名作を訪ねる(3)
第3回
第3回は、予告通りセルフメイトを取り上げます。セルフメイトは、白が自分のKがチェックメイトされるように黒を強制し、黒は白のKをチェックメイトしないようにする、という設定です。セルフメイトは意外と歴史が古いジャンルで、ヘルプメイトよりも古くから存在したことが知られています。
セルフメイトのなかの一つのジャンルとして、Fata Morganaと呼ばれるジャンルがあります。これは、「白が初手をパスすると黒は次の手で白Kを強制的にメイトすることになるが、白にはパスの手段がない」というものです。第3回ではFata Morganaの作品を紹介します。
Karl Adolf Koefoed Larsen, 1st Pr Fränkische Heimat, Fata-Morgana-Turnier, 1927
この盤面を見てまず気づくことが、黒の駒は動きが非常に制限されている、ということです。多くの駒がピンされており、よく見ると黒には…exd2#しか手がありません。
セルフメイトの目的は白が自分のKをチェックメイトされる状態に持っていくことなので、白はここでパスできれば目的を達成できるのですが…
驚くべきことに、白にはパスできる手がありません。例えばいかにもそれらしそうな1.Bh7?は1…exd2に2.Qxd2と取れるようになってしまいますし、1.Qd7?は1…Kf6!、1.Qf8?は1…Kd5!と逃げ道が空いてしまいます。
さて、それではどうすればよいのかですが、白には1…exd2#を放棄する1.Bxc2!という手がありました。この手の効果により、1…exd2がメイトにならないほか、黒は1…bxc2も指せるようになっています。
一見失敗に見える手ですが、1…exd2+にはなんと2.Kd1!という手があり、ここで黒の手を考えてみると2…bxc2#しかなくなっています。
1…bxc2には今度は2.Qf8とします。白Bが動いたことでd5が押さえられているので、今度は黒は2…Kd5とできず2…exd2#が強制されます。
まとめると、解は以下のように書けます。
解
1.Bxc2! zz.
1…exd2+ 2.Kd1 bxc2#
1…bxc2 2.Qf8 exd2#
この作品は1914年から1944年の最良のチェスプロブレムのアンソロジーであるFIDE Album 1914-1944の第2巻に収録された作品です。
次回予定
次回はプルーフゲームを紹介する予定です。