2012”としてリリースしています。再結成Rain Paradeとしての新録の単独リリースはありませんが、2018年のレコード・ストア・デイにリリースされたペイズリー・アンダーグラウンドのコンピレーション"3×4”にDream Syndicate, Bangles, Three O'Clockと共に、Banglesのカヴァー1曲を含む3曲の新録が収録されています。
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誰よりも「ペイズリー・アンダーグラウンド」という言葉を嫌っていたという兄のDavid Robackが去った後にも、兄が作ったバンドを必死に支えたものの終焉してしまい、自身の組んだバンドも幅広くは認められなかったSteven Robackの音楽人生は、なんとも報われないという気もしますが、一人でも多くの人に、このViva Saturnという素晴らしいバンドが存在した事を憶えていただければと思います。今回は、評価しないのは勿体なさすぎる最後のアルバム”Brightside”からのこの1曲を。
”Here Comes April" / Viva Sarturn