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チェスプロブレム解答入門(2) 設定

はじめに

第1回 図面の読み方
第2回 設定
第3回 解の書き方・その他補足事項

連載第2回は、チェスプロブレムの設定について紹介します。第1回に書いた通り、設定(Stipulation)とは、「解答者が解かなければいけない課題と、その手数を示したもの」でした。
さて、ここからの話を続ける前に、チェスの「ルール」と「目的」について明確に区別しなければなりません。

ルールと目的

チェスのルール(Rule)と目的(Objective)について考えるために、一つのたとえ話を考えてみましょう。
あなたは車に乗っており、場所Aに3時間以内に(なるべく最短で)到着したいと考えています。このときに、目的は「場所Aに3時間以内に(なるべく最短で)到着すること」であり、ルールは「その時に守らなければならない交通法規」となります。時速200kmで車を走らせたいと思っても交通法規上NGですし、信号無視をしてはいけません。

これを通常のチェスに置き換えます。チェスの目的は、双方が「相手のキングを、合法手がないような状態にして「攻撃下」におくこと」"to place the opponent’s king ‘under attack’ in such a way that the opponent has no legal move" (FIDE Laws of Chess 1.2, https://www.fide.com/FIDE/handbook/LawsOfChess.pdf)です。端的に言えばチェックメイトです。

そしてチェスのルールとして、それぞれの駒の動きが定められ、チェック放置など禁止事項も同様に定められています。これは常に守らなければなりません。

そして暗黙のうちにチェスの目的の中に、「双方が自身の目的を達成するために相手の目的を妨害する」ということが含まれています。あまりに当然なので通常のプレーではほとんど意識しませんが、これから様々な設定を見ていく上では非常に重要です。

設定(Stipulation)

さて、プロブレムでしばしばみられる設定として、「チェスのルールを変えずに、チェスの目的を変えたもの」があります。それらも含めて、解答競技では主に以下4種類の設定のプロブレムが出題されます。
(参考: これ以外にも設定には様々なものがありますし、「チェスのルールを変える」という設定も存在します(フェアリーと呼ばれます))
なお、以下の紹介においてはナイトをSで示します。プロブレムの慣習ですが、解答においては「どの駒を何の文字であらわすか」を指定できるので、Nに慣れている方はNでも良いと思います。

1. Endgame

これは、チェスのルールも目的も通常のOTBチェスと同じです。設定としては、「白が先に指し、白勝ちを目指す」(+あるいはWinと図面に表示されます)と、「白が先に指し、白ドローを目指す」(=あるいはDrawと図面に表示されます)があります。
例題を挙げましょう。

Cheron, A. Traité Complet d'Échecs, 1927

Win (2+2)

白視点、白番、白勝ちの手順を探します。
ちなみに解は
1. e5! Kd7 2. Kb5! Kc7 3. Kc5 Kd7 4. Kb6; 1…Kf7 2. Kc5 Kg5 3. Kc6! Kg4! 4. Kd7 Kf4 5. Kd6
です。白の初手は唯一であり、一般的にそのあとの白の手も唯一で、黒の手はディフェンスが複数あるようになっています。黒のすべてのディフェンスに対して白勝ちの手順があります。(細かいですが上記の作品は1… Kf7 2. Kb5でも白勝ちです)

2. Directmate

これも馴染み深い設定だと思います。ルールは変わらず、目的が「n手以内に黒キングをチェックメイトする。黒はそれに抵抗する」ことに変わります。n手以内にチェックメイトするような設定は、図面では#nと書かれます。(#2, #3など)
これも同様に白の初手は唯一であり、一般的にそのあとの白の手も唯一で、黒の手はディフェンスが複数あるようになっています。白から指し始めます。

Rice, J. Comm. StrateGems, 2020

#2 (12+7)

解答は以下の通りです。(書き方と読み方は次回紹介します)
1.Qf4! (2. Qxc7#)
1...d3 2.Rf3#
1...dxc3 2.Qc4#
1...c6 2.Qd6#
1...Sb8 2.Qe5#

3. Selfmate

ここからは、チェスの目的が大きく変わります。Selfmateの目的は、「白はn手以内に自分のキングがチェックメイトされるように指す。黒はそれに抵抗する」です。n手以内にチェックメイトするような設定は、図面ではS#nと書かれます。(S#2, S#3など)
これも同様に白の初手は唯一であり、一般的にそのあとの白の手も唯一で、黒の手はディフェンスが複数あるようになっています。白から指し始めます。
ここで黒の「ディフェンス」とは、白の目的に対するディフェンスであるため、「白キングのチェックメイトを避ける」というのがディフェンスになることにご注意ください。
実例を見ながら考えた方がわかりやすいと思うので、紹介します。

Stein, I. L. & Rice, J. The Problemist Supplement, 1999

S#2 (9+6)

S#2なので、白は2手以内に白キングがチェックメイトされるように指すことになります。つまり、1. Qc4#や1. Qd5#は答えにはならないということです。
1.Qb7!としてみましょう。次に2.Qb6+ axb6#とすれば、白キングがチェックメイトになります。黒はこれに抵抗しますが、1…Bxc3#はディフェンスではないことにご注意ください。(白の目的が「白キングがチェックメイトされること」なので、この黒の手はその目的に対して抵抗していることになりません)
次の2. Qb6+に対して2…axb6を強制されなければよいので、そのような手を探すことになります。そしてそれは1…Sxc3と、1…Rxc3(どちらも、2.Qb6+ Kd5!とできます)以外にありません。
なお、それぞれに対して白は2. Qb5+ Sxb5#, 2. Sb3+ Rxb3#と白キングを強制的にメイトするという目的を達成することができます。まとめると以下のようになります。

1.Qb7! (2. Qb6+ axb6#)
1…Sxc3 2. Qb5+ Sxb5#
1…Rxc3 2.Sb3+ Rxb3#

4. Helpmate

最後にHelpmateの設定を紹介します。これは、「最後の白の手で黒キングがメイトされるように白と黒が協力する」という設定です。手数の数え方が少しややこしいのですが、H#nと書かれたら2n half-moveかかる手順を求めます。nは0.5刻みです。H#2と書かれたら(4 half-moveなので)「黒→白→黒→白」と指すことになりますし、H#2.5であれば「白→黒→白→黒→白」となります。問題の設定上、必ず最後の手番が白になります。

なお、ヘルプメイトにはこれまでの設定で見られたような分岐がありません。その代わり、多くの場合においてHelpmateは複数解を持ちます。つまり、異なる初手から始まる手順が複数あるような設定です。解の個数は図面中に必ず書かれます。

これも実例を見ていきましょう。

Kapros, J. & Lois, J. Pr Die Schwalbe, 1978

H#3 (2 sols.) (4+8)

H#3 (2 sols.)なので、「黒→白→黒→白→黒→白」として黒キングをメイトする手順を2つ求めるという設定です。なお、黒から指し始めますが白番の視点(左下がa1)です。
この設定でも、たとえば黒の初手にKb3??とするのは合法ではないということにご注意ください(ルール違反です)。
なお、Helpmateでは慣習的に黒の手から書き始めます。1.xxx yyyとあったらxxxが黒の手です。
解は以下の2つですが、これ以外にはどうやっても黒キングが3手でメイトされる手順がないことをご確認ください。
1. Kc1 Kf8 2. Rc2 Sc3 3. Re7 Sxd3#
1. Kd1 Ke8 2. Bc2 Sd3 3. Be7 Sxc3#

以上で設定の紹介を終わります。このあとは、今回簡単に記載した解の記法と落穂拾いを行い、連載を終了します。

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