チェスプロブレム解答入門(1) 図面の読み方
はじめに
第1回 図面の読み方
第2回 設定
第3回 解の書き方・その他補足事項
今回より、「チェスプロブレム解答入門」を開始します。この連載の目的は以下です。
・OTBプレーヤーにチェスプロブレムおよびその解答競技について知ってもらう。
・難解なものが多い、チェスプロブレムの専門用語を解説する。
最終的には、本記事を読んだ方が1月に開催される解答競技(International Solving Contest)に参加できるようになることを目指します。
本連載では読者の方はチェスの駒の動き、チェスのルール、チェスの目的、および記譜法についての知識があることを前提とします。(OTBあるいはインターネットの大会に参加できるくらいの知識を想定しています)
本連載では以下については紹介しないか、必要最小限の紹介といたします。以下に関しては、別途機会を見ての紹介といたします。
・チェスプロブレムの芸術性、テーマ、タスクについて
・フェアリープロブレムについて
第1回となる今回は、チェスプロブレムの図面の読み方を紹介します。
図面
解答競技も含め、チェスプロブレムの図面はおおむね以下のようになっています。
Dieter Müller, 1st Prize Schach, 1965
それぞれについて説明します。
出典
図面にはプロブレムの出典が付記されます。こちらの場合は、Dieter Müller, 1st Prize Schach, 1965がそれにあたります。基本的には、作者名(Dieter Müller)、雑誌名(Schach)、初出年(1965)、もしあれば受賞結果(1st Prize)を記載すれば十分とされています。
なお、解答競技等の場合には、問題には出典が付記されず、のちに配られる解答に出典が付記されることもあります。いずれの場合でも、出典は必ずどこかに書かれることになります。
(学術論文等の文化をご存じの方には親しみ深いかもしれません)
問題番号
この図では1.と書かれているものです。これはここでは特に意味はありません。チェスプロブレムの専門誌等ではその雑誌に対しての通し番号が降られることがあります。
局面図
プレーヤーの方には馴染み深いと思われる図面です。解答競技に出題されるようなチェスプロブレムの場合は、(黒から指し始める場合でも)白視点、つまり左下がa1になります。
また、チェスプロブレム全体の制約として、「局面図は、ゲーム開始局面から合法手のみを続けて到達した局面でなければならない」という制約があります。ただ、解答競技で問題になることはほとんどないと思います。
(歯切れの悪い言い方になっているのは、「局面図は、ゲーム開始局面から合法手のみを続けて到達した局面でなければならない」という条件の下で、局面図が黒視点(左下がh8)であるということが証明できる、というプロブレムが存在するためです。ただし、そのようなプロブレムが通常の解答競技に出題されることはないはずです)
設定(Stipulation)
上記の図面では、#2と書かれているものがそれにあたります。設定とは、「解答者が解かなければいけない課題と、その手数を示したもの」です。
ここで書かれている#2とは「2手ダイレクトメイト」を示します。これは通常イメージされる「2手メイト」とほとんど同じで、「白が初手を指し、その手に対して黒がどのように対応しても白の2手目で黒キングをチェックメイトにする手を求めよ」という意味です。解答競技では、白と黒の役割が入れ替わる(つまり、黒番2手メイトを求める)ことはありません。ダイレクトメイトでは、常に白が黒キングをチェックメイトします。
他にプレーヤーに馴染み深い設定としては+(Winと書かれることもあります)と=(Drawと書かれることもあります)があります。これはそれぞれ、「白番から指して白勝ち手順を求めよ」と、「白番から指してドロー手順を求めよ」という設定に当たり、両者は併せて「エンドゲームスタディ」と言われるジャンルになります。ここでも白と黒の役割が入れ替わることはありません。
解答競技では上記のダイレクトメイトとエンドゲームスタディの他に、ヘルプメイトとセルフメイトが出題されます。これらの設定については次回紹介します。
駒数
12+10と書かれているものがそれにあたります。これは白黒双方の駒の数を示しています(白が12駒、黒が10駒)。これが問題に表示される理由は私は詳しく知りませんが、チェスセットを使って解答するときに、駒の数を数えることで正しく駒が並べられているかをチェックすることができます。
(余談ですが、7駒以内のチェスプロブレムはMiniatureと呼ばれ、美的に好ましいものと考えられることが多いです)
以上で図面の説明を終わります。次回は設定(Stipulation)の紹介、特にヘルプメイトとセルフメイトについて詳しく見ていきたいと思います。